第21話 二度目の形成手術

 今日は、第二回目、形成手術の日なのだ。

 私達は王弟一家を見つめる事30分…

 今回は、前回と違って失敗の可能性もあるから、黙って見守る事にした。

 前以って手術開始予定時刻を、1時間早く知らせておいて正解だったよ。

 今生の別れになるかもしらん…

 とっても賑やかな王女様の居ない世界なんて考えたくないし、絶叫ごっこもまだしてあげてない。

 この時間は、私達が覚悟を決める時間でもあった。


 「父上、母上、そろそろ時間です。私達は別室で待ちましょう」

 「もう少し…」

 「手術の邪魔をしてはいけません母上。リーシャが疲れてしまっては困ります」

 私達は刮目したよ!

 幻覚でも幻聴でもない、確かに目玉が両親を説得して、手術室を出てった。

 宜しく頼むと言われたら、任せろって答えるに決まってる。

 なんか、気合入ったぞ~

 伯母様が麻酔をかけはじめる。


 「リーシャちゃん、眠りますよ~はい、い~ち、に~い、さ~…はい!落ちた~素直な子だね」

 明るい伯母様が安心感をくれる。

 今回の主治医はクレアで、私は呪詛担当。

 呪詛が寄生してる心臓と肺を取り出し、呼吸を確保しながら全ての触手を切り離す。

 身体中に伸びてた触手は、暫く呪詛を取り戻そうとするけど、それは時間が経てば消える事が判明してる。

 魔力の供給元が無くなれば、触手も生きてけないみたい。

 呪詛の方も身体に戻ろうとして触手を伸ばすから、偽物を渡してエリザベスに封印する。

 それで勘違いして満足する予定。

 叔父様とクレアは、欠損した臓器を再生させるんだけど。

 人体を熟知してないと出来ない高等技術だ。

 時間との戦いになるから、私の比じゃない位神経使うよ。

 伯母様は叔父様達の補佐で、ポーションをひたすら作って渡す。

 一件簡単なように感じるけど、ポーションが足りなくなったら終わりだからね!

 三人の連係プレーが今回の成功率に、大きく関わって来る。


 上級ポーションかけりゃ再生するんじゃないって思ってる人!

 ちょっとした欠損なら、それで問題ないんだけどね…

 完全に失った物を再生させるには、媒体が必要だし時間がかかり過ぎる。

 今回は呪詛に占拠されてる肺と心臓を一気に取り除くから、のんびりしてたら命に係わるのだ。

 媒体は、豚とサルの一部を使う事になった。

 本当はリーシャの一部を使いたかったんだけど、何度実験しても呪詛が復活しちゃうから諦めた。

 呪詛ってさ、増えるからね。

 クローンが量産された時は、我が目を疑う程ビックリしたわ…


 話しそれたけど、媒体にポーションを少しずつかけて、再生させながら形を整えてくの。

 豚の心臓の一部にポーションかけても、再生されるのは豚の心臓だからね!

 これを人間の心臓に作り上げる技術を持ってるのが、医術師なのだ。

 心臓だけじゃない、肺もだからさ…大変だよね。

 呪詛を封印した後は、私も補佐に回る予定。

 これが今回の手術内容、なんかドキドキしちゃう。


 前回追い出しちゃった宮仕え達には、王弟が呪詛の事を話したって言ってた。

 勿論他言無用だし、彼らに呪詛は見えない。

 今は邪魔にならない所で、見学して貰ってる。 

 「やりますか…敵は呪詛だ、絶対負けないよ~」

 私達は気合を入れて、それぞれ術式を発動させる。

 「滴水成氷、生きとし、生けるものの淵源よ。我が血潮となり、その偉大なる力を解き放て!『開け水の門』」

 ミラ伯母様の術式が発動して部屋が緑色に染まってく。

 「聖なる泉の守護者よ、この杯に溢れ零れる程の、聖水を注げ「水手毬」」

 特大の水玉が、幾つも作り出された。

 勿論全部ただの水では無く、上級ポーションだ。

 これを自在に操り、必要な個所に必要な分だけ、分け与える事が出来る。

 熟練した魔術師にしか出来ないのもそうだけど、伯母様が編み出した独自の特殊魔術だ。

 叔父様と、クレアの準備が出来たのを確認する。


 「陣来風烈、重要なる、無形の存在よ。我が息吹に合わせ、その偉大なる力を見せつけよ!『開け風の門』」

 淡い緑色に染まってた部屋の中に、紫色の術式が混ざる。

 私は三人に目配せし、三人は頷く。

 「一陣の風となりて、すべてを切り裂け『かまいたち』」

 無数の小さな刃が、リーシャの身体を切り刻んで行く。

 切り離された肉片は触手から解放されて、ボタボタと床に落ちる。

 しかし、新しいケロイドが直ぐに復活する為、臓器が見えない。

 呪術師じゃなければ、この現象が何か分からず、パニックになったんだろなって思う。

 だけど私には、ハッキリ見えるんだよ。

 胸骨と心膜を、一気に切る。

 復活するケロイドよりも早く、正確に、真っ黒に染まった心臓と肺を抜き取った。

 そのまま呼吸が止まらない様にする事も忘れない。

 クレア達が、空っぽになった体内に媒体を入れて、臓器の形成を始める。

 次から次へと触手が伸びて、ケロイドを復活させながら、呪詛は寄生先へ戻ろうとする。

 身体中に張り巡らされてた触手も、呪詛を取り戻そうとして伸びて来る。

 臓器形成の邪魔にならない様、復活するケロイドを切り落としながら、呪詛に侵食されてる心臓と肺の一部をエリザベスに入れる。

 以前サンプルで作ってたミニチュア臓器は、手術前にエリザベスへ仕込んでいたのだ。

 すると、思ってた通りに勘違いしてくれて、呪詛がミニチュア臓器に触手を伸ばし始めた。

 止まっていた小さな心臓と肺が、呪詛の力で動き出す。

 グロッ…流石にこれは、無いわぁって思った。

 他の臓器もちゃんと動き出したのを確認してから、封印する。

 残った呪詛は、別のハニワに入れて封印した。

 こっちは王弟に渡す奴だから、ミニチュア臓器は入ってないよ。

 このまま魔塔に居る呪術師達の、研究材料になる予定。


 さっきも言ったけど、呪詛って増えたのよ。

 増えたらね、大きさとか関係なく、寄生元に戻った方が本体になる。

 残された呪詛は、特に何もしないし、爆発もしなかったんだ。

 ただそこに有るだけなんだけど、新しい寄生先を与えたら、喜んで入って自立すんだよ。

 完全な個体になるんだけどね、困った事に切り離した本体と連動してる。

 つまり、本体が爆発したら、クローンも爆発したの。

 ただね、クローンが爆発しても、本体は爆発しない…

 どんな原理なんだって思うよね。

 まだまだ解明出来てない事が、沢山あるんだろうとは思う。

 この呪詛を考えた呪詛師って、何者なんだろね、恐ろし過ぎるわ。


 だけどこの研究結果は、ポチの中で見つけたから他言は出来ない。

 たまたま呪詛を分割出来ました~って、渡すだけ。

 魔塔の呪術師が何処まで解明出来るかは知らんけど、頑張ってねとしか言えないのがもどかしい。

 あ!エリザベスの中身については、目玉に話した。

 なんとも言えない、複雑な表情してたよ。

 当然王弟には話が行くと思うけど、私から話す気は無い。

 取り合えず、これで私の役割は無事完遂かな?

 沢山あった水玉は、殆ど無くなってた。

 

 臓器は完全復活したし、動きも問題なかったよ。

 流石叔父様とクレアだ、私はまだまだこの域には到達出来ない。

 胸骨を閉じて、培養しておいた皮膚を被せ最後の仕上げをした。

 皆で体内に魔力を注ぎ確認したけど、何処にも呪詛は無いし、嫌な感じもしなかった。

 呪詛を封印したエリザベスはピッタリと、リーシャにくっついてる。

 もう一体のハニワちゃんは、マジックボックスに収納した。

 「大成功じゃね?」

 「ねぇ、ちょっと試したいんだけど」

 伯母様が又何やら持って来て、リーシャの身体全体にかけ始めたよ。

 そしてエステティシャンの様に、身体をマッサージしてる。

 「「嘘でしょ!!!」」

 「マジか!」

 私達は驚愕したよ…


 だってね、普通は筋肉って鍛えてなんぼだ。

 それがさ、一年も動かせなかったんだもの。

 萎んでるの当たり前で、これから筋肉付けて、リハビリに励む予定がだよ?

 完全復活と迄はいかないにしろ、骨皮筋子じゃ無くなった!

 「うそ~ん。ここまで復活すると思わなかったわ!私ってば、天才じゃない?お肌ツルツル効果まで出たわ」

 「「うん天才凄い」」

 私達も絶賛した。

 「これなら直ぐにリハビリ出来るね、伯母様最高~」

 私は飛び付いて喜んだよ!

 「おい!効果の確認、してなかったのか?」

 叔父様は「王族を実験台にするな」って怒ってたけど。

 伯母様は「結果良ければ全て良し」とか、意味不明な事言ってた。

 叔父様の髪の毛が、薄くならない事を祈ってるよ。

 あ…毛生え薬は完成したから、薄くなったら実験台にされそうだね(笑)

 私は肩をバンバン叩いてリーシャを起こした。


 「リーシャ、気分はどお?手術成功したよ」

 「お姉さま…本当?私、生きている…の」

 「当然!暫くは安静だよ、リハビリもしなきゃだし、絶叫はお預けだからね」

 「ありが…と」

 リーシャはそう言うと、ワンワン泣き出した。

 明るく振舞ってたけど、不安でいっぱいだったんだね。

 ちっさい身体で呪詛と戦ってたんだもの、偉いよ滅茶苦茶頑張ったよ。

 もう、変なのは追い出したからね!

 私は抱き締めながら、いっぱい褒めたよ。

 クレアが扉を開けてくれたら、やっぱし雪崩の様に入って来た。


 お妃様に場所を交代してから気付いたんだけど…

 伯母様と、叔父様が宮仕え達を介抱してる。

 心臓を取り出した所で気絶したらしい…嘘でしょ???

 「面目ない」じゃないのよ、初めに説明してたじゃん。

 ちょっと呆れちゃったけど、リーシャへの思いも強い人達だったから、ビックリしたんだろね。

 切り取った残りのケロイドは、ちゃんと容器に保存して目玉に渡した。

 どうせ持ってくんだから、聞くだけ無駄ってやつだ。

 それに、何時か役に立つかもしんない、今回のように。

 私達は疲れたから、王弟一家は放置してリビングに来たよ。

 「皆、お疲れ様。お茶でも飲んで、ゆっくり休んで」

 叔父様もだけど、お父様の淹れてくれるお茶も、最高に美味しんだよ。

 ミラ伯母様からこってりと、仕込まれただけあるわ。

 流石に皆無口で、お茶飲んだら仮眠取ったよ。

 今回は、一か八かの大手術だったからね、無理も無い。

 王弟一家が我が家に来てから、ひと月と八日が経ってた。

 長かった…

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