選択【悪夢】 エピローグ


「有斗!おはよーさん!」


 学校へと続く通学路で、いきなり後ろから背中を叩いて来たのは、幼馴染で親友の貴志だった。


「ってー! 加減しろよな!」

 とはいうものの、俺の顔はにやけていたに違いない。現実世界に戻り、皆に会えた事が本当に嬉しかったから。


「今日から高校2年か~。でも、本当にお前が無事でよかったよ。マジで心配してたんだからな!」


 俺はこの現実世界で、去年のクリスマスイヴにガーディアンという組織に誘拐され、数ヶ月間のあいだ行方不明だったとされていた。


「心配掛けて……、すまなかったな」

 これは俺が現実に戻った際に、事実を伏せるためにADMが下した失踪理由だった。


 今日は4月8日。

 高校の始業式があり、登校途中の生徒から、チラホラと好奇心の眼差しを受けている事がわかる。しかし、そんな些細な事を気にする気持ちにはならなかった。


 俺はひとりの女性と理想を違え、結果、彼女ズイムを殺す事となったのだから。


 彼女の理想と手段は正しかったのかもしれない。

 道端で物乞いしている男性を横目にふと思う。

 しかし、俺は選択した。上書きしない現実を。


「なあ、有斗。お前何だか雰囲気変わったな…何か目的でも見つけたか?」

 貴志は鋭いな。そう、俺は……。


「セクター長になりたいんだ」

 彼女達ガーディアンの目指した理想にはたどり着けないかもしれない。

 でも、彼女の平和な世の中という意志には近づけたい。

 俺が一時いっとき、心惹かれた彼女の想いを俺なりの方法で…。


「そうか、頑張れよ。応援するぜ!」

 笑われると思ったが、真剣な顔で貴志が言ってくれた。


 通学路には桜が咲き乱れ、風に飛ばされた花びらがゆっくりと舞っている。


 ふと突然、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

「ナ…じゃなかった。アルト、おはよう」


 振り返るとそこには ──。

ツインテールの青髪が風に揺れる、由乃ズイムの姿があった。


「今日から同じ学校ね!」

 その少女は間違いなく実在し、俺に話しかけていた。


 俺はその少女に向かって返事をする。

そう……。俺が心惹かれたではなく。

『好きになった人』


「おはよう、芽亜アクム」と…。


 ── 現実に戻った直後だった。

湯田さんウラギリモノが、嬉しさと切なさが滲む表情で「お帰り。よくやってくれた、アルト君」と、迎えてくれた。


 俺はカプセルから身を乗り出し、微かな希望を口にした。

「ユノやカイセさん、ガーディアンの皆んなは戻ってませんか?」

 彼は言った。戻ってきたのは、『君一人だよ…』と。  豊田さんと柳瀬さんも、この現実に戻る事を拒否したらしい。


「そう……ですか」


 その言葉の直後だった。

湯田の表情が固まったため、その視線の先を追ってみると、隣で開いたカプセルからユノが起き上がっていた。


 いや、それはユノの姿をした ──

「え?! ナイン! 私……?」

 芽亜アクムだった。


 これは、リヴィアの計らいだったのだろうか。感謝の気持ちだったのだろうか?

 その真意を確かめるすべは無いけれど、俺は嬉しかったのは事実だ。


 それと、今になって思う事だけど、

人が人を愛するのは『肉体』ではなく『精神』なのかもしれない。


「こんな私でも、好きでいてくれるの?」

 そう投げかけてきた彼女に俺は答えた。


「もちろんさ。でも……人使いの荒いアクムさんは、勘弁してくれよ?」


「本っ当に、ナインは! アルトになっても一言多いっ!」

 そう笑顔で語る彼女のを見て、

俺は心からそう思ったから。


      ── END 2 ──

       解き放たれた輪廻     

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