第4話

 弟の章が当店にいきなり、来てから2週間程が経ちました。


 季節は11月の下旬に入ろうとしています。もう、落ち葉が散り、日増に寒くなってきました。けど、今日もわたくしはお店に立っています。

 いつものように神野さんと話していたら。カランカランとドアに付けたベルが鳴ります。そちらを見たら、章と見知らぬ女性が小さな子を2人連れて来店していました。

 たぶん、左側で女性と手を繋いでいる子は3歳かそこらでしょうか。章に抱っこされている子はまだ、1歳くらいかと思います。


「智津ちゃん、約束通りに皆で来たぞ」


「いらっしゃい、あの。そちらは?」


「ああ、左側にいるのが俺の奥さんでさ。名前は次美つぐみって言うんだ。んで、次美の隣にいるのが息子の哲哉てつやで。俺が抱っこしているのは娘の捺月なつきでさ」


 わたくしは頷きます。章が奥さんの次美さん、お子さん達を簡単に紹介してくれましたし。次美さんに会釈をしました。


「初めまして、私は章の姉で入江智津子と申します」


「あ、はい。初めまして、智津子さん。章が紹介してくれましたけど、改めて。私、入江次美と申します」


「えっと、章、次美さん。それと哲哉君に捺月ちゃんね。よろしくお願いします」


 わたくしが言うと、章はカウンター席にやって来ました。神野さんは気を使って端っこに移動します。章は丁度、真ん中の席に座りました。次美さんは彼の右隣、哲哉君は膝の上です。


「……じゃあ、俺はホットコーヒーとパンケーキにする」


「私もホットコーヒーとアップルパイでお願いします、哲哉はホットミルクとクッキーかな?」


「うん」


「後、捺月はアップルジュースをお願いします」


「分かりました、ホットコーヒーが2つとパンケーキが1つ。アップルパイが1つ、ホットミルク1つにクッキーと。アップルジュースも1つですね。少々、お待ちください」


 わたくしは頷いて、カウンターの裏側に行きます。ホットコーヒーはマキネッタで焙煎や抽出をしてポットに入れます。そして、カップに注ぎました。

 ソーサーにコーヒーフレッシュやスティックシュガー、スプーンを添えます。次に、ホットケーキミックスに生クリームや卵黄、メレンゲ、お砂糖を入れて。泡立て器でひたすらに混ぜます。一通りできたら、丸い金属製の型を鉄板に置きました。パンケーキの生地をおたまじゃくしで型の中に流し込んでいきます。そして、朝方に作り置きしていたアップルパイを軽くオーブントースターで温め直しました。

 生地の裏面が焼けてきたら、コテでひっくり返して。蓋をして蒸し焼きにします。トースターが鳴ったら、パイを取り出しました。お皿に盛り付け、ミントの葉っぱを載せます。

 しばらくしたら、蓋を開けてパンケーキもお皿に盛り付けました。バターやクランベリーの実、ジャムを掛けて。メイプルシロップを添えたら。トレーに載せてカウンター席に出します。


「とりあえず、お待たせしました。ホットコーヒーとパンケーキ、アップルパイです。哲哉君達の分はちょっと、お時間をくださいね」


「分かった、悪いな。智津ちゃん」


「いいのよ、急いで用意するから」


 わたくしはそう言って、カウンターの裏側に戻ります。牛乳を片手鍋に注ぎ、弱火に掛けました。お皿にクッキーを盛り付けて、アップルジュースも氷を入れたりします。ストローを添えて。牛乳は木べらで軽く混ぜて沸騰する前に、火を止めます。カップに注ぎ、トレーに再び載せました。


「ごめんなさいね、哲哉君のホットミルクとクッキーに。アップルジュースですよ」


「ありがとうございます、けど。智津子さんお手製かな?このアップルパイ、美味しいですね!」


「気に入ってもらえたなら、嬉しいです。さ、ゆっくりとしていってくださいね」


「はい」


 次美さんが頷いて。わたくしは彼女の斜め前辺りに、ホットミルク入りのカップやお皿、アップルジュース入りのコップを置きました。すると、興味深々とした様子で哲哉君や捺月ちゃんが見ています。


「あら、あなた達の分よ」


「おねえしゃん、たべていいの?」


「うん、これは哲哉君のミルクとクッキーよ。アップルジュースは捺月ちゃんのだけど」


「わかった、いただきます!」  


「ちゃんと言えて、偉いわねえ」


 わたくしが言うと、哲哉君は嬉しそうに笑います。捺月ちゃんもじっとアップルジュースを見つめました。


「さ、哲哉。食べさせてあげる、カップは自分で持ってね」


「あい!」


 次美さんはそう言って、クッキーが盛り付けられたお皿を引き寄せます。ミルク入りのカップは哲哉君が自分で持ちました。ちなみに、ちょっとだけお砂糖を入れています。

 アップルジュースは章に渡しました。


「……おいしい!」


「良かったわ、クッキーも食べてね」


「うん!ありがとう、おねえしゃん!」


 満面の笑顔で哲哉君は言います。しばらくは賑やかな雰囲気でいたのでした。


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喫茶店〜sea ​​cove〜 入江 涼子 @irie05

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