幕章 北部草原の戦場

006.戦争剣士という仕事

私はスロー。

人間族の戦争剣士だ。戦争剣士って何かって?


国家の正規軍以外の歩兵、つまりは傭兵だ。

傭兵といえば聞こえがいいが、戦場で大活躍して、大金を稼いでなんてのはほんの一握り。現実は軍になじめない粗暴もの・問題児・山賊の副業...etc

ろくなものじゃない。そして今も・・・


「ねぇちゃん、一晩いくらだ?」

ほらきた。この手のクズに事欠かない。


「悪いけど、非売品だよ。金で自分の命と戦力を売ってるがね。買えるものに、私の貞操と心までは入っていない」


「ケッ、お高くとまりやがってよ」

言いつつ去っていく山賊ファッションのモブA。

・・・なんだ、ずいぶんお行儀がいいじゃないか。


「へっへっへ。姉さん災難だったな」

山賊の次は黒フードの、いかにも魔導士・・・いや、魔術師か?

ともかくその手の人種ですと言った風貌のモブB。


「はぁ。今日は付きまとわれるデーってやつね。しかも好みじゃあない男にばっかり」


「ご挨拶だなぁ。だがまぁよ、わかるだろ?戦場の最前線なんざ、やることがないものだ。殺し、殺され、食う・寝る・ヤる。そんなもんだ」


「全くいやになる。この戦争はいつ終わるのやら。」


「数では人類有利。レベルは魔族有利。挙句正規軍は双方、。雇われの傭兵同士で命を懸ける筋合いはねぇときてる。そりゃぁ硬直状態にもなろうってもんだし、頭に血を上げて暴れる必要もなけりゃぁ多少はお行儀もよくなろうってもんだぜ」


「その割には品のない誘いだったがね。前線に品性という商品は入荷してなかったと見える」


「そりゃ姉さん、間違いだ。そもそも仕入れるつもりがない商品は、入荷しっこないってもんだ」


「そりゃそうか。」


まぁ実際、「イケたらいいな」ぐらいのナンパで本気ではなかったんだろう。

あっさり引いたのがその証拠。目くじらを立てる必要もないか。


「で、あんたは?暇を持て余している口か」


「まぁなぁ。あとは見極めかね。こういう平和な間に、一緒に突っ込むチームで【使えそう】な奴を調査しておくってのも、生き残る秘訣ってもんだ」


「なるほどね。勤勉だね」


「だからこそ、この年まで生きてこれた。老人の知恵ってやつだよ。まぁ俺はまだこう見えて40代だがね。」

なるほど。その方針に否はない。外見と年齢に関してはノーコメントだが。


「じゃあ、自己紹介と行くかね。私はスロー。見ての通り剣士で、剣と盾で戦うオーソドックスなスタイルさ。レベルは20。ま、見ての通り平均的な戦争剣士だよ。」


「そうかいそうかい。俺はフォグ。魔術師 兼 薬師ってやつでレベルは24。こちらもオーソドックスな攻撃魔法と、ポーションによる戦闘補助ってとこだね。年齢は42歳ってとこさ」


再びの年齢。まさか私に歳を聞いているのか?


「おい、それを言ってどうする。まさか女性に年を尋ねる気か?」


「言っただけさぁ。そんな魔導書の知識と同じく腕が食いちぎられそうなこたぁ、しりたくないね」

モブBあらためフォグ。

散々な言われようだが、まぁこの程度は挨拶だろう。


「ふん・・・まぁいい。とりあえず覚えておく。お互い死なないようにしようか」


「そぉだな。とはいえ、戦いたいわけではないが、そろそろ変化が欲しいところだ」


・・・・・・それに対しても否はない。

戦いが激化してほしいとも思わない。だが、この状況が続いてほしいとも思わない。

何とも矛盾し、何とも難しいものだな。



この時私たちはまだ想像だにしていなかった。

戦場が変わる、その瞬間を。

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