種族は龍人族です

「ミヤコ、そろそろ時間のようだ」

(時間? なんのだろ?)

「転生の時間だよ」


フェンリルがそう言うと、京子の背後からリューエデュン神が現れ、その後ろから小さな子供を抱いた宇宙神が現れた。


「ミヤコ、時間です」

「あ、はい!」


つい反射で返事をしてしまったが、内心は…



うわぁぁぁぁあぁ! もう転生するの!?

どこに!? 私ちゃんと長生き出来るかな!?

あ、そういえば魔獣とか言うヤバイ生き物が居るんだっけ?

あ、でも転生するって誰かの家の子になるのかな…? 安全?

いや、わたし人の子として転生できないって事は外っ!?

身体動くかな…? 私次第で動くって言ってたけど…!



と、不安と恐怖が津波のように押し寄せ、存在しないはずの心臓を緊張でバクバクと跳ねさせている。


「ごめんなさい、急すぎましたね」

「あ、いえ! その、はい…」

「けど、時間があまりありません」

「時間がない!?」

「人の魂は長い間神界に居られないのです」

「あ、なるほど!?」


ならしゃーないね! と、半ばやけくそな気持ちになってしまっている。


「ミヤコ、落ち着いてください」

「……はい、スイマセン」


リューエデュン神の言葉に京子の気持ちが自然と落ち着きを取り戻す。

これも所謂、神様パワーだ。


「リューエデュンの、まずは京子に身体の説明を」


そう言いながら宇宙神が腕に抱いた子供から手を離すと、その子供は京子の目の前にふわふわと飛んできた。


「ミヤコの新しい身体です」

「この子が…」


見た目はいたって普通の子供だった。

なお、服は着ていないので女の子なんだとすぐに分かった。


見た目は2歳から3歳くらいの幼児だ。

髪は黒いが、顔の作りは見慣れた東洋人顔ではなく外国人のように少し掘りが深い。しかも子供ながらに鼻筋が通っている。目は薄っすら開いているので、その瞳の色が金色だと言うことは分かった。


「魔力過多症の事があるので赤ん坊で生まれるのは危険だったため、3歳ほどの年齢で作っています。種族は『龍人族』と言います」

「龍人族…」


思わず、背後に居る古龍の方を振り返ってしまった。

古龍はくわっと目を見開き、京子の新しい身体を見つめていた。


「察しの通り、古龍を祖とした人族です。リューエデュン世界の中で最も魔力が高いのはそこの古龍なので器の素にしました」

「古龍神様がご先祖様…っ!」

「はははっ! ワシの末裔とは面白い種族を作ったのぉ!」


カラカラと本当に愉快そうに笑う古龍の姿に、京子も釣られて面白い気分になってきた気がした。

これも所謂神様パワーの影響なのだが、神のような上位の存在に、人の魂である京子は影響されやすいのだ。


「リューエデュン様、その龍人族とやらは成人して『角』は生えるのか?」

「角っ!?」

「ドラゴンは子龍こりゅうから成龍せいりゅうになると角が生えるのだ」

「生えるんですかっ!?」

「生えます」

「生えるっ!!!?」

「……は、生えてはダメでしたか?」


成人すると角が生えると言う驚きの内容に京子が心のままに叫んでしまったため、リューエデュンにも京子の動揺が痛いほど伝わってしまった。

丸いほわほわの姿なのに、どこかオロオロしだしたリューエデュンに宇宙神が「京子の育った地球という星には角の生えた人族は存在しないんだ」と穏やかに説明してくれている。


(え、でも、角カッコよくない? 古龍神様カッコイイし、全然ありじゃね?)


しかもなんか強そう。と、京子の心の声が漏れ始めた。

四柱は京子の心の声に「え? 角ありなの?」と京子の反応に期待を持ち始める。


ーー私可愛いもカッコイイも好きだし、自分がカッコよくなるなら全然ありじゃね?


ーーあ、でもこの身体、めっちゃ可愛い顔してるな…。角は似合わないかな…?


ーーいや、可愛いに角生えててもそれはそれで全然ありでしょ。むしろ大好物。


ーーそれにドラゴンは成人して角が生えるのが当たり前なんだよね?


京子は、ふむ。と一度頷いて、


「全然ありです」


サムズアップと共に京子がそう言えば、その場に居た四柱が「おぉ~っ!」と声を揃えた。


「お前さん分かってるのぉ!」

「はい、ドラゴンはカッコイイです!」


わっははは! と、古龍神は満足げに笑った。

リューエデュンもホッとしたのだろう。落ち着いた声色に戻っていた。


「ではミヤコ、この身体に触れてください。触れれば魂が中に入ります」

「は、はい!」


京子は宙に浮く子供にそっと手を伸ばし、右手でその子供の左手をゆるく握った。

すると、パッと一瞬で視界が変わり、背後に居たはずの古龍とフェンリルが視界に入った。


「京子」

「は、はい!」


宇宙神に呼ばれ、京子は慌てて後ろを振り向いた。

相変わらず両目を閉じたままの宇宙神が、眉をハの字に下げて京子を見つめていた。


「日景 京子」

「はい、うちゅーしんしゃま?」


(あれ!? 上手にしゃべれない…? あ、子供だから!)


舌っ足らずな喋りになってしまっているが、中身は40を超えたオバサンなせいか何だか少し恥ずかしい。


「京子、これでお別れだ」

「え…?」

「はじめに話した通り、京子はもうリューエデュンの世界の子だ。私の世界と関わる事はない」

「えっと……ぁい。…あの、ありあとぉごじゃいました!」


この身体はリューエデュン神様と宇宙神様が作ってくれたんだよね。という感謝と、宇宙世界で京子の魂を作ってくれたこと、地球では両親を亡くして長い間病気をしてしまったが、日景 京子の一生は決して悪いものではなかったから。



(あの一生があって今があるんだ)



前向きに生きよう。

健康に気を付けて、身体を大切に、生命を大切に生きよう。


そう思えるのは、日景 京子の一生があったからだ。


地球と言う星に生まれることが出来たからだ。


だから、『さようなら』ではなく『ありがとう』の言葉でお別れを伝えたかった。




京子のその気持は、間違えることなくそのまま宇宙神に伝わっていた。


「私の方こそ君のような魂を作れて嬉しい。ありがとう、京子」


その言葉とともに宇宙神の顔に笑みが浮び、宙に浮いていた京子を優しく抱きしめた。


「君の成長を宇宙からずっと見守っているからね」

「あいっ!」


抱きしめられた京子の頭に宇宙神の声が囁いた。


『これは選別だよ。きっと京子の助けになる』

「え?」


するんっと言う感覚で、何かが京子の中に入ってきた。

離れていく宇宙神は口元に人差し指を立てて、


『皆にはまだ内緒だよ。『言語理解』というスキルだ。世界中のどんな文字も読めるし、言葉も聞き取れるようになる』


と、京子の頭の中に直接語りかけてきた。


(えっ!? 待ってください! 内緒って言われても私の心の声はダダ漏れですよ!?)

『ふふっ、もう身体の中に魂が入っているから皆には聞こえていないよ』

(あ! あぁー! なるほどっ!?)


じゃぁなんで宇宙神様にだけ私の声が聞こえているんですか? という心の中での疑問に宇宙神はくすくすと、楽しげに笑うだけで答えてはくれなかった。


「宇宙の? 何かしたのですか?」とリューエデュンはいぶかしげに聞いているが、宇宙神はそれにも「なにも」ととぼけている。


京子も、何もないふりを懸命にしているが、子供、もとい幼児の身体になってしまったせいか、あまり上手く誤魔化せていない。


リューエデュンは特に何も聞かないが、悪いことではないだろうと判断し見なかった事にしてあげた。

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