妖怪のお話だからでしょうか、キャラクターや地の文たちが気軽に第四の壁を越えたメタ発言をちょくちょく絡めてきます。
やはり妖怪とは人知を超えたもの、物語という枠には収まりきらない超常の存在、という事でしょうか。
それでいて語り口も、童話のような物語を語っているかのような優しい雰囲気のタッチで綴られています。
その為、作品と読み手の距離感が非常に近く、実にフレンドリーな雰囲気で楽しむことができます。
そして、なんといっても魅惑のグルメの数々!
「簡単なもの」と言いつつも実に鮮やかに生み出される絶品料理と、それを美味しそうと思わせるだけの煌びやかな表現の数々、思わず涎が溢れてくること間違いなしです。
くっそー、腹減った……パスタ食いたい……それでいて和食もそつなくこなせるのかよ、ずるいぞ……。
それから忘れてはならない自称奥さんの妖怪たち。
主人公を巡ってどたばた騒がし賑やかなやりとりが実に微笑ましいです。
いや、たまに微笑ましいどころじゃなくなりますが。
……たまにかな……もうちょっと、結構……?
ちなみに健全なのであれやこれやな展開になりそうなこともありますが、健全に回避されています。
ええ、健全ですとも!
是非ともお腹を空かせて、あるいは食後の紅茶を片手に、本作品をお読みください。
※読み合い企画からのレビューです
究極のお人好しである主人公・兵太郎は、買ったばかりの古民家の裏山で見つけた祠を修理する
すると、祠に住んでいた狐の神様・紅珠が押しかけ女房にやってきて──と思ったら、古民家のほうにも狸の神様・藤葛がいて兵太郎の取り合いに!
そんなドタバタから始まる本作品は、非常に、異常に、読みやすい
あまりの読みやすさに、次へ、また次へと、ページを繰る手が止まらなくなること請け合いだ
できる限り平易な表現を作者が心掛けており、また、その語彙で可能な最大の表現で以て描写を行っているため、読みやすさの代わりに表現力が犠牲になっているわけでもない
キャラ立ちの良さから今誰が話しているかが瞬時にわかり、読むに当たってストレスがまったくない
理解を邪魔するものがまったくない、摩擦力がゼロのような作品だから、一度読み始めるとどこまでも読み進めてしまうのだ
もちろん、内容も面白い
社会においては、ちょっと(かなり)ダメな兵太郎も、神や妖にとっては垂涎ものだ
流れで紅珠と藤葛の二人ともを娶り、毎夜毎夜襲われているのは羨ましいやら怖いやら
時折挟まれるメタネタは好みが分かれる部分だと思うが、レビュー者は嫌いではなかった
ともあれ、まずは一、二話だけのつもりで読み始めてみてほしい
気付けば十話二十話とずるずる読み続けてしまい、いつの間にか本作品の虜になっているはずだ