第18話 シリウスおじいちゃん2、瑠璃色の髪の青年


そこからは、

もうシリウスの独壇場だった。


彼は島一番の、

丘の邸宅の主人なのである。


ホークは、

あっけにとられて、

完全に毒気が抜けた。


ぽかーんとした。

呪いをかけられたのかと思った。

真っ白な老紳士から、目が離せなくなった。

牙をぺろりと舐めた。

もう、ドラゴンミントンのことは、

すっかり頭から消えてしまった。


輝く瞳。

美しい笑顔。

ミルダを優しく見つめる横顔の、

身なり、立ち振舞い、髪型、

眉毛や毛穴の一本一本まで、

すべてが、

プロのそれだった。

後ろの竜まで、

全てが計算づくに見えた。

震えた。

恐ろしかった。


そして、

俺も、

これ?

と思った。


う、

うう、

と、

がっくりうなだれた。


まるでそこに、

巨大なミラーボールがあるようだった。


こんなもんがごろごろ来ちゃ、

たまらないと思った。


それは、

控えめに言って、

すごく、

すごく、

うるさかった。


がっくし。



そして、

魔法拡声器(マイク)だろう。

ちょっとしたお土産話から、

邸宅の子どもたちとのおしゃべり、


勝利者インタビューまで、

つらつらと彼が、進行してゆくたびに、

島中は大笑いだった。



やがて、

ミルダの母が、

邸宅の三階のバルコニーにかけてきた。


そして、

父であるシリウスを、じっとみつめた。


シリウスは、

一瞬、ぎょっとしたが、


シルクハットを深くかぶり、

顔を背けて、



「ばあー!!」

っと変顔をした。



…。



ミルダの母は、

半目になった。


でも、だ。

今年は、少し違った。


例の、瑠璃色の髪の青年が、

すたすたとバルコニーにやってきて、

ミルダの母めがけて、突っ込んできたのだ。


え、

まさか、

娘さんをくださいとか?!


そう思ったら、

突然がばっと、

ミルダの母の肩を抱き、

じーっと瞳を見つめて、

さも意地悪く、

シリウスを、

まっすぐに見据えながら、

ミルダの母の肩を寄せた。


シリウスおじいちゃんは、

一瞬で、

やかんのようにカンカンに怒ってしまった。

会場は、どっと笑った。


そして彼は、

シリウスの爪撃をひらりひらりと、

まるで曲芸のように優雅に躱して、

さも、慌てたそぶりをしてピューッと逃げ、

べろべろと舌を出して、

挑発したあとで、

もう一度、ミルダの母に近づいた。


すると、

かっとなったシリウスのグーパンが飛んで、

バルコニーの手すりは、

ばかっと、

一部壊れてしまった。

はちゃめちゃだ。


そして瑠璃色の髪の青年は、

スタコラサッサと、

格好悪く、邸宅へ駆け込んでいった。

でも、さり際に投げキッスをした。

会場が、どっと笑った。


ミルダの母は、

割れたバルコニーの手摺を見て、


笑いながら、


ばかな父。


と、思った。


そして、

父のシリウスを、

じっと見つめて、

ふるえる身体で、

にっこり笑って、


…。


やっぱり半目になるのだった。


例年通り、

わざと、

ぷんっと、腕組みをしてみせた。


すると、

また瑠璃色の髪の青年が、

すたこらやってきて、

意地悪くアピールをはじめ、

ミルダとアトラスが、取り押さえた。


そして、

シオルがでん!!と逃げ道を塞いだ。


会場が、おおーっと、

拍手で揺れた。

悪党は、お縄になったのだ!!


そしてなんと、

ミルダの元パートナーが、

颯爽とやってきて、

彼らを実に紳士的に、

邸宅の中へと招いたのだった。


そして、

シオルは、

シリウスを見つめた。


星空を思わせる美しい瞳。

ポーラレアスター。


あなたは、

どうしたいの?


シリウスは、そう聞こえた、

かもしれない。


シリウスは、

はっとして、

ミルダの母をぎゅっとした。

強く強く抱きしめた。

そして、

白竜にのり、彼女をさらっていってしまった。

おおーーっ!!と歓声がわいた。


そして、

シリウスとミルダの母は、

ゆっくり飛びながら、

ばさばさと、

丘の真ん中に、降り立った。


そして、

シリウスおじいちゃんは、


…。


ジャンピング土下座をした。

でも、言葉はなかった。


そして、

ミルダの母に、

ぷいっと袖にされて、

彼はずっこけた。


会場が、笑いと拍手に包まれた。


(続)

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