ハゲですがお金持ちでした
さわさわ、ペタペタと、何度確認してもミヤの頭には髪がない。
「えぇ…と?」
「ミヤ、その……言いにくいのだがね、ちゃんと説明するからね」
「あい」
フェンリルが居住まいを正すように、楽に伸ばしていた後ろ足を折りたたんで、いわゆる伏せの状態になった。
「その……、ミヤの頭髪は全部抜け落ちてしまったみたいなんだ…」
「そょーでしゅか。魔力かたしょーが原因でしゅか?」
「あ、あぁ。それとね、顔に大きな痣が出来てしまっていてね…」
「ありゃー…、しょれはちょっとイヤでしゅね」
「………ちょっとなのかい? いや、その、落ち着いているね? 髪がなくなってしまったのに」
「髪がないにょは、にゃれてましゅ」
「……慣れてると言ったのかい?」
「あい。びょーきが原因で10年くりゃいありませぇんでしたし、たぶん、まおーの時もなかったでしゅ」
地球では原因不明の病でホルモンの異常が起こり、髪がほとんど抜けてしまった。以来、スキンヘッドだったミヤにとって髪がなくなるのは悲しいが、慣れていると言えば慣れていた。
「髪がなのは帽子とかきゃぶればいいだけでしゅ。けど、あじゃ(痣)は…大きいでしゅか?」
「そうだね…。右側の額から頬にかけて青紫色の痣が浮かんでいるよ」
「ありゃー。しぇっかくきゃわいい顔にちゅくってもらったのにぃ…」
両の頬を小さな手で挟んで「ぶーっ」と言う顔を作るミヤにフェンリルは内心とてもホッとしていた。
髪を失い、顔に大きな痣が浮かんでいるなんて知ったら、ミヤはどれほど落ち込んでしまうかと心配していたのだが、フェンリルの想像よりもはるかに軽いミヤのリアクションに安堵してしまった。
だが、
(髪がないことに慣れているなんて……地球では苦労したのではないだろうか…)
と、転生する以前の
何か彼女のためにしてやれることはないかとフェンリルの中でミヤに対する庇護欲がどんどん高まっている。
「そうだミヤ、創造神様たちがくださった鞄の中身の確認が出来ていないんじゃないかい?」
「あ! はい、見てないでしゅ」
転生の間際にリューエデュン神と宇宙神に与えられた服と鞄。
ミヤはそれを身につけていたが、何も確認できていない。
今のミヤの服装は、フード付きのポンチョやケープと呼ばれる腰元あたりまで覆う温かそうなベージュ色のアウターと、その下に袖の長い前ボタンの白いシャツ、カーキ色のズボンに革製と思われるショートブーツだ。
そして斜めがけの茶色の小さなカバン。地球の幼稚園児が肩からかけている黄色のカバンに雰囲気が似ているが、チャックのような物はなくターンロックと呼ばれる金具をひねってカバンの蓋を開け閉めするタイプだ。
地球で見たことのある幼稚園カバンよりずっと頑丈そうだ。
「ミヤが身についてけている物には特殊な加工がしてあってね、防汚に防刃効果と耐裂効果があるし、防寒、防熱効果もついているんだ」
「えっ!?」
言われてみれば、昨晩は土の上に倒れて失神していたはずなのに、ミヤの服には汚れひとつついてない。それに寒くも暑くもなく、快適だった。
「ミヤの身の安全を考えて、創造神様たちが準備してくださったんだ」
「ひぇ…っ」
そんな素晴らしい物をありがとうございますーー!! と、ミヤはその場で両手のひらを合わせて天に向かって感謝の気持ちを送っておいた。
フェンリルが「カバンの中を見てごらん」と言うので、ミヤは一度カバンを肩から降ろし、ターンロックを回してカバンの蓋を開けた。
「え?」
カバンの中を覗くと真っ暗だった。
「『マジックバック』だよ。スキルのアイテムボックスのような物だよ」
「あ! ガインしゃんも持ってるって言ってた」
ちなみに、ガインが持っていたマジックバックは使用者制限がなく、誰でも使えてしまうが、ミヤの持っているカバンはミヤにしか使えないようになっていた。
「中に手を入れてごらん。手を入れたら中になにが入っているかわかるはずだよ」
「あい」
言われた通りカバンの中に片手をズボッと入れてみれば、
・アダマンタイト製万能ナイフ(小)
・エリクサー 10本
・ポーション 100本
・ポーション・上級 100本
・ポーション・特級 100本
・毒消し 100本
この時点でミヤの口からは「ひぇっ!?」と中身に驚いて変な悲鳴が上がっている。
・ミンミン鳥の安眠具(枕・羽毛掛け布団・敷布団)
・バインドポインズンスパイダー製の布 5枚
・歯磨きセット(地球産) 10セット
・リンスインシャンプー(地球産) 10本
・ボディソープ(地球産) 10個
・洗顔料(地球産) 10本
・コットン100%ハンカチ(地球産) 50枚
・ポケットティッシュ(地球産) 100個
・のど飴(地球産) 100個
(ちょっ、数! 数おかしいっ! てか地球産って何!? 宇宙神様っ!? 宇宙神様が入れたのっ!?)
・金貨 1,000枚
・銀貨 10,000枚
・銅貨 10,000枚
・鉄貨……
「ひぃぃっ!?」
もう見てられなくなって手を引っ込めた。
そんなミヤの様子を不思議そうに見ていたフェンリルが「どうしたんだい?」と声をかける。
「……あにょ、なんか、いっぱいありしゅぎて…、お、お金もいっぱいっ!」
「あぁ、ミヤを心配して色々な物をたくさん詰めてくださったんだろうね」
「金貨1,000枚…、ピカピカの硬貨が21,000枚以上も…!」
硬貨のあまりの枚数にミヤはへなへなとその場に座り込んでしまった。
この世界の金・銀・銅の価値は分からないが、おそらくとんでもない金額がこの小さなカバンの中に収められている。
「ふぇんりりゅしゃま…お金いっぱい、こわいれす…」
「え? こわいって…、持っていて損なことはないと思うよ?」
「しょーかもしれましぇんが…、絶対子どもが持ちゅ金額じゃないれしゅ…金貨1,000枚なんて大人でも持ち運べないでしゅよね?」
今後のミヤの事を考えると、お金はあった方がいい。
服や食料を買ったり、いつか家を借りる事もあるはずだ。それに学校へ通う可能性だってある。何しろ地球では22歳まで学んでいたそうじゃないか。
だからお金は多く持っていた方がいいとフェンリルがミヤに言うが、
いやいや、多すぎる。
この世界は物価が高いのかもしれないとも考えたが、それにしても例えミヤが大人の身体だったとしても個人が持ち歩く金額じゃないはずだ。
21,000枚の硬貨を手に持って歩くのは重さてきに無理だろう。そう考えると個人が持ち歩く金額じゃないはずだ。
何より、そんな大金を神様たちからお借りしている事実が重い…っ!
(無駄遣いなんて絶対にできない…!)
ヲタ活なんて絶対できない。(する予定もないが)
「うぅ……、お金は自分でかしぇぎたいでしゅ…」
「創造神様たちからいただいたお金は使わないのかい?」
「……できるかぎり、ちゅかわないようにしたいでしゅ!」
「ほう…」
今すぐ金を稼ぐのは無理だとミヤも分かっている。だから可能な限り、必要に迫られるまではなんとかやりくりしたいと思った。
フェンリルは金はもらった物なのだから好きに使っていいと考えている。だが、ミヤはそれを良しとせずに自分で稼ぐと言い切ったのだ。
ならば、手を貸してやりたいと思うくらいにはフェンリルはミヤの自律心に関心していた。
ちなみに、カバンの中には鉄貨100,000枚も入っている。
この世界の貨幣を地球の日本の円に換算すると、
・金貨1枚 = 100,000円
・銀貨1枚 = 10,000円
・銅貨1枚 = 1,000円
・鉄貨1枚 = 100円
となっている。
なのでミヤが確認できた貨幣だけでも2億1千万円あり、小さな肩掛けカバンの中には合計で2億2千万円入っていた。
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