第14話 森の皇国神殿、合わない帳尻

◇ 


彼らは、すべて知っているようだった。


だから、

俺は正直に、

ふらっと闇の回廊へ行って、


闇の竜ドーラや、

彼女の友人たちのところへ採寸に行ったり、

扉を直したお礼に、

お茶やお土産を貰って、入江で食べたことを伝えた。

でもそれは、

俺が、竜鎧屋だから仕事で行ったのだ。

徒歩か竜車で行けば良かった。


馴染みの竜医院とはいえ、施錠された正門を飛び越えて、

勝手にショートカットしたのは悪かった、と言った。


それを伝えると、みんな目を丸くして、

あっちゃーーー、という顔をした。

太っちょの神父なんて、椅子からずり落ちた。

神父長も、神父たちも、巫女も来ていた。


「お前、なにやってるんだよ!!」

「そりゃ、報復だ。」

「お前はさあ、とくにだぞ!!」


だから、

この森の皇国神殿は、

闇の回廊から報復を受けたのだと、

彼らは言った。


このところ、

何かと、帳尻が合わなかったのだそうだ。

明らかに、なにか盗られているふしがあったのだそうだ。


そしてそれは、

おそらくここが、俺の行きつけだからだそうだ。

工房兼自宅から、一番近いということだ。


彼らは言葉を選び、

すごくすごく、優しく言った。

わけがわからなかった。



「もちろん僕たちは、そんなこと思わないよ。」

「でも、そういうもんなんだよ。」

「こっそり盗むだけだったんだ。いままでは。」

口を揃えた。


そして、うーーーんと考え込んでしまった。


兄貴分らしい神父が言った。

「うちの金を取られるのは、困るなあ。」


俺は知ってる。

彼は、よく売店に居る神父だ。

呪い紙や、クッキーなど、お土産を売っていた。

きっと、一番迷惑しているんだろう。



俺は、

奥にある、関係者の部屋へ通された。


「僕たちは、君の仕事にケチをつけるわけじゃないよ。」

「心配なんだよ。」

「頼むよ。」


闇の回廊を通るのは構わないが、

きちんと手順を踏んでくれ、と行った。


俺はよくわからなかった。

また齟齬が生じているようだった。


まてよ、と思った。

またしても、


島のローカルルールなのかもしれない。


ここは、

大人しく従おう。



そして、闇の回廊に入る際の、

一般的な手順を、教えてくれた。


まず彼らは、

俺にラト毛を縫い付けた、

たっぷりとした外套を羽織らせた。

そして、きれいに身繕いさせた。


次に、俺の瞳に、

メッキの呪いをかけるという。

本物の瞳をむき出しにするのは、危険すぎると彼らは主張した。

「い、嫌だ!嫌だ!」


兄貴分の神父と、ふとっちょの神父は、

ぷぷっと、顔を見合わせて笑った。

「まあまあ。やってみなよ。」

「嫌なら、取ってあげるから。」と言った。


俺は焦った。

激しく抵抗した。


きっと、

怖がってると思ったんだろう。

それは、

そうなんだが、

たぶん、

彼らの考えてることとは、

違うのだ。


「やめろおおおーーー!!」


そして、

どん、と彼らを突き飛ばしてしまった。

玉突きで、巫女(シスター)が、

どてーんと、尻餅をついた。


あっ、、、


固まって、

また泣きそうな俺の目に、

彼らは素早く、

俺の眉間に、メッキの呪い紙を張った。


「大丈夫だから。」


判ってる。

彼らに悪意なんて、全然なかった。

だってむしろ、迷惑をかけられた側なのだ。

それなのに、ずっと優しかった。


彼らはただ、

俺のためにやってくれているのだと。


俺は、わかりきっていた。


しかし。

俺は、

…。


(続)

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