第18話 シリウスおじいちゃん2、瑠璃色の髪の青年
◆
そこからは、
もうシリウスの独壇場だった。
彼は島一番の、
丘の邸宅の主人なのである。
ホークは、
あっけにとられて、
完全に毒気が抜けた。
ぽかーんとした。
呪いをかけられたのかと思った。
真っ白な老紳士から、目が離せなくなった。
牙をぺろりと舐めた。
もう、ドラゴンミントンのことは、
すっかり頭から消えてしまった。
輝く瞳。
美しい笑顔。
ミルダを優しく見つめる横顔の、
身なり、立ち振舞い、髪型、
眉毛や毛穴の一本一本まで、
すべてが、
プロのそれだった。
後ろの竜まで、
全てが計算づくに見えた。
震えた。
恐ろしかった。
そして、
俺も、
これ?
と思った。
う、
うう、
と、
がっくりうなだれた。
まるでそこに、
巨大なミラーボールがあるようだった。
こんなもんがごろごろ来ちゃ、
たまらないと思った。
それは、
控えめに言って、
すごく、
すごく、
うるさかった。
がっくし。
◆
そして、
魔法拡声器(マイク)だろう。
ちょっとしたお土産話から、
邸宅の子どもたちとのおしゃべり、
勝利者インタビューまで、
つらつらと彼が、進行してゆくたびに、
島中は大笑いだった。
◆
やがて、
ミルダの母が、
邸宅の三階のバルコニーにかけてきた。
そして、
父であるシリウスを、じっとみつめた。
シリウスは、
一瞬、ぎょっとしたが、
シルクハットを深くかぶり、
顔を背けて、
「ばあー!!」
っと変顔をした。
…。
ミルダの母は、
半目になった。
でも、だ。
今年は、少し違った。
例の、瑠璃色の髪の青年が、
すたすたとバルコニーにやってきて、
ミルダの母めがけて、突っ込んできたのだ。
え、
まさか、
娘さんをくださいとか?!
そう思ったら、
突然がばっと、
ミルダの母の肩を抱き、
じーっと瞳を見つめて、
さも意地悪く、
シリウスを、
まっすぐに見据えながら、
ミルダの母の肩を寄せた。
シリウスおじいちゃんは、
一瞬で、
やかんのようにカンカンに怒ってしまった。
会場は、どっと笑った。
そして彼は、
シリウスの爪撃をひらりひらりと、
まるで曲芸のように優雅に躱して、
さも、慌てたそぶりをしてピューッと逃げ、
べろべろと舌を出して、
挑発したあとで、
もう一度、ミルダの母に近づいた。
すると、
かっとなったシリウスのグーパンが飛んで、
バルコニーの手すりは、
ばかっと、
一部壊れてしまった。
はちゃめちゃだ。
そして瑠璃色の髪の青年は、
スタコラサッサと、
格好悪く、邸宅へ駆け込んでいった。
でも、さり際に投げキッスをした。
会場が、どっと笑った。
ミルダの母は、
割れたバルコニーの手摺を見て、
笑いながら、
ばかな父。
と、思った。
そして、
父のシリウスを、
じっと見つめて、
ふるえる身体で、
にっこり笑って、
…。
やっぱり半目になるのだった。
例年通り、
わざと、
ぷんっと、腕組みをしてみせた。
すると、
また瑠璃色の髪の青年が、
すたこらやってきて、
意地悪くアピールをはじめ、
ミルダとアトラスが、取り押さえた。
そして、
シオルがでん!!と逃げ道を塞いだ。
会場が、おおーっと、
拍手で揺れた。
悪党は、お縄になったのだ!!
そしてなんと、
ミルダの元パートナーが、
颯爽とやってきて、
彼らを実に紳士的に、
邸宅の中へと招いたのだった。
そして、
シオルは、
シリウスを見つめた。
星空を思わせる美しい瞳。
ポーラレアスター。
あなたは、
どうしたいの?
シリウスは、そう聞こえた、
かもしれない。
シリウスは、
はっとして、
ミルダの母をぎゅっとした。
強く強く抱きしめた。
そして、
白竜にのり、彼女をさらっていってしまった。
おおーーっ!!と歓声がわいた。
そして、
シリウスとミルダの母は、
ゆっくり飛びながら、
ばさばさと、
丘の真ん中に、降り立った。
そして、
シリウスおじいちゃんは、
…。
ジャンピング土下座をした。
でも、言葉はなかった。
そして、
ミルダの母に、
ぷいっと袖にされて、
彼はずっこけた。
会場が、笑いと拍手に包まれた。
(続)
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