第15話 メッキの呪(まじな)い


だっ、だめだめ、

だめだって!!


俺は、激しく抵抗したが、

間に合わなかった。


だって、

彼らに悪意はなかったし、

元竜騎士の俺が本気で抵抗したら、彼らに怪我を負わせててしまうのは、

わかりきっていたからだ。


だから、

本当に困っていた。

焦りもあった。


きっと、

目薬を刺された子どものように、駄々をこねたと思ったんだろう。


「うわあああああーーー!!」


叫んだ。 

身体が痛い!!

苦しい!!

じたばたする俺に、


彼らは、どっと笑った。


しかし、すぐに、

青ざめた。



俺は、

がばっと立ち上がり、

瞳が燃えるように、

熱くなるのを感じた。



◆◆◆

この感じを、俺は覚えている。

あのときは、ラッキーだったのだ。

たまたま、うまくいった。

◆◆◆


ほんとうに、

偶然が、

重なっただけなのだ。


「ああああーーー!!」


そして、

激しくソファを蹴り、

空中に浮かぶと、

ひらりと宙返りした。


神父も、巫女も、

みんな、あっけにとられた。


瞳が熱い!!

身体が軽い!!

羽根のように!!


そして。

鋭い牙が伸びていく。



そして、

高笑いしながら、

素早く彼らの間をくぐり、

大窓を抜け、

夜空に羽ばたいた。


やめてくれ、

やめてくれ、

もう誰も、

傷つけたくなんか、

ないんだ!!



神父たちは呆気にとられたが、


みんな




「あーーっはっはっは!!」


と大爆笑した。


そして、

大急ぎで、魔法封書を飛ばしたり、

大きな窓のある部屋へ移動したり、

竜に乗って、隣近所に報せににいったりした。


「ほらな!」

「まじかよ!」

「お前鋭いな!!」

「今夜は、楽しくなるなあ。」


みんな、目がきらきら輝いていた。


ある者は鎧戸を開け、

ある者は望遠鏡の呪いをかけた。


兄貴分の神父なんて、下をぺろりと出していった。

「こりゃ、回廊に行く手間がはぶけたな!」

そして、呪い紙をどっさりと持ってきた。

「今夜は、飛ぶようにうれるぞおっ!!」


「おい、皇国神殿に在庫を取りに行くぞ!!」

と、竜も飛び交い、てんやわんやだ。


巫女たちは、いつもは関係者だけの、

屋上への扉を、ばんと開け放った。


騒ぎはすぐに、島中の知るところとなった。

丘の邸宅も大騒ぎだ。

竜医院では、

白いちび竜が、

年長の子どもたちや、大人たちの喜びように、

あっけにとられていた。


い、一体何だ?!


そして、

魔法封書が、びゅんびゅん病室に飛び交った。

ナースさんは笑いながら、今日は特別ね、

と言ってそれを見逃した。


島いちばんのひょうきんもの。


「シリウスの再来だあっ!!」


マーケットでは、

ポップンコーンが、オロッポロッポが、

飛ぶように売れていく。



燃える身体を抱えて、

汗びっしょりで、

顔を覆い、

涙の止まらない、

悲しむホークとはうらはらに、


カーアイ島のみんなは、

とっても楽しかった。

わくわくした。


魔法封書が、

あっちこっちにばさばさと飛び交い、

島は、大騒ぎ(カーニバル)だ。


一方、

竜鎧屋のホークは、

ただただ怯えながら、

震えながら、

なぜか、

身体は丘の邸宅へ向かっていくのだった。


(続)

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