第24話 ゴーレムを顕現させたい

 動いて問題ないって、叔父様からのお墨付きを貰ったから、帰って来たよ。

 流石に魔物討伐の続きは、させたくなかったしね。

 今朝の出来事はお母様とクレアが報告してくれたんだけど、日程の変更はしないみたい。

 容疑者?魔物だったけど捕まえたし、目玉から取り除いた呪詛も、封印して王弟に渡してある。

 襲われた目玉も元気だから、問題無いって判断したみたい。


 それはそうと、岐路もだけど王都に戻ってからも心配だったから、お妃様が持ってる宝石貸して欲しかったんだけど…

 魔石作るのに失敗して、全部砕けちゃったんだって。

 王弟からのプレゼントだから、捨てられずに取ってあるって言うし、目玉に頼んで預かって来て貰った。

 「砕けた宝石など、どうする気なの?」

 「お爺様の所に行くから、ポチに乗って」

 「辺境伯に用事があるのかい?僕が同行する意味を、教えてくれないかな」

 「魔物討伐よりも、国境がどんな状況なのか把握する方が、王族として大事な事なんじゃないのって思っただけ。それに、砕けちゃってても王族の持ち物だし、私が持ち歩くのは駄目でしょ」

 「なるほど…それで、戦場と宝石は、どんな関係があるの?」

 「そこは、関係無いよ」

 「え?」


 戦場を見下ろしたら、案の定西の国と揉み合いしてる。

 カバジェロ発見!

 「いい、絶対ポチから降りないでよ、分かった?」

 「分かった。ティアに言われた通り、戦場がどのような状況なのか、しっかりこの眼に焼き付けるよ」

 「カバジェロが来たら、その宝石渡してね」

 目玉が頷いたのを確認して、ポチから飛び降りた。

 そしてカバジェロの前に立つ。

 戦場に突然大型の、それもドラゴン級の魔力を持った魔獣が現れた事で、敵陣は大混乱のようだ。

 ポチの咆哮は大地を揺るがし、風を巻き起こす。

 天災ってやつだ、敵陣営が木の葉の様に、吹き飛ばされてく。

 「ティア嬢!突然目の前に降って来るとワ…貴方はやはリ、僕の女神っグヘッ」

 私は鳩尾に一発くらわした。

 流石腐っても辺境伯軍の一員、不意を突いた渾身の一撃だったけど、たいしたダメージを与えられなかった。

 「見事ナ一撃、癖になりそウ」

 超絶悔しいんですけど!

 敵を裁きながら、前髪をかき上げウットリしてる姿が、余計ムカつく

 腹立つな… 

 「宝石を、元の状態に戻して来て。こいつらは、私が倒しておくから、宜しく~」

 そう言って、カバジェロの首根っこを掴んで、天高く放り投げた。

 「ま、待ってェェェェェ…」

 なんか悲鳴が聞こえたけど?

 ポチがちゃんと受け止めてくれたから、大丈夫だね。

 カバジェロのスキルは再生だ。

 宝石なんて再生出来るか知らんけど、他に直せそうな人が、思いつかなかったんだもん。

 前に目玉が壊したティーセットとテーブルは、あいつが直してくれた。


 そしてここは戦場のど真ん中!

 突如目の前に現れた小娘に、騒然となるよね~

 「見縊られては困るなぁ、本気で相手して貰うよ」

 私は愛刀を取り出して、暴れまくった。

 ついでに魔術の練習もしとく?

 「森羅万象、この世界に干渉する者達に告ぐ。我が魔力を対価とし、その偉大なる力を貸し与えよ!『開け、土の門』」

 淡い黄色の術式が浮かび上がった。

 フフン(ドヤ顔) 私は愛刀を振り回しながらでも、術式を発動出来る位には、成長したのだ。

 遠目には…お爺様のゴーレムが暴れてるわね、私も出してみるかな。

 「荘厳なる大地の支配者よ 今こそ顕現する時 闇に染まりし物を蹴散らせ!『ゴーレム』」

 戦場に大きな亀裂が入る…

 「あっ!」

 味方も敵も関係なく、落ちてったわ!

 やってしまった、やっぱ難しいなぁ。

 まぁ、いっか~ ポチが落ちた人を吸い上げてくれてる。

 よ~し、気を取り直してもっかい詠唱する。

 また亀裂が入っただけ、なんで~

 やっぱ戦場だから、集中力に欠けてるんかな?

 三度目の正直には、ならなかった…

 「ティアよ、領地を穴だらけに、するでない」

 お爺様が、見かねてこっちにやって来たわ。

 「だって~ゴーレム出したいんだもの」

 「フッハッハッハ~ 穴を作りたいなら、国境の向こうにしてくれ」

 「は~い、行って来ます」


 私は、国境の向こうに奈落を作りまくったよ。

 結局ゴーレムは、一度も顕現してくんなかった…がっくし。

 敵さんが撤退したけど、今日はここで野営するって。

 「ティア、丁度良かったわい。来たついでじゃ、物資を調達してくれんかの?」

 「は~い、お爺様」 

 皆、暫く辺境伯領に戻れてないんだって。

 私は、必要な物をマジックボックスから出してあげた。

 木箱2個分では収まり切れない量の、食材やら薬剤やらが出て来るけど、誰も気にしない。

 どうして誰も気にしないのかって?

 実は辺境伯家の物資庫と、マジックボックスを繋げてんのだ。

 あっちの物資庫が空にならない限り、無尽蔵に持って来れるんだよ。

 そんな事をやってたら、カバジェロが降りて来た。

 「いヤ~宝石の再生は初めてですガ、美しい物を愛でるト、気持ちも癒されますネ」

 なんかウットリしてる。

 こいつ変人だけど、出来る奴なのだ。


 お爺様に挨拶してからポチに飛び乗り、次はミラ伯母様の所に来た。

 目玉が再生した宝石を見て、言葉を失ってたけど、構ってる時間はないからね。

 さっき再生して貰った宝石を渡して、魔力を入れて貰う。

 薬草の話をしながら片手間にやってるけど、これ凄い難しんだよ、魔力もいっぱい使うしね。

 伯母様を疲れさせちゃう前にお別れして、今度はルーク叔父様の所に戻って来た。

 次はなんだって、警戒されたけど、宝石見せたら安心して魔力入れてくれた。

 お妃様、結構持ち歩いてたんだね…

 叔父様が疲れた~って言うから、仕方なく屋敷に戻って来た。

 残りはお父様に託す。

 え~やった事無いよって言いながら、ちゃんと魔力入れてる辺り、やっぱオルテンシアなんだなぁって思った。

 私にはこの血を引き継げなかったようだ…

 夕食前には、全ての宝石に魔力を入れる事が出来た。

 目玉は驚き過ぎて、もう言葉も出ないらしい。


 ちゃんと持ち主に返してねって言って渡したら、今度は申し訳なさそうに、別の宝石を持って部屋に来た。

 砕けた宝石が再生しただけでも驚きだったけど、魔力石になった事で、王弟夫妻は驚愕してたって。

 魔力石にどんな力が宿ったかまでは、分からない。

 鑑定スキルでもあれば別だけど…

 そこまで頼む時間が、今日は無かった。


 「これは、その…リーシャの宝石なのだ。火傷で着飾れなくなっても、侍女達が常に持ち歩いていた様で…頼む!厚かましい事を言うが、魔力を入れて貰いたい」

 ペコっと頭を下げて、宝石箱を差し出された。

 「私に渡されても、困るんだけど」

 「そうだね…すまない。無理を言った」

 しょんぼりして、戻ろうとした目玉の腕を掴んだよ。

 「クレアに聞いてみよう。私は破壊する自身しかないけど、クレアなら魔力入れられるよ」

 「そうなのか?」

 二人でクレアの部屋に来たら、何やら取り込み中だったけど、片手間で魔力入れてくれたわ。

 「る~い、身体は?」

 「もう大丈夫だよ、クレアにも心配かけてすまなかった。命を助けてくれた恩は一生忘れない、本当にありがとう。僕に出来る事があるなら、遠慮せずに相談して欲しい…」

 「終わった」

 「え、今の一瞬で終わったの?流石だわ」

 想像通り、宝石箱の中の宝石を、全部魔力石にしてくれた。

 「え?本当に凄いね、全部が魔力石になってる…素晴らしいよ、ありがとう。クレアの魔力コントロールには、驚く事ばかりで、上手く言葉に出来ないよ。だけど、礼は必ずする、少し待っていて」

 「要らない」

 そう言ってクレアは又、何かに没頭し始めた。

 「駄目だ、礼をしなけ…」

 「目玉行くよ、これ以上邪魔しないの。クレアありがとね」

 「うん」


 目玉の襟首を掴んで、クレアの部屋を出て来たよ。

 やっぱ凄いなぁ…

 私だってオルテンシアなのに、何だか悲しくなって来た。

 部屋へ戻る途中、大事にリーシャの宝石箱を持ってる目玉に、聞いてみた。

 「目玉、あんたは宝石持ってないの?もしかして、お妃様が破壊した宝石の中に、あんたのもあったの?」 

 「母上には渡していないよ。今はブローチや、カフス位しか持って来ていないけれど…」

 突然の問いかけに驚きつつも答えてくれたけど、何故か言い淀む。 

 「持ってるなら貸して!私も練習する」

 「そうか。宝石箱をリーシャに返したら、僕の宝石を持って部屋を訪ねるよ」

 「いや、一緒に行くわ」

 「分かったよ。けれど、宝石は返さなくて良いからね」

 「え?返すよ、借りた物はちゃんと返すから、安心して」

 目玉は首を横に振った。 

 本当は、クレアにあげるつもりだったらしい。

 宝石に魔力を入れられる魔術師って希少なんだって。

 だから依頼料って凄くお高いみたいでさ、目玉はそこまでお小遣い持ってないから、宝石で代用しようと考えてたみたい。

 それを私が奪ってしまった訳だ。

 また王都での悪評が増えるねって言ったら、そんな噂は立たないって笑ってた。


 今回お妃様が破壊した宝石の中には王弟のも入ってたらしくて、一個でも魔力石になればお釣が来る位の価値があったんだと。

 宝石ってそんなお安いのって聞いたら、そんな訳ないだろう!って語られてしまった…

 ですよね~

 目玉から借りた宝石さん達は、壊しちゃいけないと思うから、ポチの中で練習したよ。

 何度も、何度も失敗しながらね。

 これを、片手間で出来る様になるまで頑張った!

 誰にも褒めて貰えないのが悲しいけど… 

 出来る様になったのは、素直に嬉しい、宝石貸してくれた目玉に感謝だな。

 明日は早朝にここを立つって言ってたから、寝る前に、返しに行った。


 「目玉~起きてる?」

 転移で扉の前に来たら、相変わらず護衛が驚いてる。

 「お…オルテンシア伯爵令嬢がいらっしゃいました」

 結局最後まで、慣れてはくれなかったのね(笑)

 「あんた達とも明日でお別れだね。ドアの前で突っ立ってる姿が見れなくなるのは、ちょっと寂しいわ」

 「あ、ありがとうございます。伯爵邸での訓練、決して無駄には致しません。王都へ戻っても精進致します」

 扉が開いたので、借りた宝石を渡そうと思ったんだけど、クレアと山分けして欲しいって言われた。

 道中不安だから、あんたの為にやったんだって言ったら、滅茶苦茶喜んでくれたから、私も嬉しくなったよ。

 頑張った甲斐があった。 


 短い間だったけど、それなりに楽しかったわ、いろいろ勉強になったし。

 明日マルコ泣くだろなって思ったら、ちょっと憂鬱になったけど仕方ないよね。

 初恋は失恋する物だって、誰かが言ってた気がする。

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