モアン神界から来た異世界人

「さて、他に何が聞きたい」


世界崩壊とはどんなモノだったのか、それを古龍神と神獣フェンリルに聞いたところだ。

リューエデュン世界について色々聞くといいと、二柱を遣わせてくれたのだからこの機会に色々情報を得ておきたいと京子も思う。


古龍が相変わらずべたっと腹ばいに寝そべりながら京子に視線の高さを合わせてくれているのが微笑ましかった。

古龍の横にはフェンリルが伏せの状態で京子からの質問を待ってくれている。


「そうですねぇ…」


う~~んと、腕を組みながら京子は考える。

できれば、あのクソ女神の情報がほしい。


ちなみに、京子の心の声は相変わらずダダ漏れなので考えていることは古龍とフェンリルに聞こえている。


「ふむ。そうさのぉ…あの異世界人は魔法が使えんということは知ってるな?」

「あ、はい。自分でそう言ってましたね」


(最後だからってペラペラ喋ってくれたもんね)


「あれはリューエデュン様と奴が居た世界の創造神が与えた『呪い』が原因だ」

「呪い…?」

「うむ、『モアン神界』と言う『神界』が奴の居た世界でのぉ。そこの創造神『モアン神様』とリューエデュン様がこちらの世界で奴の魂が形を変えないよう呪いをかけたんだ」

「え…、ってことは、あの女神って本物の神様だったんですか…?」

「「違う」」

「え???」


一気に訳が分からなくなってきた。

首をかしげる京子の姿を微笑ましげに眺めながらフェンリルが教えてくれる。


「『モアン神界』は確かに神が治める世界ではあったのだけどね、世界を治めていた神と創造神は別物なんだよ」

「神様たちの世界ってことですか?」

「それも違う。世界を治める神は一柱のみで、その他は京子と同じ人間たちが暮らす世界だったんだ。ただ、世界を治める神は人間から選ばれるんだ」

「選ぶ? 選挙みたいな感じででしょうか?」

「そうだね。人間たちが世界の統治者として相応しいと思う者を一人選ぶんだ。そして選ばれた人間がその世界の神になる世界だ」

「へーー!」


変わった世界があるんだなぁと思う京子だが、古龍はモアン神界の者からしたら宇宙世界も変わった世界だと笑った。


「そのモアン神界で神になれなかったのがあの異世界人だよ」

「あの自称女神は神になりたかった人間なんですね」

「その通りだよ。モアン神界で神になれなかったために別の世界へ転移してその世界の神になろうとしたんだ」

「うへぇ、迷惑な人ぉ…」

「ふふ、本当にその通りだよ」


苦笑いを浮かべながらフェンリルは古龍を見上げる。古龍もふんすっと鼻で溜め息をいて忌々しげに口を開いた。


ちなみに、今の古龍の鼻息で京子は吹っ飛びそうになったが、なんとか堪えた。


「そのモアン神界と言う世界だがのぉ、リューエデュン世界と同じように世界崩壊が起こってのぉ。次元の穴など開けたら互いの世界がバランスを崩すからのぉ」

「リューエデュン世界はなんとか持ち直したけどね、モアン神界は崩壊してしまったんだ」

「えぇ!?」


異なる次元が繋がってしまったため、モアン神界でも世界崩壊が起こっていた。

モアン神界に未知の物理/魔法法則が出来上がり、次元が繋がった場所となった星が崩れ、その後世界全体が安定した形を保てなくなり崩壊した。


「創造神モアン様がモアン神界が崩壊する直前にこちらの世界にいらしてあの異世界人に『魂がどんな世界の理にも馴染まないようにする』呪いをかけたんだ。そしてリューエデュン様は奴が『この世界の魔法法則を理解できないようにする』呪いをかけたんだよ」

「だから女神は魔心も動かないし、魔法も魔法陣も使えないんですね」


(そういう事だったのか…、けど…)


「創造神様たちなら女神を世界から追放するくらい出来たのではないんでしょうか…?」

「出来なかったんだよ」

「出来なかった…?」


1分1秒よりも早いコンマ以下の速度で崩壊し続ける2つの世界。


モアン神もリューエデュン神も、自身の世界の崩壊を止める事に力を使いすぎてしまったのだ。

むしろ、そうしないと世界崩壊を止める事が出来なかった。


結果、モアン神は崩壊を止める事が出来なかった。


最後は崩壊する自身の世界よりもリューエデュン世界の崩壊を止めるために力を注いだ。

そのおかげで、リューエデュン神は少しだが神力を残すことが出来た。


しかし、モアン神は神力を使い切り消えてしまった。


「モアン神様はもう何処にも居ないってことですか…?」

「そうだよ。神力とは創造神様そのものなんだ」

「そのもの?」

「神力は『創造神の生命いのちそのもの』と言えば分かりやすいかのぉ? 創造神様の神力生命で世界は作らているんだ」

「リューエデュン様の今のお姿はね、神力が不足してしまっているために姿かたちを自在に作ることができないからなんだ」

「だから見た目が宇宙神様と全然違うんですね」


元の姿は美しい獣人のような姿だったらしい。

頭は雄鹿で腕は鳥の羽だったそうだ。


「……人の姿ではないんですね」

「あの方たちがどういう基準で見てくれを決めているのかなんて分からんからのぉ」

「宇宙神様が人の形を取っていたのは京子が驚かないように気を遣ってくださったんだよ」

「えぇぇっ!?」


(か、神様に気を使われている…!)


「まぁ、宇宙神様もミヤコには色々思うところがあったんだろうな。創造神と言っても人と同じように心や感情を持っているからのぉ…。

 自分の神力生命を使って造られた魂は、我が子のように可愛いんだろうよ」


古龍神の言葉に、京子は胸が痛んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る