魔力過多症と言う病

京子の転生にはいくつかの大きな問題があった。


まず、宇宙世界から攫われた京子の魂は、リューエデュン世界の転生システムを通らずに地上に降ろされてしまったため、リューエデュン世界の魂と『規格』がまったく異なったまま、リューエデュン世界の魂に『属性』が変わってしまった。


そのため、リューエデュン世界の魂に属する魂であるはずなのに、リューエデュン世界の輪廻システムで処理できない『規格』状態なのだ。


つまり、になってしまっている。


「例えるなら、星型の形をしたシステムに、丸い形をしたモノが通らないという感じだね」と、宇宙神が分かりやすく説明してくれた。


では、どうするか。


輪廻システムを通らずに転生する。


転生し地上に居りることで、魂の『規格』をリューエデュン世界の形に時間をかけて変えて行く。


創造神たち曰く、魂とは『育っていく』ものらしい。

育って行く過程で変化を繰り返し、存在する世界に沿った規格に安定していく。


「長く生きることで魂はより安定し、世界に馴染みます」と、リューエデュン神が補足してくれた。


「えっと、つまり、私は今の記憶を持ったままリューエデュン世界に転生して、可能な限り長生きする……と」

「その通りです」

「そうすることで、次の転生でリューエデュンの輪廻システムに入れるという予想なんだ」

「ほぁ~~、なるほど」


京子も自分が規格外の存在になってしまっている事は分かった。

だが、なってしまった物はしょうがない。


(生まれ変われば健康な身体が手に入るし、自由に動かせる身体があれば十分だよ)


「あの、ミヤコ…。その、身体なのですが…」

「京子、言いにくいのだが……。その、」

「……え? なんですか…?」


途端に言い淀む創造神たちに京子は、ハッ! と、した。


(まさか…、また病気…に?)


そのまさかだった。



京子の転生にある、いくつかの大きな問題の2つ目。

それが先天性の疾患、『魔力過多症』だった。


「魔力過多症?」

「これは、今のリューエデュン世界では滅多にありませんが、5,000年ほど前には多かった疾患です」


(5,000年前って、たしかあのクソ女神が起こした世界崩壊より前の時代かな?)


「その通りです。あのクソ異世界人が私の世界に来る以前ですね」

「「…………」」


リューエデュン神の雰囲気が一瞬変わったのは多分気のせいじゃないだろう。


「失礼しました。えー、魔力過多症と言うのは言葉の通り、魔力が多すぎるために起こる疾患です。身体に収められる魔力量に対して、身体の中で作られる魔力が多すぎることで発症します」

「えっと、私はその病気を発症してしまうんですか?」

「はい。確実に発症してしまいます」

「そう、ですか……」

「スイマセン。この世界が崩壊する以前であれば、まだもう少しマシだったかもしれないんですが」

「………えっ? 世界崩壊前でも発症してしまうくらい魔力多いんですか?」

「えぇ。貴女は『魔王』ですから」

「えっ?」


元・魔王でなく、今も魔王??

またもや京子の頭の中を『絶対悪』『最強のラスボス』『勇者に殺される役』などの言葉が駆け巡る。


しかし、


「あぁ、違いますよ。その魔王ではありません。この世界での魔王とは正しくは『魔力の王』と言う意味なんです」

「魔力の王…?」

「はい。今は『破滅の王』などと呼ばれていますが、それはあのクs…、異世界人が作り上げた嘘の伝承や伝説であって、正しくはリューエデュン世界で唯一の魔力量を持つ者の事を言うのです」


(リューエデュン神様、今『クソ異世界人』って言おうとした…)


「そういう訳でして、世界崩壊前の状態であってもミヤコは確実に魔力過多症を発症します」

「な、なるほどぉ」


少し早口になってしまっているところが、可愛らしいと思ってしまった。

ちらりと宇宙神を見れば、ほんのりと苦笑いを浮かべている様子だ。


「京子の魂はほぼ私の世界宇宙世界の規格のままだ。そのため、リューエデュン世界のことわりに沿わない部分が魔力に変換されてしまう」

「私の世界で長く生き、魂をリューエデュン世界に馴染ませれば次の転生ではリューエデュンの理の内に収まるはずです」

「なるほど…。あのえっと、その魔力過多症ってどんな病症が出るんでしょうか? 身体は動かせますか?」


京子は自分が一番気になっている事を聞いた。


「軽度の魔力過多症であれば動かせますが、……ミヤコは重度の魔力過多症になります」

「身体は動かないってことですか…?」


ひゅっと、喉に冷たい物が詰まったような嫌な感覚が湧いた。地球に居た頃の自分を思い出す。ベッドの上で動かない身体を横たえ、呼吸さえも自分で出来なかった日々。

転生してもまたあの苦しみを味わうのかと、一気に不安と絶望が押し寄せてくる。


「ミヤコ次第です」

「え?」

「この話をする前に、ミヤコに伝えておく事があります」



京子の転生にある、いくつかの大きな問題の3つ目。

それは、魔力が多すぎるため赤ん坊として生まれる事ができない。


つまり、母親の胎内に宿り、通常のお産で生まれ出る事が出来ないのだ。

仮に、胎内に宿り生まれ出る方法で転生した場合、京子の魔力が大きすぎるため、成長とともに母親が重度の魔力過多症を患い、臨月を待たずして母親もろとも死んでしまうと言う。

また、仮に赤ん坊として生まれ出たとしても重度の魔力過多症のため呼吸すらまともに出来ずすぐに死んでしまうそうだ。

そして更に、生まれ変わる種族が『人間』だと、膨大過ぎる魔力に人の身体で耐えられないため人間に転生はさせられない。


では、どうするか。


「ミヤコが転生するための身体を私たちが作ります」

「……作る?」

「はい。新しい種族を作ります」


とんでもねー話になってきてるぞと言う京子の心境は、創造神たちにだだ漏れだった。

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