第28話 アクムの続き

    【 LOG:アクム 】


 私は重い瞼を開くと、白い天井と照明がボンヤリと目に映った。

 ── そう…ここは、S•ヒロシマの居住区だったわね。


 それは、長い夢から醒めたような。


 全てが夢であったならと、願うような。


 そんな都合のよい筈がないと知りつつ、鏡に目を向けると、あるべくして金色の髪と片方が虹色の瞳が映っていた。


「母さん…父さん……アズサ、トオル…」

 失った者の名を呟き、その姿を脳裏に浮かべる。

「ズイム。あなた達を、私は許さない。 私は、このデータ上の世界を破壊する悪夢になろうとも……。現実世界の私達を救ってみせる」


 壁に投影されている時刻をみると、ナイン達との待ち合わせには、まだ時間があった。

「シャワーを浴びる時間は充分あるわね……」


 立ち上がり着替えを済ませると入り口に向けて歩き出す。

 この部屋には洗面所やシャワールームといった水廻り設備が無く、離れにある共同施設まで行く必要があった。


「あれ?扉が開かないじゃない」

 本来、生体認証で自動的的に開く扉は動かず、力任せにこじ開けようとするも一切動く気配が無かった。

「全く、故障の多いセクターね!」


 仕方ない、扉を壊すか。と、あの厄災の日にナインが持っていた刀を握りしめ、暫撃を放つ。 すると、扉が斜めに割れ床に崩れ落ちるが……。

「どういう事…?」

 そこには金属の壁が現れた。私は閉じ込められていたのだ。


「何のつもりか解らないけど、こんなもので私を閉じ込めれないわよ!」

 再度、金属の壁に向け暫撃を放つが、刀は弾かれ金属の壁には傷一つ付かなかった。

「まさかこれって。パンドラの……素材?!」


 焦燥の念にかられつつ壁、床、天井を目掛けて暫撃を放つと、一瞬で内装は残骸と化した。が、全ての方向が金属で覆われていた。


── 閉じ込められた!?


 その最中、不意に『ガタン』と部屋自体が動き出し、バランスを崩した私は床に倒れ込んでしまった。

── 部屋ごと運ばれている!?


 決して善意では無い。悪意しか感じられない出来事に私は後悔する。

 キサラギから、セクター長のセンガに気を付けろと忠告があったのにと……。


 そんな自分への怒りを刀に込めると、その刀身は青い炎を纏った。

「これでっ!」

 金属の壁に目掛け、渾身の一撃を放つが表面が僅かに焦げる程度にしかならなかった。

「悪夢だわ……」


 ── ナイン、ウラギリモノなら通信が。

 僅かな期待を込めてPICTを起動するも、『通信不可能』の文字が希望を打ち消した。


 為すすべが見当たらず、その場にへたり込む。

 私はナインを守らないといけないのに、どうして肝心なところで……。

「みんな、ごめんなさい」



 それから、どれ位の時間が経ったのだろう。とても長かったような、短かったような。

 そんな朦朧とする中、ガタンと音を立て部屋の揺れが止まった。


 どこかに到着した様子だったが、その後暫く動きが無い。PICTがエラーを表示していた為、時間が曖昧だったが感覚的に1日も経っていないはずだった。


 このまま、いつまで監禁されるのだろう? 私が弱るのを待っているのだろうか? 所々に細かい空気穴があるため窒息の恐れは無さそうだが流石にお腹が背中にくっつきそうだ……。


 その間も部屋の隅々まで調べまわるが、脱出の糸口は掴む事は出来ずベットに横たわる。

 「……ナイン」

 私は悔しさと無力さを噛みしめ、白馬の王子様の名を呟いた時だった。

 部屋全体に微振動が伝わってくる。…箱が…開く?


 唐突に入り口側の金属の板が外に向かって倒れ、室内にも大きな音と振動が伝わった。

「出られる!」

 辺りを警戒しながら、外に出ると……。


 学校の体育館位はあるだろうか? そこは大きく開けた空間だった。四方は今までと同じ金属で覆われている…。恐らく、私の攻撃は通じない。


 現状把握のために辺りを見渡したその時、空間内をスピーカー越しに男の声が響いた。

『アクムさん、手荒な真似をして悪かったね。なにせ、センガの依頼だったので断ることが出来なかったんだ。この国を守るためだ、私の研究に協力してもらうよ』


「何のつもりっ! 私達は天魔を殲滅するために行動しているのにっ!」


『知ってますよ……。でも、あなた達の力が何なのか解析できれば、今後、この国の戦力は世界の頂点に立てるんです』


 ── なぜ、人は他人より優位に立ちたいと考えるのか?

 大きな力を責任感無く、手に入れようとする者には協力しないっ!


『先ずは、あなたの性能を見せてください。選りすぐりの兵士を集めました。さあ、戦ってください!』


 対面の壁に隙間が出来ると、3人の男が入ってくる。

『なんだぁ!小娘じゃあないか!』

 大きな斧を持った巨漢が険しい顔つきで言い放つ。


『例え相手が女子供でも容赦はしない…それがプロって物でしょう?』

 忍者のような姿の男。その手には刀を握っている。


『彼女ぉ〜。手加減してあげるから、終わったらデートしない? 結構、俺のタイプだし!』

 なんだコイツは……槍使いか?


 ── 残念だけど、負けそうにないわね。


 3人はやる気が漲っていた。その声が、空間に響き渡る。

『俺様の『闘斧とうふ』の餌食にしてやる!』

『私の『忍刃にんじん』が血を求めている…』

『彼女ぉ俺の『宝蓮槍ほうれんそう』は痛いよ?』


 ── うん?

   なんて言った?


 何だか、お味噌汁の具みたいな事言った?

私は腹ペコなのよっ!


 次の瞬間、3人が同時に仕掛けてくる……が。

『この世界の基準』では強いのかもしれないけど、この瞳に映る光景は3人で仲良くお遊戯をしているみたいだった。

「はぁ……」


 一瞬で3人を片付けた。勿論、峰打ちで……。


『なあっ!? 特殊部隊のメゾ・シールズを一瞬でだと! しかも同時に!?』


 ── 味噌汁ズ?

 いけないっ!空腹で幻聴が……。


「それより!」

 私は見ていた。3人が入ってきた場所。 その壁だけ、材質が違っていた事を。

「あなた達の遊びに付き合ってる暇はないのよ!」


 その壁に歩み寄り斬撃を放つと、思った通り派手な音を立て、その部分が吹き飛んだ。

「ナイン、タイチョー、無事でいてね……」


 そして私は、そこから脱出した。

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