第2話

……… mikoto ………


 ボロアパートに帰ると両親が消えていた。


 その代わりにいたのは、黒いスーツの男たち。



「よーやく帰って来たか。お嬢ちゃんは」


「待たせやがって。つーかこの女、売り物になんの?」



 この状況を例えるならなんだろう。


 最悪? 残酷? 捨てられた? 裏切られた?



 答えは多分全部だ。


 でもいつかは訪れると思っていた光景。もちろん親が私を残して借金から逃げたってことだろう。



 私、鈴木すずき美琴みことは生まれた時から愛されたことは一度もない。


 捨てられたこともない。

 でもそれだけで愛されてるとか、幸せだなんて言わないでほしい。



 父親は何度も変わった。母親は私を産んで変わらず。



 親なんていないも同然で、昔っから知らない男と身体を重ねてはお金をもらい、それで学校に通ったものだ。


 何度か子供ができたっぽいけど全部流した。そのせいで体はズタボロ。


 それでも、誰かに触れている時間だけは幸せだった。


 愛されてると錯覚したから。



「お前のクソ親が借金を残して逃げてよ。どう落とし前をつけてくれるんだ?」



(その通りクソ親ですよ)



 っていうか売り物とかなんとか話してんだから、絶対にそっち方面だろ。


 でも、この身体が金になるなんて思わないけど。


 そのクソ親のせいで体中は傷だらけ。


 男に抱かれる私を気にくわない母親が殴り、酒によってイライラした父親が殴り、酷い時にはお湯をかけられる始末。


 病院になんて行ったことがない。


 そんな金ないし、こんな惨めな姿をさらしたくなかったから。


 ただ一度だけ見知らぬ男に助けられたことがある。その人はとても綺麗で片目に眼帯をしていた人。


 あの人の手は冷たくてそれが妙にくすぐったかった。


 顔つきや服装、雰囲気が「ヤ」の付く何かだろう。

 極めつけは腕に見えたイレズミ。



 それから連行され、アパートを出たときに彼らは現れた。



「ようやく見つけたよ。さすが総長」



 見覚えのある眼帯の男性と髪の長い着物の男性。


 それから数人のスーツを着る男性たち。



「どうでもいいけど、連れて帰るんならさっさとしろ。金は自分で払え」


「わあってますって」



 そんな会話をする二人に私を捕まえる人たちの手が強くなる。



「ってわけで彼女はいくら?」


龍宮会りゅうぐうかい!?」


「彼女を買い取りたい。いくら?」


「買い取るだと?」


「ああ。倍を出そう」



 ……倍?


 眼帯の青年は私の手首を掴み、自分へと引き寄せる。


 爽やかで清潔な香りが鼻をくすぐった。



「倍っつってもなー。倍になると三億、か?」



 そんな借金してないんだけど。

 どんだけ使えばそうなるわけ?


 眼帯をする男性の後ろから人が現れ、銀色のケースを取り出す。


 それを広げれば山のようなお金の束が。



「美琴、今日からお前は俺の女だ」

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