第2幕 戦場行商と取引

一夜明けて

・・・。

・・・・・・知らない天井だ。


まさかこんな言葉を自分が使うことになるとは思わなかった。

豪華なシャンデリア、ふかふかのキングサイズベッド。黒檀でアンティーク調な、でも決して下品ではない華美な家具と調度品。

中世ヨーロッパと和風の良いとこどりをした都合のいいファンタジー世界においても、かなりグレードの高い場所だということが分かる。


「お?おーおーおー、キョウくんキョウくん、おきたー?目覚めはどーだいー?」

響く邪神クソガキの声。

みるとのんきに果物なんぞ食べてやがる。


「・・・目覚めはおかげさまで最悪だよ。あの後、いったい何があった?」

言いながら自分の体調をチェックする。

特に、不備不調はなさそうだ。


「そーだねぇ、そーだなぁー。端的にいうと倒れたキミをボクが解放して、襲い掛かってきたこわーい人と取引して、一時的に最高の拠点を手に入れた!ってとこだねぇー」


言われて、蘇る記憶。

自分なんかは歯牙にもかけない、超越者という強者達。

そしてそれを、はるかに上回る英雄。

そして・・・


「・・・お前は、いったい何なんだ?」

それすらを凌駕する圧倒的な力。


「ボクかい?ボクは、ただの邪神だよ!キミというプレイヤーで暇つぶしをしているねー。まーただ、この世界で過去に、同族が暴れたことがあるみたいでさぁ。そーこーで!どうも人族の王たちは話し合いをしたいみたいなんだよね!」


「話し合い、ね」


はたして、人間とアリの間に話し合いなんて通じるだろうか。

否だ。価値観もそうだが、

そして、それは・・・


「・・・・・・つまり、今の俺もそうだということか」

多少のチートを持つとはいえ、LV1の俺と英雄・逸脱者。その間に取引が成り立つのは、【あくまで相手の厚意があって】の話だ。その足元は、あまりに脆い。


「うん!うんうんうん!!ボクがキミに闘技場をみて、現地のレベルを体感してもらった意味が通じたみたいでよかったよー。


そうさ。キョウくんがいた世界は、約束をお互いに守って当然、相手がルールを破れば、司法が、社会がそれを罰してくれるというやさしい世界だ。でも、ここはそうじゃない。吹けば飛ぶようなキミは、だれにも守られない。


まぁーとはいえー。いきなり、英雄級が乱入するなんてのは想定外だったけどね。」


「どうすれば、いい。俺は、正直戦ったことなんてない。あんな英雄/バケモノはもちろん、逸脱者と呼ばれる者たちにも遠く及ばない。・・・どうすれば、いいんだ。」


握りしめる、拳。

だが答えは簡単に返ってきた。


「おいおいおい!まだ転生して1日しかたってないだろー。ボクの本体がキミをこの世界に送ったとき、何ていったのか忘れたのかい?


しょーがないなー。本来これは君自身が思い出してもらわないといけないことだけど、ボクはキミを気に入りだしている。だから特別サービスさ。


】のさー。」


「金の・・・力・・・」


「そう!そうさー。何もお金の力というのはキミのチートだけの話じゃない!


力がない?なら力を持つものを雇い入れて、使えばいいのさ!


雇った力を使いこなすことができない!その知識を、技術を、それを持つものを雇えばいいのさ!


雇った人間に忠誠を誓ってもらう力がない?雇用という利益と取引を継続的に提供し続け、雇われた状態が最良とすればいい!


そして!そのために!キミはこの世界で、お金を集める!そうすれば道がひらけるのさ。いいかい?人は【金で買えないものが、本当に大切なものだ】というしそこに否はないけれどそんなものはほんの一握り。ほとんどのものは【金で買える、金に換えることができる】のさ!!」


「・・・・・・。」


そうか。

そうだな。

そしてそれができなかったからこそ、俺は1回目の人生で失敗した。


この異世界で、俺は。

俺は、今度こそ・・・・!!


「おい邪神。一度しか言わないからよく聞け」


「うんー?なんだい?」


「・・・ありがとうな。」


キョトンとする邪神。

その後、性格の悪さがにじみ出たニヤニヤ笑いを浮かべる。

あぁ、いうんじゃなかった・・・!


「ほーほーほー!なんだいキョウくん、デレ期かい??さっきもいったけどー、まだ転生して1日目だよー?よくちょろいっていわれないかい?」


「うるせぇよ」


顔が赤くなってるのが分かる。

とりあえず俺は布団をかぶって、ふて寝することにした。

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