古龍神と神獣フェンリル

(私の転生にはいくつかの大きな問題がある)


・魂の規格がリューエデュン世界の物とは異なるため、通常の転生ができない

・転生後の新しい身体でも『魔力過多症』と言う疾患を患う事は確定

・魔力過多症が原因で、動けない身体になる(私次第でどうにかなる?)

・そして、今生でも私は魔王らしい


(魔王は魔王でも、悪い意味じゃないのは良かった。あ、けど今の世界の人達は魔王の意味を正しく理解してないんだっけ。あの自称クソ女神め…。ほんと余計な事しやがって!)


「うむ。まさにその通りだ。なぁフェンリル」

「あぁ、まったくだね、古龍」

(うわぁ~~~~~~~~~~っ!!)



カッコイイーーーーーーーー!!!!!!!!



と言う京子の心の叫びが白い神の庭に響けば、フェンリル、古龍と互いを読んだ大きな生き物たちは牙を見せてはははっと笑った。


「ミヤコと言ったな、ワシを見て恐怖するよりも先にカッコイイと言うとはなかなかの胆力だ」


古龍と呼ばれたドラゴンは頭を京子の位置まで降ろし、「触ってもいいぞ」とその顎先を差し出した。

京子は頬を上気させながら「失礼します!」と言い、下顎のあたりをそっと撫でた。


(ひゃ~~~っ!? スゴイ!! 私ドラゴンに触ってる…っ!! 鱗大きい! ゴツゴツ! でも丈夫で頑丈そうな鱗!! ひんやりしてて気持ちいい~っ!!)


まるでジャンボジェットのように巨大なドラゴン、古龍。

動くだけで突風が起きそうな巨体に、黒くキラキラと輝く鱗がびっしりと生えている。それに触れる京子は物語でしか見聞きしたことがなかった存在に大興奮だった。


「ふふ、人の子に触れられるのはいつぶりだい古龍?」

「さぁのぉ、忘れたわい」


くすぐったいのぉと、言いながらも撫でられるのは悪くないのだろう。京子が両手でワシワシ、さわさわとするのを甘んじて受け入れている。


「ミヤコ、私も触っていいんだよ」

「わぁ…!」


そう言って鼻先を差し出したフェンリルに京子は「お言葉に甘えて!」と言いながら抱きついた。


「ふわぁ~~~! ふわふわぁ! それにいいニオイ~!」

「ふふふっ」


ひと目見た時から抱きつきたい衝動に駆られていたのだ。

フェンリルの見た目は青白いふわふわの毛をした大きな狼だ。顔周りから胸元、尻尾のあたりの毛が少し長目なのが京子の知っている狼との違いだった。

大きさはSUVモデルの車(パ◯ェロやラン◯ル)くらいだろうか。突進でもされたら人など簡単に吹っ飛んでしまいそうだと思った。


「フェンリル様すごくいいニオイっていうか、いい香りがしますね」


ふわふわでつやつやな首元の毛に頭を埋め込む勢いで猫吸いならぬフェンリル吸いをしてるわけだが、初対面でこんな事をしてもまったく怒る気配がないので、京子も少し大胆になっている。


「そういえば、昔にも地上の者に同じことを言われたね。神獣になると獣のような匂いを纏わなくなるんだよ」

「へ~~っ! なんだか花のような香りがしますね!」

「ふふっ、ミヤコの魂も良い香りがするね」

「えっ!?」


そう言われて京子はパジャマの袖を匂ってみるが、特にニオイや香りと言った物は感じない。


「善行をした者の香りだよ」

「善行…?」

「魔王の時に人の生命いのちを救っただろう?」

「え…、あっ!」


フェンリルにそう言われてデイルカーンたち使徒5人を守り、必死の思いでとなえた『転移』の魔法で、5人と一緒に地下の暗い部屋から外へ脱出したのを思い出す。


「あれが善行になるんですか?」

「そうだよ。リューエデュン界にとって生命は貴重なんだ。たとえあの異世界人を信仰している者たちであっても、すべての生命は等しく、愛すべき存在なんだよ」


フェンリルの金色の瞳が柔らかく細められる。


「5人を救ってくれてありがとう、ミヤコ」

「いえ…! その、はい。みんなを助けられて良かったです」


そうだ。助けられて良かった。

京子は彼らを助けたい、守りたいと思ったから必死になれたのだ。

彼らは決して悪い人間ではなかった。京子のあの見た目や状態が異様であったから怖がっていただけで、京子と会話が出来たなら話の通じない人たちではなかったはずだと思っている。


京子はデイルカーンの手のひらの暖かさを覚えている。

死の間際に異怪いぎょうだった京子の頭をデイルカーンはその手に抱いてくれた。

京子はそれがとても嬉しかった。

心の奥がとても暖かった。



「ふむ? ミヤコは面白い形をしているな」


そう言って、古龍は腹ばいで寝転び、小さな京子を観察するように見つめた。


「え? か、かたち? 一般的な人間の形だと思うんですが」

「魂の形だ。リューエデュン世界のモノとも宇宙世界のモノとも違う。初めて見る形だ」

「えぇ、そうみたいです。それが原因で通常の転生が出来ないって創造神様たちから聞きました」

「確かにどこの世界にも合わん形をしているのぉ」



京子は相変わらず白いだけの世界に居るが、リューエデュン神と宇宙神は此処に居ない。

別の領域で、京子が転生するための身体を作っているところだ。


そして、二柱の創造神と交代して京子の前に現れたのが、『古龍神』と『神獣フェンリル』だった。

京子の身体が出来上がるまでの間、リューエデュン世界について色々聞くといいと、リューエデュン神が呼び寄せたのだ。


古龍神はドラゴンの頂天にして、その種族の祖。

元々は世界創造の時にリューエデュン神によって一番最初に作られた神で、リューエデュン空間(宇宙空間のようなもの)で大暴れし、そのエネルギーで魔星まぼし(恒星や惑星の総称のようなもの)という星を次々に作る作業をしたらしい。

その後、出来た魔星の大地に居り、自分の眷属からドラゴン種を作ったわけだが、作った子孫たちが煩すぎて神域に引っ込んだそうだ。

古龍曰く「ガキどもがうるさくてかなわんかった」らしい。


神獣フェンリルは元々地上で生まれたフェンリル種と言う種族の野獣だったが、今ここにいるフェンリルはその強さと賢さから人々に聖獣と崇められ続けた結果、神聖化し神獣となって神域に昇ったそうだ。

世界崩壊前はよく地上に降りて、そこで暮らす野獣たちと過ごしたり、人間や獣人たちと狩りなどもしたりもしていたが、世界崩壊後の世界からフェンリルへの信仰が失われてしまい、地上に降臨することが出来なくなって長いそうだ。

最後に降臨したのはもう3,000年以上前だと言う。


なお、古龍神も似たような理由で地上に降りれなくなってしまっている。古龍の末裔であるドラゴンは地上に居るし、ドラゴンの中には古龍神に対する信仰もちゃんと残ってはいるのだが、


「ワシの力が大きすぎてのぉ。やつらの信仰心では力不足で降りられん」


もっとドラゴンの頭数が残っていれば、地上に降りてあのクソ異世界人をぐちゃぐちゃに出来たのにと、本当に残念そうに古龍は呟いた。


(そっか…世界崩壊でドラゴンたくさん死んじゃったんだ……)


「ドラゴンだけでないぞ? 人もたくさん死んだ」

「あぁ、そうだな。あの世界崩壊で人族も獣人族も一気に数を減らしてしまった。絶滅してしまった種族もたくさんあった…。フェンリル種ももう地上に残っていない」


魔星まぼし『エヒトワ』。

それが京子が魔王となって生まれた星の名前だった。


そして、エヒトワこそが自称女神ツィチー・ミトォが異世界から転移した場所。

世界崩壊が起こった中心だった。

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