第7話

……… mikoto ………


 朝、目覚めると棗さんが帰って来ていた。


「起きたか?」


「……棗さん」


蝶華ちよかに会ったんだって?」



 棗さんは隣に寝転がる。


 『蝶華ちよか』は昨日の女の子のことかな。



「あ、の……ごめんなさい」


「美琴が謝ることじゃねぇよ。ただ言いつけを守らずに部屋を出たのはマズイな。何か用事あったのか?」


「……眠れなかっただけです」



 人肌がないと眠れないなんて言えない。


 最低な女じゃん。



「あの、蝶華さんって鈴兎りんとさんの婚約者さんですよね?」


「婚約者っつーか、虫籠の蝶だろ」



 そう言う棗さんの顔はなぜか悲しさが表れていた。


 こんなところにいたらダメ……か。


 ここが裏社会のヤクザの家ってことは分かる。


 でも私にはこの場所しかない。


 あの子が言うほど悪いものでもない。私にとって素敵な場所でしかないから。



 温かな食事は三食手作り。

 それだけじゃない。誰かと食べれる。


 毎日お風呂に入ることができる。

 温かい湯船につかれる。


 『おはよう』『おやすみ』

 挨拶を交わす人がいる。



 裏社会なんて言うけど、前に私がいた家のほうが地獄だ。



「ちよちゃんと何か会話した?」



 ちよちゃん。


 棗さんは蝶華ちよかさんと仲がいいのだろうか?



「ここにいたらダメって言われました」


「ああ、そう。そりゃあ鈴兎りんとも慌てるわけだ」


「でも私は……」


「美琴は幸せだもんなー。俺の可愛いお嫁さん?」



 棗さんは私の上にまたがって、くすぐるように頬にキスをした。


 頬から鼻先、あごやおでこ。


 ゆっくりと唇にキスが落ちる。



 朝で明るいのに、なんて恥じらいが飛んでしまうくらいに棗さんは愛してくれた。

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