第3話 扉の先
「ここは……?」
その空間は、壁に掛けられている松明のみで照らされていて薄暗い。
ひび割れた石煉瓦の壁には窓が一つもなく、カビの匂いが充満していた。
「なんだってこんなムショみてえなところに……」
アイス達は確かに倉庫の裏口から外に出た。
そこから先は38番街を抜け、さらに入り組んだ路地になっており、アーロン達を撒けたはずなのだ。
しかし扉を抜けた先は、外ではなかった。
「くそっ! こっから行けばとんずらこけると思ったのに、なんだこの胸糞わりいところは!」
リルが左腕を押さえながら感情をあらわにしている。
確かに気分がいいところではない。
肺をやられてしまいそうなほど
ネズミすらも生きていけないのではないかと思う劣悪な環境だ。
その時————かさりと。
薄暗い空間の中に人の気配がした。
「あ……あなたたちは……一体誰ですか……? ど、どうして……そこから出てきたんですか……?」
そこには、給仕服を着た少女が座り込んでいた。
銀髪を三つ編みにして胸の辺りまで伸ばした少女は、不安そうに青緑の瞳をゆらゆらと揺らしている。
身に纏う茶色の給仕服は見るからにボロボロで汚れており、とてもじゃないが給仕を行う者の格好ではない。
小さい体を震わして、言葉もうまく出てこない様子であった。
その様子を見て空気が読めないと思ったのか、グレイスがズカズカと少女の方に進む。
少女の胸倉を掴んで持ち上げた。
「なんだてめえはよぉ! こちとらずっと仲間だと思ってた奴らにケツをローストされかけて、人生で一番最悪な気分なんだよ! 舐めた口きいてっと殺すぞ! あぁん!?」
「ひぃ……ごめんなさいぃ……」
長髪を揺らして、少女の目の前で
少女は恐怖で顔を真っ青にしていた。
グレイスは手をあげそうな勢いだったが、それをジョージが制止する。
「そんなガキほっとけ、俺達は一刻も早く外に出なきゃ行けねぇんだ」
ミルドも忠告し、グレイスは舌打ちをしながら手を離す。
投げ出された少女は尻餅をつき、ゴホゴホと咳き込んでいた。
「とにかく————ここを離れようぜ」
アイス達は、この部屋の出口へと向かう。
後ろから敵が迫ってきている。
今にも塞いでいる倉庫の扉が爆破され、敵がここまでなだれ込んできてもおかしくない。
だがそこで、少女の様子が急変した。
「い、いけません! それ以上そちらに行ってはいけません!」
先ほどまで
グレイスがまた
「ほっとけ、行くぞ」
アイスが先を促し、グレイスを先頭に鉄格子の扉を開けた。
鍵がかかってねえじゃねえか、不幸中の幸いだぜ、などと言って扉の先に一歩踏みだす。
「駄目です! この時間は————彼らの
グレイスが牢獄から通路に出た。
その瞬間————
「え?」
黒い何かが、グレイスの上から突如現れた。
真っ黒で、大きな何かが、グレイスの体を突如として覆い隠していた。
それは、グレイスの数倍大きかった。
それは、黒くヌメヌメとした表面に
それは、八本の足がついていた。
それは、鋭利な牙でグレイスの体を串刺しにしていた。
「なんだよこれは……!?」
シュルルという呼吸音と共にそれは振り返る。
それは、禍々しく黒く光る————巨大な蜘蛛だった。
「あぁ……な……んで……」
背中から腹まで黒光りする牙で貫かれているグレイスは、口から血をこぼしながら呻き声をあげていた。
体は痙攣し、両腕は力無く垂れ下がっていて、もう動かない。
「い……いやだぁ……!」
蜘蛛は頭を
そして、八本ある内の前四本を器用に使い、グレイスの
原型が無くなったグレイスを咀嚼していった。
目の前で起こった異様な光景に、その場の全員が目を見開く。
「おい……どうなってんだ……!?」
答えを求めて、アイスは少女の方を見た。
少女は動揺しながらも、低い声で告げる。
「ここは、世にも恐ろしい————魔女の家なのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます