第25話 国王の思惑
翌朝、案の定マルコは大泣きしたけど、リーシャのが凄かった。
二人の泣き声聞いてたら、鼓膜破れるかと思ったわ。
それだけじゃなかったよ。
リーシャの魔力が爆発して、あっちこっちに火球が飛び散るんだもの。
ポチが居なかったら、多分、焼け野原になってた。
火属性が凄いのは知ってたけど、あの状態で王都迄帰るのは、無理だわ。
いや~なだめるの大変だったよ。
王都が嫌だってより、学校通えなくなるのが嫌だったみたい。
だから、エリザベスに転移術式を刻んであげた。
座標をハッキリさせなきゃならないから、うちのポータル限定だけどね、これで何処からでも帰って来れるよ。
戻る時は、送ってってあげる事になった。
王都に着いたら、あっちのポータルと繋がる様に、術式を刻みに行かなきゃならなくなったけど…
こうでもしなきゃ、帰ってくれそうになかったんだもの。
うちはリーシャなら、ずっと居てくれても大歓迎だったけど、そんな訳にもいかないしね。
今更だけどあの魔力量を見たら、リーシャが洗脳されなくて、本当に良かったって思う。
王弟は必ず礼をするって帰ってったけど、お父様は勘弁してくれって呟いてたのを、私は知ってる。
別に礼が欲しくてやった訳じゃないけどね!
ちなみに滞在費はちゃっかり貰ってた(笑)
越冬用の食料がだいぶ減っちゃったんだよ、王弟一行に食事を出してたからさ。
術式刻みに王都へ行った時にでも、買って来ようと思ってる。
「リーシャ、そろそろ帰らないと、晩餐の時間に間に合わないよ」
私達は今、ピーちゃんと絶叫ごっこをしてる。
大空をクルクルと回転しながら、飛んでるドラゴンの背中でリーシャに話しかけたけど…
多分聞いてないな。
仕方ないからピーちゃんに頼んで、リーシャを落として貰った。
「ぎゃはははははは~~~~~」
「わ~い」
一応王女様なのよ、あなた…
マルコがお上品に見えるのは、気のせいだと思う事にしよう。
うちに来て性格変わったって聞いてるし、王都に帰って生きてけるか、お姉ちゃんは心配だよ。
落ちて来たマルコとリーシャをポチで受け止めて、宿泊先へ送り届けるのが、最近の日課であった。
領主館前では、目玉が出迎えてくれてる。
「いつもありがとう。一緒に晩餐でも…」
「遠慮するわ、また明日ね~」
私は即効、断るよ。
当たり前じゃん、お貴族様は嫌いなのだ。
「リーシャ~また明日、あそぼ~ね~」
「おやすみなさい、マルコ様、お姉様」
マルコはブンブン手を振って、リーシャもそれに応えてる。
屋敷に帰って来ると、クレアが出迎えてくれた。
「お帰り、見て」
え???
「クレア、目が光ってるよ」
「綺麗な目~」
最近ずっと籠って、何かしてると思ってたけど…
「もしかして、千里眼使いこなせる様になったの?」
「今夜は魚」フフン(ドヤ顔)
クレアは、マルコの頭を撫でながら、自慢気に宣言した。
晩御飯は、魚料理って事ね?
「「すご~い」」
私とマルコは拍手した。
まだまだ駄目らしいけど、直近なら自在に操れる様になったんだって!
あと、視れる距離も伸ばしたいって言ってた。
やっぱクレアって凄いなぁ。
それからは、モンステルの森に入ったら必ず、千里眼を使うようになったよ。
長時間使うと目が疲れるって言うから、眼球専用の回復ポーションを作ってあげたら、滅茶苦茶喜んでくれた。
なんか私、眼球博士になれそうだと思わない?
あれから転移する魔物も、集団行動する魔物にも出くわしてない。
たまにお爺様の所へ邪魔しに行くけど、私の日常に大きな変化は無かった。
王弟一行は、順調に王都へ向かっていた。
醜い姿になり、聖女でさえ癒せなかった王女が、かつて妖精と謳われた姿を取り戻したと…
王都へ近づくに連れて、噂は広まって行く。
王弟一行が宿泊した領主邸では、リシャーナの姿を見て掌を返し、是非婚約をと申し出る者も出始めた。
だが王弟一行は、そんな者達に一切興味を示す事は無い。
ルイフォードも同様。
仮婚約の解消をしたと公表した事で、貴族令嬢達が色めき立っていた。
しかし、妹を蔑ろにして来た者達に、笑顔を見せる事はなかったのだ。
オルテンシアの人間も、リシャーナを蔑ろにしていたのならば、少しは違った対応をしたのかもしれないが…
ルイフォードは、妹を受け入れなかった家門の令嬢を、娶る事は無いとはっきり明言したのだった。
それは、生涯独身を貫くと言ったも同然の言葉であったのだが、その言葉を諫める王族はいなかったのである。
マルスドメスティカ王国・国王の執務室
オルテンシア伯爵領から戻った王弟一家が、入室して来た。
「ただいま戻りました、陛下…」
「伯父様!見て下さい、私こんなに、元気になりました」
国王を視界に入れたリシャーナが、父の言葉を遮り、嬉しさのあまり飛び付いた。
アレハンドロは諫める事もなく、愛おしそうに姪の頭を撫でながら、微笑んだ。
「よく頑張ったね、リーシャ。元気な顔を見られて、嬉しく思うよ」
ほんの数か月前までは、誰一人として笑顔になどなれなかったが、今は違う。
すっかり健康な身体を取り戻したリシャーナを、微笑ましく見守って、時には声を出して笑い合っている。
皆、オルテンシアの人々へ言葉では言い表せない程、感謝の気持ちで溢れていた。
暫し弟家族との時間を楽しんだ後、アレハンドロは一人、もの思いに耽っている。
あの【悪夢の日】の数か月前…
王国に仕える呪術師が、見た事もない呪詛に気付いた。
しかし、時は既に手遅れだったのだ。
呪詛の変異種を、姪の体内で見つけたと聞かされた時は、アレハンドロも耳を疑った程だ。
その後も報告を受ける度に、事の深刻さが浮き彫りになっていった。
あれの正体が分からず、手の施しようが無いと頭を悩ませていた時、恐れていた事が起きてしまう。
姪の命を見捨てた所で、国が助かる保証も無い。
言い様の無い怒りが、胸中を支配する。
その折、北の領地で若い医術師が誕生した事を知ったアレハンドロは、一抹の望みを胸に抱いた。
カルティアは知らぬ事だったが、医術と呪術の心得と技術を持った、王国で唯一の人材になったのだ。
彼女ならば、リシャーナを救ってくれるのではないかと、アレハンドロは期待した。
その結果が、想像以上だった事は、言うまでもない。
カルティアの報告書を見てアレハンドロは、王国の未来に必要不可欠な存在として、認知した。
本人が嫌がるであろう事は理解しているが、国の重鎮として爵位を授ける事にしたのだった。
そして、帝国へと、目を向けた。
平穏な日常を過ごしてたら、王都へ無事着いたって、リーシャが教えに来てくれた。
何故か、王弟からの招待状を持って…
形成手術に係わった人達に、上級免許をくれるらしい。
「マジか!!!私は学園に通わなくても、試験うけられるの?こんな嬉しい事って、ある?無いな!」
人生で最高に嬉しい瞬間の、一つにしてあげようと思う。
なのに、叔父様達は興味無いって、断ったよ。
「なんて勿体ないの、上級だよ!伯母様だって叔父様だって、いろんな事やってるのに、自分の手柄に出来ないんだよ?一緒に試験受けようよ」
「あんた達が広めてくれるなら、私はそれで満足さ」
「珍しく姉さんと同じ意見だ、僕も遠慮するから、二人で行って来いよ」
そこまで言うなら…ね?
まぁ良いけど、な~んか腑に落ちない。
取り合えず王都には用事もあったし、クレアと二人だけで来たさ。
宮殿に入るのなんて、一生に一度だろうなって思いながら、王弟の執務室に案内して貰ったよ。
そこには、リーシャの主治医だった宮仕え達が居たわ。
過去形なのは、リーシャはすっかり元気になって、リハビリも必要無くなったからだ。
解雇された訳じゃないのよ。
あとね、呪術師長と魔術師長も紹介された。
凄い!
この人達が、王国で一番の使い手なんだよ。
何処かの国風に言えば、四天王的な?
二度とお目に掛かれる方達ではないので、拝んでおく事にした。
王弟が何をやっているって聞いてきたけど、ほっといてくれ。
こんな凄いお方達が、なして此処に居るのかなって思ったらさ、聞いて驚けビックリしたよ。
クレアは上級魔術師と上級医術師の免許を、私はその二つの他に、上級呪術師と上級薬術師の免許を頂いてしまった。
しかも、試験は受けなくても良いんだと。
クレアは分かる、私は分からん…
理由を聞いたら、宮仕え達が推薦してくれたんだって。
うちで使ってる上級ポーション作ったのと、眼球の再生技術を考案した事での免許皆伝らしい。
あと転移する魔物を捉えた事や、リーシャの呪詛を封印した事。
エリザベスに施した術式なんかも、高く評価してくれたみたい。
クレアは臓器再生技術が王国で一二を争う腕前だって事と、魔力石を片手間で作れるって事での免許皆伝だって!
クレアと争ってるのは言う必要もないが、ルーク叔父様だ。
当たり前、私達のお師匠様なんだからね!フフン(ドヤ顔)
これは高く評価されて嬉しい限りだよ、クレア頑張ってるもん。
宮仕えにならないかって、スカウトまでされたのに断わってた(笑)
私は実力不足が否めないから、薬術以外は遠慮したんだけど…
既に王様から免許皆伝のバッチを、王弟が預かって来てたの。
先に言ってくれたら断ったのに…
仕方なくバッジを受け取ったら、何故か伯爵位迄付いて来た。
流石にこれは無いって文句言ったんだけど、クレアが最初に渡された書類に書いてあったって言うし。
何処にって読み返したら、最後の方にちっちゃく書いてあったわ…
「詐欺じゃね?」
王弟はしたり顔で笑ってた、やってくれたな…
「絶対、確信犯でしょ!」
そりゃ浮かれてクレアに相談もしないで、勝手に署名した私が一番悪いんだけどさ。
気付いてたのに、付き合って署名してくれたクレアに申し訳ないじゃない(泣)
どうりで叔父様達が、ニヤニヤしながら断ってた筈だわ。
「帰ったら絶対笑われるやつじゃない!ショックなんですけど~」
「話はまだ終わっていないぞ。君達には、帝国の学園へ留学して貰う事になった。これは王命だ」
「ええ~それ絶対断れない奴じゃないですか!しがない令嬢なら断れたのに、爵位押し付けた後で、それ言う?酷くね」
「酷くはないだろう、王立学園に通う予定が、帝国への留学に変わっただけなのだから。むしろ、喜ばしい事ではないのか?」
王弟は、至極真面目な顔で言ってのけたよ、腹立つな…
「何が、家族の命救ってくれた恩人だよ。これじゃ、お礼じゃなくって、嫌がらせだよね?王命ってんならさ、自分で出て来いって王様に言ったら、首飛ぶかな?」
「王弟次第」
私とクレアの会話を聞いて、王弟の傍に居た、偉い人達が苦笑してた。
「ティア…この件は陛下が………あ~私やリーシャを思って下した事。憎しみや恨みは、全て私に向けて欲しい」
王弟が、すまなそうな顔で言ってるけど、今の間はなんだ?
それに、悪いの王様じゃん。
隠れてないで、出て来て自分で説明しろって、思うよね。
「帝国への留学と、リーシャが何の関係あるんですか?」
私が不貞腐れて聞いてみた問いに、答えたのは王弟じゃなかった。
「聖女じゃない?」
クレア、あんたやっぱ天才だわ!
「そっか、分かったわ。偽聖女に騙し取られた寄付金を、踏んだ食って来いって事ね」
王弟は、笑いながら話してくれた。
「確かに寄付金は痛かったが、返せとは言えない。ただ…帝国にはダンジョンがあってだな、そこで発見した物は、全て持ち帰りが自由なのだ。この意味は、分かるか?」
「全然分かりません。ダンジョンて何ですか?何があるんですか?」
「ダンジョン?」
私はクレアを見たけど、小首を傾げてた。
「そこからなのか?君達は本当に…領地外の事には、興味が無いのだな」
王弟は説明してくれた。
ダンジョンとは、お宝が出て来る場所である。
普通はダンジョンから出たお宝なんて、全て持ち歩けないから、要らない物は商人に買い取って貰う。
商人は買い取った物を、オークションに掛け、売上金の一部が帝国へ支払われる。
それが帝国の潤沢な資金源にはなってるけど、商人によって二束三文で買い叩かれてしまうから、見つけた者にとっては好ましくない。
そこでだ、私のマジックボックスを使えば、見つけた側から王国へ送れる。
こっちでオークションを開けば、売上金は全て国の物って事らしい。
「なるほど!間接的に帝国へ嫌がらせをするって事か、王様って案外曲者なんだね」
「意外…」
ついでに、聖女の正体も暴いて来いって?
え、聖物も探して来いって?
「曲者じゃなくて、欲張りだな…」
「私にとって、自慢の兄上だ。素晴らしい策士であろう」
王弟は誇らしげにお兄ちゃん自慢をしてる。
噂には聞いてたけど、本当に王族って仲良しなのね、顔がにやけてる(笑)
「確かに面白そうですけど…薬剤の、素材の権利は、私が貰えるんですよね?全てオルテンシアへ送っても、良いんですよね」
私は、拒否権は認めないぞって気持ちを込めて、言ってみたんだけど…
王弟は、想定内だったのか、すんなりと承諾してくれた。
「それだけで良いのか?他に希望があるのなら、遠慮せずに言いなさい」
行った事も、見た事も無いのに、希望もへったくれも無い。
「あっち着いてから考えます」
「分かった。薬剤かどうか、判断が付かない物は、私に相談しなさい。他にも何かあった場合は、独断で行動してはいけない。無理はせず、必ず命を優先する事。それが絶対条件だ」
「「了解で~す」」
そこまでは納得したさ…
「で?なして、あんたが一緒な訳」
帝国への留学届を出したら、目玉に遭遇した。
「以前から…留学生として来る様、誘われていたのだけれど…その…いろいろとあって、先送りにしていたんだ」
「あんたって私と同じ歳だったよね?王族って、そんな早いうちから留学するもんなんだ。凄いね」
「帝国では、中等科で三年、高等科で三年。合わせて六年間、学園で学ぶ事が義務付けられているからね。僕達はそれに合わせて、都合の良い日程を組むだけだから、凄い事ではないんだよ」
「「へ~」」
つまりあれだ、リーシャが火傷しちゃったから、留学を先延ばししてたって事?
そんで、問題解決したから、一緒に行こうぜって?
「私達、学びに行く訳じゃないんだよね、悪いけど」
目玉の顔が、見覚えのある表情になった、これは…
私達は、どんな語りが始まるのか、身構えたよ。
「王命の事なら知っている。僕も、何かの役に立てるかもしれない。それに…」
相当鬱憤が溜まっていたようで、目玉の語りは長かった。
ここは宮殿だし、逃げる訳にもいかないから、最後まで聞いてあげたさ。
白目剥きそうになった時、やっと終わりが見えたんだけど…
「リーシャを愚弄した聖女を、許せないのだ」
おっとぉ~身内の恨み節か???
そりゃ私だって思う所はあるけど…
私情を持ち込んだ目玉の顔が不気味に見え、明らかに度合いが違うってのが分かる。
これは、面倒臭いぞ~~~~~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます