第22話 狙われたのは、ルイフォード
リシャーナの形成手術から、一週間が過ぎた。
王弟の執務室から、二人の宮仕え達が出て行く。
術後の様態を、報告しに来ていたのだ。
カルティアは、手術が成功した後の数日間だけリシャーナの様子を診ていたが、問題ないと判断してから主治医を宮仕え達に戻したのだ。
二度に渡る形成手術の代金は、きちんと請求されたのだが…
使用された薬剤と、手術に立ち会った四人の人件費のみで、成功報酬などは一切請求して来なかった。
人件費と言ったが、カルティアとクレアナは、見習い医術師として。
ルークは経験豊かな初級医術師として、ミラも同様薬術師として、至極真っ当な金額であった。
王弟は私財を投げ打つ覚悟をしていただけに、肩透かしをくらった形になっている。
何が欲しいか聞いた結果は、先程述べた代金の支払いだけだったのだ。
ミラは実験結果が良好で、満足したと言った。
実験台にされた事は、この際水に流そう。
結果リシャーナの髪は肩まで伸び、自力歩行出来る迄になっているのだ。
逆に、感謝しても足りない位だと思っている。
ルークは、王族に対する家族の不敬な態度に、目溢しが欲しいと言った。
もとより、オルテンシア一族を不敬罪に問う気は一切無い事を告げたら、それ以上の望みは無いと言われてしまった。
カルティアとクレアナは、王都にある美味しい菓子の店を紹介して欲しいと、言っていた。
学園へ通うようになったら、食べに行きたいそうだ。
伯爵に褒美の話をしたら、カルティアをルイフォードの婚約者候補から、外して欲しいと頼まれた。
生涯の伴侶は、自由に決めさせてあげたいと言われたら、断れなくなるだろう…
辺境伯への恩返しのつもりが、迷惑行為になっていた等、想像もしていなかった。
なんて傲慢なのだろうと、己を恥じる。
愛する妻と息子の命を救われ、愛する娘の命まで救ってくれた恩人達に、何を返したら良いのかすら分からないとは…
王弟は、今日も執務室から見える子供達の姿を、目に焼き付ける。
何時までも、世話になっている訳にはいくまい。
名残惜しいが、王都へ戻る為の日程を、調整していたのだった。
「姉様、る~いに負けたの」
マルコは爽やかな笑顔で告げた。
「え???」
カルティアは、驚きを隠せない。
夕飯を食べながら、訓練での出来事を話している。
モンステルの森へ入るには最低限の力が必要なのだが、その基準をマルコに設定し、訓練時だけリミッターを付けさせていた。
幼子とは言え、辺境伯の生き写しと言われる程の才覚を持っていたからだ。
本来の力を制限されているとは言え、そう簡単に勝てる相手ではない。
王弟一行が帰るのは明後日。
モンステルの森に入りたいと願うルイフォードの執念が、ラストチャンスを掴み取った形になったのだ。
カルティアは何度も考え直す様に諭したが、頑なに首を縦に振らなかった。
王弟も後押しした為、明日の早朝討伐への同行を許す事となる。
「面倒くさ~!なして私がお守りしなきゃならんの?怪我したら誰が世話すんの?集団行動の件だって、まだ不明なのに。王弟は何考えてんだ?」
食後自室へ戻ったカルティアは、悪態を付いた後大きな溜息を吐くのであった。
翌日早朝
「今日も訓練参加したら?」
私は、目玉の気が変わってる事を願って聞いてみたけど…
「ティアとの約束だからな、母上からブレスレットを10個貰って付けて来た。これで良いのだろう?」
両腕にキラキラと、美しいです事。
「はぁぁぁぁぁぁぁ…ホントに行くの?首飛んでも責任取らないよ?」
「足手纏いにならないよう気を付ける。万が一の時は置き去りにしてくれて構わない」
駄目だこりゃ…
「ティア諦めよう」
「そだね…行くか」
今日は変なの出て来ませんように!
私は懲りずに、信じてない神頼みをしてみた。
モンステルの森は相変わらず静寂だ、魔物の気配を感じた辺りでポチから降りる。
目玉はボケっと突っ立ってた。
「美しいな」
ピクニックにでも来たつもりか?
「見惚れてないで戦え、ボケッ」
「え?」
え?じゃないのよ!
クレアが、目玉の背後にいた魔物を切りつけた事に、気付いてないんか?
後ろを振り返り言葉にならない何かを発してたけど、魔物に騎士道精神なんて無いのよ。
「隙を見せた方が負けなんだ!戦え、生きて帰りたければ、集中しろ」
魔物に怖じ気付いたら強制送還する予定だったけど…
最初こそ尻込みしてたのに、立て直すのも早かった。
「ちょっと、まだ一人じゃ無理だって!」
私の静止を押し切り、何とか初級魔物を討伐したけど、傷だらけだ。
だから言ったのに、何に拘ってるんだ?
やり遂げた感満載な顔してるけど、まだ一体目だからね。
このままじゃ目玉の身体が持たなそうだったから、手当する事にする。
帰らないって言うんだもの…
私は辺りを警戒する。
魔物の気配は無いけど、念の為術式を発動させ、結界を張った。
用心に越した事は無い。
「僕の我儘に付き合わせてすまない。こんな機会は二度とないからね」
「何度もあってたまるかよ!もっと腕を磨いてから、出直して来てよね」
「次も、一緒に来て良いのかい?」
「腕を上げたらって、言ったでしょ」
「ありがとう」
いや…嬉しそうな顔して礼を言われても、複雑だわ。
クレアが食いちぎられた目玉の二の腕を、ポーションを使いながら再生させてる。
「動画を見た時も凄いと思ったが、本当に見事な技術だね」
「ありがと」
目玉が暢気に関心してた時、ポチが何かに反応した!
私は咄嗟に目玉を立ち上がらせ、クレアは剣で応戦するが、間に合わなかった。
胸からどす黒い何かが突き出し、真っ赤な血飛沫が景色を染めてった。
「「る~い!!!」」
私達は油断なんかしてない、気配だって無かった!
心臓を一突きにするなんて、何処から来た?
クレアは即座に、目玉を水中花に閉じ込め、私はありったけのポーションを渡した。
水中花は本来対象を閉じ込める、水属性の封印魔術だ。
しかし、クレアはこれを改良し、水をポーションに変え治療出来るようにした。
ミラ伯母様の水手毬を応用した、特殊魔術だ。
私のポーションが無いと使えないらしいが、それでも凄いよ!
目玉のブレスレットは、真っ黒に変色してた。
おかしい…
心臓を一突きにされたんだ、普通なら砕ける筈。
それに、狙われたのは恐らく頭部?
座ったままでいたら…
ポチが教えてくれなかったらと思うと、背筋が凍り付いた。
「ポチ、二人を叔父様の所に連れてって!」
ポチが転移で消えた時、魔物も転移しようとした。
嘘でしょ?
擬態以外の魔術を使う魔物なんて、聞いた事が無い…
魔物はポチ?
目玉?を、追いかけたつもりだったのかな?
辺りを見まわし困惑してる、こいつ意思も持ってんの?
マジか!
もう一度転移しようと試みるも、無駄な足掻きである。
「ざ~んねん!あんたはこっから出らんないよ」
私は嘲け笑ってやったよ、当然でしょ!
こんな危険な奴、逃がす訳ないじゃん。
既にお前は、マジックボックスの中に居るんだよ。
ポチと、どんなに離れててもね、この空間は常に私の側にあんの。
摩訶不思議空間だよね~で?
「あんた何者なの?」
「…」
「あれ、気付いた?魔力吸い取られてるのって、どんな感じ?」
「…」
「私はね、こう見えて慎重派なのよ。嘘じゃないよ?」
普通ならあそこで、こいつをぶった切っても良かった。
封印でもいいさ、閉じ込めちゃえばこっちのもんじゃん。
でもさ、転移って底が知れないんだよ。
封印解いて、出てかれたら終わりよ。
だったら、最初から此処に連れ込んだ方が、安心じゃない?
実際私の張った結界の中に、飛び込んで来たもんね。
「ねぇ、黙ってないで何とか言ったら?どうやったの?ちゃんとした術式使って、詠唱した結界の中に入って来るなんてさ、普通出来ないよ?」
滅茶苦茶心外なんですけど!
魔術は苦手だけどさ、それでも自身持って張った結界を掏り抜けられたら、気分悪いんだわ
「言葉は通じてるみたいだけど、会話は出来ないの?ねぇ、転移しか使えないの?どんだけ魔力持ってたの?ひょっとして上級寸前だった?」
「…」
やっぱ言葉通じるのか…
転移が無理って分かったら、次は武力行使で来た。
私は避けないよ、黙って見てるだけ。
魔物は私を切り刻んだと思ったんかな?
目の前に、何も無い事に気付いて振り返った。
無傷の私を見て固まった、ビックリするよね。
目の前に居ると思ってた奴が、後ろに居たんだもん。
すり抜けたとか思ってんのかな?
やっぱ結構知能高そうね。
なんかさ、人間相手にしてるみたい…
上級寸前の魔物って、皆こんな感じなんかな?
魔物は何度も、何度も私に向かって来るけど…
傷一つ付けるどころか、触れる事も出来ずにいる。
不思議だろうね、私も不思議だと思うもん。
どうなってるかって?
教えてあげよう!
魔物の居る空間と、私が居る空間は別なのだ。
周りを見えない壁で覆われた部屋に閉じ込められた魔物を、私は別の部屋で見てる感じ?
お互い同じ空間に居る様に見えるのは、私がそうしたから。
あっちが私に干渉出来ないのもそう、でも私は干渉出来る。
「あはははははははは」
狡いよね~この空間本当に恐ろしいんだよ!
で、そろそろ飽きた。
「お前何処から来た?今迄何人取り込んで、その転移は何処で覚えた?素直に教えてくれるなら優しくしてあげるけど、黙秘するなら強制的に聞き出すよ」
「…」
「もしかして喋れないの?」
「…」
暫し考えたけど、しゃべれないなら待っても無駄よね?
強制的に聞き出すか。
私は魔物の時間を止めて、印を結び呪文を唱える。
「夢の内 絶望の内 光の内 闇の内
理想を見て現実を知り、朝日を浴びて月夜に眠る。真正、無意識の泉に、その心を写し出せ!」
魔物の表面に呪印が浮かび上がった。
これは心の中を覗く呪術で、準禁術扱いになってる。
準ってのは、必要と判断した時は使ってい~よ~って奴。
但し、その判断が正しいかどうかの確認はされる。
呪術師の身体に刻まれた誓いの呪印が、正しいと判断すればセーフ、間違いって判断されたらアウトだ。
しかし、この空間の中では、誓いの呪印は発動しない。
やりたい放題だよね。
「さ~て、あんたの中身、覗かせてもらうね」
魔物に触れ、心の中を覗き、絶句する。
「なにこれ…嘘でしょ…ありえない…」
私は首を左右に振った。
やってくれたな…これは駄目だわ、完全にアウトだよ。
どうしよ…
とんでも無い事に首を突っ込んでしまった。
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