第14話 森の皇国神殿、合わない帳尻
◇
彼らは、すべて知っているようだった。
だから、
俺は正直に、
ふらっと闇の回廊へ行って、
闇の竜ドーラや、
彼女の友人たちのところへ採寸に行ったり、
扉を直したお礼に、
お茶やお土産を貰って、入江で食べたことを伝えた。
でもそれは、
俺が、竜鎧屋だから仕事で行ったのだ。
徒歩か竜車で行けば良かった。
馴染みの竜医院とはいえ、施錠された正門を飛び越えて、
勝手にショートカットしたのは悪かった、と言った。
それを伝えると、みんな目を丸くして、
あっちゃーーー、という顔をした。
太っちょの神父なんて、椅子からずり落ちた。
神父長も、神父たちも、巫女も来ていた。
「お前、なにやってるんだよ!!」
「そりゃ、報復だ。」
「お前はさあ、とくにだぞ!!」
だから、
この森の皇国神殿は、
闇の回廊から報復を受けたのだと、
彼らは言った。
このところ、
何かと、帳尻が合わなかったのだそうだ。
明らかに、なにか盗られているふしがあったのだそうだ。
そしてそれは、
おそらくここが、俺の行きつけだからだそうだ。
工房兼自宅から、一番近いということだ。
彼らは言葉を選び、
すごくすごく、優しく言った。
わけがわからなかった。
◇
「もちろん僕たちは、そんなこと思わないよ。」
「でも、そういうもんなんだよ。」
「こっそり盗むだけだったんだ。いままでは。」
口を揃えた。
そして、うーーーんと考え込んでしまった。
兄貴分らしい神父が言った。
「うちの金を取られるのは、困るなあ。」
俺は知ってる。
彼は、よく売店に居る神父だ。
呪い紙や、クッキーなど、お土産を売っていた。
きっと、一番迷惑しているんだろう。
◇
俺は、
奥にある、関係者の部屋へ通された。
「僕たちは、君の仕事にケチをつけるわけじゃないよ。」
「心配なんだよ。」
「頼むよ。」
闇の回廊を通るのは構わないが、
きちんと手順を踏んでくれ、と行った。
俺はよくわからなかった。
また齟齬が生じているようだった。
まてよ、と思った。
またしても、
島のローカルルールなのかもしれない。
ここは、
大人しく従おう。
◇
そして、闇の回廊に入る際の、
一般的な手順を、教えてくれた。
まず彼らは、
俺にラト毛を縫い付けた、
たっぷりとした外套を羽織らせた。
そして、きれいに身繕いさせた。
次に、俺の瞳に、
メッキの呪いをかけるという。
本物の瞳をむき出しにするのは、危険すぎると彼らは主張した。
「い、嫌だ!嫌だ!」
兄貴分の神父と、ふとっちょの神父は、
ぷぷっと、顔を見合わせて笑った。
「まあまあ。やってみなよ。」
「嫌なら、取ってあげるから。」と言った。
俺は焦った。
激しく抵抗した。
きっと、
怖がってると思ったんだろう。
それは、
そうなんだが、
たぶん、
彼らの考えてることとは、
違うのだ。
「やめろおおおーーー!!」
そして、
どん、と彼らを突き飛ばしてしまった。
玉突きで、巫女(シスター)が、
どてーんと、尻餅をついた。
あっ、、、
固まって、
また泣きそうな俺の目に、
彼らは素早く、
俺の眉間に、メッキの呪い紙を張った。
「大丈夫だから。」
判ってる。
彼らに悪意なんて、全然なかった。
だってむしろ、迷惑をかけられた側なのだ。
それなのに、ずっと優しかった。
彼らはただ、
俺のためにやってくれているのだと。
俺は、わかりきっていた。
しかし。
俺は、
…
…。
(続)
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