イーサンは気がついたら家のベッドで横になっていた。

博物館を出てからの事は殆ど覚えていない。

無我夢中でバックヤードを走り、サイレンが鳴る博物館から自転車で全力で走ったということぐらいしか覚えていない。

館長は今頃どうしているだろうか?

警察に自分のことを話したのだろうか?

そもそもアイツは何だったんだろうか?

あの剣は一体?

なぜ俺はあの剣でアイツを倒すことができたんだろう?

疑問が頭の中をグルグルと駆け巡るが、何も答えが出なかった。


ものすごい疲労感とともに睡魔が襲ってきた。

下の階からイーサンを呼ぶ祖母の声が聞こえるが、

イーサンは何も答えることなくそのまま眠りに落ちた。


少し時は戻り、場所はアーカム博物館。

入口に到着した警官隊は、玄関を見て愕然とした。

入口扉は壁ごと破壊され、ぽっかりと大きく口を開けていた。

内部のメインホールの床はいたるところが割れたり穴が開いている。

その破損している床は、何か巨大な物が歩いたように位置していた。

「な、なんなんだ・・・。」

先頭を歩いていた警官が口を開いた。

そしてメインホール奥、右手にある展示室入口も同じように入口が破壊されていた。

巨大な物が玄関から入って来、そしてメインホール奥、右手にある展示室に向かったと思われた。


右手にある展示室に入った警官隊はさらに驚いた。

内部の展示ケースの多くは破壊されており、

その向こうに拳銃を持ったままの守衛が倒れているのが見えた。

警官隊は駆け寄って、守衛の脈を確認し、息があることを確認した。

一人が、無線で救急に連絡を入れた。

守衛の周りには薬莢が10個以上転がっており、何かしらの戦闘が行われたことを意味していた。

「おい。大丈夫か!」

警官の一人が守衛の頬を軽く叩いた。

「う、うぅぅぅ」

守衛が目を開けた。

自分の周りにいるのが警官であることが分かり、安堵の表情を浮かべた。

そして口を開いた。

「ば・・・化け物は・・・? 館長は・・・?」

「化け物?」

警官が答えた。

「きょ、巨大な・・・巨大な化け物を見ました。」

 わ、私がこの部屋に辿り着いた時に、隣の部屋に化け物の姿が見えました。

 その奥の部屋に入ろうとしていましたので、は、発砲しました。」

警官は息を飲んだ。

「化け物とは、どんな奴だったかわかるか?」

守衛はごくりと唾を飲み込み、口を開いた。

「身の丈5mぐらいの、全身が灰色の毛で覆われた二足歩行の生き物でした。」

「5m?」「二足歩行?」

警官達がつぶやいた。

「は、発砲した後、反撃を受けて、瓦礫を投げられました。

 覚えているのはそこまでです。」

守衛が起き上がろうとした。

「奥の部屋は見えませんでしたが、化け物は何かを追っていたように見えました。

 ・・・すみません。肩を貸してもらっていいですか?」

警官の一人が守衛に肩を貸し、守衛は立ち上がり、言った。

「立てるか?」肩を貸しながら警官が言った。

「・・・何とか。足の骨は折れてないようですので。」

「奥に行きましょう」続けて守衛が言った。


物音がしないため、化け物はいないと思われたが、

警官隊は拳銃を構えて次の展示室に入った。

次の展示室はさらに激しく破壊されていた。

中央付近にあった展示ケースは、ことごとく破壊されており、

倒れた展示ケースやガラス等が床一面に、足の踏み場が無いほどに散乱していた。

警官隊は銃を構えながらゆっくりと歩を進めて行くと、次の展示室の入口手前付近に、ひしゃげた銃弾が数発落ちているのを見た。

「化け物はこのあたりに?」警官が言った。

守衛は頷いた。

銃弾の一つを警官が拾い上げた。

何か硬い物にぶつかり、ひしゃげたように思えた。

生物相手に発砲された銃弾ではあまり見かけない状態だと思った。


警官隊は拳銃を構えて次の展示室に入った。

化け物の姿は無い。が、床は至るところが割れ、展示ケースも殆どが破壊されていた。

部屋の最奥の暗がりの中に、壁を背にして座っている人間がいた。

瓦礫を踏み越え、銃を構えながら警官隊がゆっくりと近づいた。

「館長!」体を支えられた守衛が口を開いた。

「ああ、君か・・・」ランドルフがゆっくりと顔を上げ答えた。

「君が撃ってくれなかったら、やられていた。助かった。ありがとう・・・。」

ランドルフが言った。


その後、駆けつけた救急隊により、二人は病院に搬送された。

すぐに現場検証が行われたが、二人が見たという化け物に関する痕跡は、何も見つからなかった。


検査の結果、守衛は全身打撲により二週間の入院。

ランドルフはあばら骨の骨折はあったが、三日の入院との診断結果が出た。

博物館の受けた被害はかなりの物であったが、死者が出なかったのは奇跡であったとランドルフは思った。

当日のうちに病室にて事情聴取が行われたが、二人の口から出ることは、オカルトじみていることばかりであり、

鵜呑みにできるような物ではなかったが、口裏あわせもできない別々な病室にいる二人から、殆ど同じ話が出ており、全くの嘘ということではないことは事情聴取をした調査官にも分かったが、

翌日行われた警察発表ではガス爆発として発表された。

ただし、回収された監視カメラの映像を見た調査官は息を呑んだ。

最初の轟音が響き渡った後、吹き飛ぶ瓦礫の後に続いて、メインホールに侵入してくる巨大な灰色の毛を纏った脚。

その後、録画は切れた。


ランドルフが入院している三日の間、毎日調査官が来ては事情聴取を行った。

ランドルフはイーサンのこと。剣の事は一切話さず、

守衛が発砲して化け物が倒れ、その後に死体は消えてしまったと説明した。

初日、調査官は信じられないような怪訝そうな顔をしたが、

二日目以降は、目撃した異形について姿形を事細かく聞かれ、明らかに質問される内容が変わったことを感じた。

そして、三日間の入院を終え、昼過ぎ、ランドルフは退院した。

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