第16話 ゴールデンペアの復活
◆
俺は、
うすうす気づいていた。
みんなとは、違うと。
俺自身にはわからない。
でも、みんなには違って見えてるんだ!
「あああーー!!」
きっと、
俺の金色に燃える眼球の軌跡が、
森の皇国神殿から、
森のアプローチを抜けて、
丘に向けて、
ぴょんぴょんと軌道を描いていただろう。
神父たちや、
巫女(シスター)たちが貼った、
瞳のメッキの呪いは、
しっかりかかっていた。
だが、
俺の、
その下の、
濃紫の瞳は黒く輝いていただろう。
そして、
金の箔、銀の箔、俺自身から出るメッキの箔が飛びちり、
それらが混じり、
金色に渦巻いて、、、
なにがどうなってそうなるのか、
俺自身にも、よくわからないんだ!!
これは、何と言えばいいんだろう。
これがその、恩寵なのか?
この目は、誰にも見せられない。
だって、
みんなが怖がるんだ。
そして、俺を退出(BAN)させる。
でも、
違うんだ!
不正(チート)じゃない。
でも、
俺の言い分なんて、
だーーれも聞いちゃくれない。
だが!!
しかし!!
このメッキの呪いは、
この恐ろしい金色の渦巻くブラックホールを包んで、すっぽり隠してくれるのだ。
俺は!
自由だあ!!
ひゃっはーー!!!
◆
俺の矜持は、スローライフだ。
だからこの南の海の、
火山列島へ来たのだ。
平穏な日々を、
心から望んでいる。
俺は、
キャリア二十二年の、
元皇国竜騎士だ。
俺の身体には、軽量化の呪いがかけてある。
相棒の白竜シオルの鞄もそうだ。
前職の職業柄、そうなのだ。
これは大変に珍しい、
限られた術師にしかかけられない。
超レアものなのだ。
だから、手放さなかった。
そして、
そんなことは伝えない。
知られることは、ろくなことにならないからだ。
経験則。
だって、
人には随分と若く見られるが、
暮れにはもう、三十六だ。
過去の経験から、
俺のこの身体能力が、
みんなを怖がらせることも、重々わかってるつもりだ。
でも俺は、
みんなを蹴散らしたいとか、
傷つけたいとか、
これっぽっちも思わない。
みんなのことが、
好きなんだ。
だから、
つとめて大人しく、
町外れの森の工房で、
誰にも合わず、
目立たず、
騒がず、
せめて人々の役に立てる、
竜鎧(アーマー)作りに邁進するつもりでいたのだ。
うまくいっていた。
最初は。
でしゃばるつもりなんて、
これっぽっちもないんだ。
それなのに。
それなのに。
気づけば、
島の内輪のドラゴンミントン大会で優勝し、
島の内輪の懸垂大会で優勝してたんだ。
うう。
なんでだ。
◆
丘を、
ぴょんぴょんと飛び回る俺に、
「ホーク!!」
竜医のミルダが、若い赤竜に乗ってやってきた。
彼女は俺の友人兼マネージャー。
つまり、ビジネスパートナーだ。
俺は、ぞっとした。
まだ、
ここカーアイ島へ引っ越して間もない頃。
工房のリフォームすら、
終わってない頃だ。
俺は、
彼女に対して、
詳しい経緯(いきさつ)は言えないが、
本当に、
手酷い失敗をしている。
そして、
先日も、取り返しのつかない失態を犯したのだ。
たまたま居合わせた、
ちび竜のアトラスが持っていた、
護身用の魔法生贄(デコイ)があったから、
無傷で済んだだけだ。
そして、
シオルのシッターさんたちは、
本当に傷つけてしまった。身体は無事だったが、心にだ。それも、取り返しのつかないくらいに。
だから、
島の皇国神殿にかなりの大金を注ぎ込んで、
魔法穴埋(パッチ)で取り繕った。
筋書きを書き換えたのだ。
大幅に。
俺は、
皇国神殿には、
たまにはお世話になるが、
そんなものがあるなんて、
知らなかった。
この島限定なのか?
わからない。
そして、
魔法穴埋(パッチ)前の筋書きを、
島のみんなは知らない。
知っているのは、
俺やアトラス、ミルダだけだ。たぶん。
だから俺は、
心底怯えていった、
泣きたかった、
顔を覆った、
だから力いっぱい叫んだんだ。
「見ないでくれーーー!!」
しかし、だ。
怯える俺に、
彼女は、
ぱあっと、満面の笑顔で近づいた。
は?
胸には鳶のネックレス。
そして、
ぐぐーっと目を見て、俺に言ったのだ。
「ゴールデンペアの復活よ!!」
◆
そう言って、
舌をぺろりと出しながら、
ドラゴンミントンのシャトルを、俺に見せつけるではないか。
え?
え?!
そして
丘の邸宅のバルコニーからキラリと、
俺の相棒、
白竜シオル、
ではなくて、
紫のちび竜アトラス、
彼は、
シオルの友だちで同い年、
オリオリポンポス山の天文台近くのスーパー一年生だ、
そいつが飛んできて、
俺を、どすんと乗せるではないか!!
『今日は、俺がパートナーだ!!』
いつもは、
頼りない俺を、
呆れて半目になる彼だが、
今日は違う。
今日は、ぜんぜん怒ってない。
は?
はあ?!
何で?!
シオル、シオルは?!
相棒の白竜シオルは、
星空を思わせる瞳で、
うるうると、俺を見ている。
まんまるふわふわは、
また一回り大きくなっていた。
そして、
気分を害するどころか、
ノリノリだった。
竜鎧の白銀の鈴が、
シャリン、シャリン、と鳴っている。
しかも、だ。
ハチマキして、
うちわを持って、
とても楽しそうではないか。
その絵柄は「ゴールデンペア」。
俺とミルダの乗竜写真が、でかでかと乗っていた。
裏は、でっかいシオルだった。
ど、どこから出てきた?!
なんだそれは?!
ええ?!
そして、
うっすら相手チームのシルエットが見えてきた。
目下の丘には、
たくさんのギャラリーが集まった。
みんな、
手を降ったり、拳を振り上げたり、
笑顔だ。
どう見ても、お祭り会場だった。
い、
いいのか、
新米の俺が?
でしゃばっても??
ええ。
でもなあ。
あっ!!
俺はびっくりした。
だって相手は、
ドラゴンミントンの、
ミルダの元パートナーだ!!
詳しくは知らんが、ガタイの良い名士だ。
邸宅のパーティーで、
やたら俺の目をじーっと見ながら、
ミルダにべたべたしてた、
底意地の悪いやつだ。
えっと、
もう一人は、
こっちはまったく知らなった。
どっかの、
ムキムキのおっさんだ。
そして、
なんとなんと、
彼らを乗せてるのは、
この島を仕切る、
金竜ビルのナンバー2と、3である、
若頭くんと、大型新人くんだ。
ということは、だ。
いいのだ。
やっても。
ふふ。
ふふふふ。
そして、
俺はニヤリと笑った。
眼光を光らせた。
そして、
ぺろりと牙を舐めた。
それはそれは、
ものすごく、ものすごーく、
底意地の悪い顔を、
してるはずだった。
(続)
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