第27話 出逢い
誰かが呼ぶ声が、遠くで聞こえる。
── ここは…
「……ぶ、………か?」
── 身体が……。焼ける様だ。
「大丈夫…ですか?」
── 誰かが、話しかけて?
「ねえ!返事して! 一体どうしたら……」
目を開けると、目の前には同年代の少女が心配そうに覗き込んで来ていた。
「ああっ!気がついたのね。でも、酷い怪我……。早く病院に行かないと!」
黒いセミロングの髪は埃で汚れ、身に付けている白のコートは赤い斑模様をしていた。
いや…これは……血なのだろう。
「き…きみは?」やっと口から言葉が出るが、全身を走る激痛と共に意識が遠のきそうになる。
「私は芽亜…それよりっ! 傷の手当てを。PICTが通じなくなって救急車も呼べないの!」
……一体、何が…起こって…?
ああ、それより…凄く眠くなって来た…。
「ねえ!眠ってはダメ! そうだっ!あなた名前は!?」
── 俺の…名前……あれ?
…俺は……誰だ??
「うぅ……ゎ…かラ……ナイン…ダ…」
鉄の味がする口を開き、必死で言葉を絞り出す。しかし、声はかすれ、呼吸するのもままならない状況だった。
彼女は俺に語りかける。
「ナインさん!しっかり!」
……ナイン? 俺の…名前か…?
その時だった。頭の中に声が響いた。
『逃がさないわ…私は皆から褒め称えられるのよッ! ああっ、嬉しい!』
そこには、虹色の髪と瞳をした幼い少女が。
背中からは輝く触手が揺らめき、人ではない事が容易に伺い知れる。
頭の中に、『危険』『逃げろ』と言葉が渦巻くが、理由すら思い出せなかった。
次の瞬間、その人外から放たれた触手が芽亜と名乗った少女の右胸を貫いた。
耳に響く芽亜の絶叫。その声を楽しむかの様に、虹色の少女は『そんなところに突っ立っているからよ? 邪魔な女。うふふっ』と、口に手を添えて笑う。
芽亜を貫いた触手は、そのまま俺の首に突き刺さった。
『さあ、その力、貰うわよ』
虹色の少女は嘲笑を浮かべると、その瞳の輝きが増した。
「く、うぅ!」
まるで魂が抜き取られる様な感覚に、『死』というフレーズが頭をよぎる。 その中、虹色の少女は首を傾げ眉間にシワを寄せていた。
『うん? 何でそこの女が
その少女が掌を芽亜に向けると、手のひらに光が集まりはじめた。
── 駄目だ! 芽亜を助けないと!
そう思った次の瞬間だった、まるで自分の意思とは無関係に手に持っていた刀を振り抜いていた。
剣先から放たれた緑に輝く波動が、虹色の少女に吸い込まれる様に疾る。
それが触れた瞬間、まるで虹色のガラスが飛散するかの如く、少女の姿は消え去った……。
── 意識がかすれてゆく。
その中、『ナイン…ありがとう…』という芽亜の消え入りそうな声と、彼女の髪の色が金色に変わっていく姿が、『綺麗だなぁ』などと考えていた。
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その後、病院で目覚めた時には、俺の記憶は完全に無くなっていた。
「ナインっ! 気がついたのね! 本当によかった…」
声を掛けて来たのは、深い緑色のコートを身に纏い、黄金の髪を後ろで束ねた少女。
その左の瞳は美しい虹色をしていた。
「1週間も意識が戻らないなんて、ほんと心配したのよ!」
「誰ですか!?」
そう言いながらも彼女に見覚えがある様に感じたのは、気のせいだろうか。なんとなく、命の恩人という言葉が頭に浮かび、信頼してもいい人物だと感じた。
彼女は笑顔で腰に括り付けている刀の
「あっ、そうそう。私はアナタを守る
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interception Report
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── 報告致します。
12月24日、土曜日。
時刻は15時29分。
現在地S•ナゴヤ、潜入先の成蘭高校屋上で監視を継続しています。
はい。イヴ様の予想通り先程ターゲットのアルトが『こちら』に侵入しました。
かなり離れていましたが、俺の気配がわかるらしく…… 。こちらに視線を向けてきました。
ええ、大丈夫です。気付かれていません。
引き続き監視を行います。
アルトは現在、『彼』と接触していると思われます。次の動きがありましたら報告致します。
それでは、一旦通信を終了いたします。
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── 報告致します。
現在時刻は、17時36分。
ターゲットを追跡中。中央塔に向け移動中です。
…… はい。 アルトの他に、泳がせていた娘も一緒です。
恐らく、カイセもユーピテルの掌握後こちらに侵入するでしょう。
全員始末したのち、イヴ様のカケラは奪還します。
ご安心ください。
おっと! ……いや、失礼致しました。
アルトがこちらに振り向きまして。
やはり、『同じ侵入者』だと、何か波長のようなものが合うようです。
突入のタイミングは『彼』が知らせてくれます。『彼』は裏切ったりしませんよ。 妻子を人質に取っているんですから。
今、アルトが中央塔に入りました。
『彼』からの合図があるまで、『友達ごっこ』を続けて潜入しておきます。
……はい、必ずや、やり遂げます。
我らの理想の為に……イヴ様。
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!!! イヴ様っ!
非常事態が起こりました!
『ガーディアン』の『セレクター』が、オリュンポス内で出現っ! 一体どうなって!?
はい、今向かっていますが。…くっ、邪魔をするなぁ!
失礼しました。こいつら、俺を攻撃しようと!
……はい、奴らの計画は何らかの妨害に遭った様です! 原因を早急に……?
はぁ!? なんだ…これは?!
イヴ様…中央塔が……。
得体の知れない物質で覆われています。
俺の力でも傷一つ付きませんっ!
……はい。
承知しました。 一旦帰還します。
……えっ?
アルトが送ったメールからガーディアンの所在地が判明したですって?
では……。はい、承知しました。
急ぎセクター•トウキョウに戻ります。
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親愛なる観測者の皆様
アクムとナインのアーカイブデータ閲覧を終了しました
時系列を戻し『物語』を再開します
引き続き、アクムとナインのイメージを固めて頂ける事を願います
── リ※ィア
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