第19話 おっさんに会ったよ

 何故、目玉王子が付け回されてたのかは謎。

 途中から、私達を狙って来たのも分かんない。

 何か理由があるとは思うけど、私達に関係がある事だったら、お母様が教えてくれるだろうし…

 面倒事に巻き込まれるのは嫌だから、こっちから聞こうとは思わない。


 それにしてもさ、暗殺者が二人だけって、馬鹿にし過ぎじゃない?

 お母様は護衛と黒幕をお爺様に引き渡したんだけど、どんな状態だったのかは、想像しない方が良いと思う。

 お爺様も、お母様も容赦ないからね~

 国境を護ってる人が、敵に情けを掛ける訳が、ないのだよ。

 お陰様で抵抗もせず、大人しく王都へ連行されてった。

 ついでに王弟も、王都に帰ったよ。

 王弟だけね、直ぐ戻るって言ってお爺様と一緒に、チュン太郎に乗ってったわ。

 いや、あんたの戻る場所此処じゃないだろって、口から出そうになったけど。

 リーシャが、手術の時までに戻って来てねって言うからさ…

 失敗する気は無いけど、今回ばかりは絶対大丈夫も無いからね、王弟が戻る迄待つ事にした。

 

 なんか話反れたけど…

 一番の懸念材料だった、生きた呪詛を入れる器は、何とか完成したよ。

 私の想像通りあれは失敗作だったから、別の器に入れ替えても、呪詛師に気付かれる事は無い…多分?

 だってね、王族お抱えの呪術師がいる事くらい、知ってると思うんだよ。

 あんな堂々とした物を、リーシャにくっ付けて置きながらね?

 バレてないと、本気で思ってるとは、考え難いでしょ。

 沈黙が不気味なんだけど、そこは国同士のなんちゃらだろうから、私が考えても仕方がない。

 ただねリーシャにかけた呪詛がさ、リーシャと別行動するのは、問題なんじゃないかなってのは思った。

 だから、常にくっ付いてるハニワちゃんを器にしようと考えたんだけど、小さすぎるのよ!

 だからって、リーシャと同じ位大きくしたハニワちゃんが四六時中一緒に居たら、怪しくない?

 私だったら、絶対何か変な物が入ってるのかなって、中を見たくなる。

 呪術師だけじゃなく、魔術師迄が興味を惹く物なんて作ったら、駄目でしょ。


 もうね、ポチの中で気が遠くなる位、悩んだよ。

 100年単位で、籠ってたんじゃないだろか。

 本当に難しくて、途中で諦めそうにもなったけど、でもみんなの笑顔の為に私頑張った。

 リーシャとお妃様が溺愛してるエリザベスの中に、新たな術式を上書きして封印してあげれば、悲しい思いもさせずに一石二鳥だ。

 根本的な事が解決出来たら、そん時にまた術式を上書きして、今度こそペットみたいに懐くようにしてあげればいいしね。

 そんな魔術知らんけど…

 お父様に本気で弟子入りして、独自に開発するのも、いいかもしんない。



 器の報告をする為に、クレアと一緒にルーク叔父様の所に来たよ。

 「見て~新作ハニワちゃん。ミニチュア臓器入り、これに呪詛を入れたら爆発しなかったよ」

 私はサンプルハニワを、伯父様に手渡した。

 分かり易い様に、表面はスケルトンにしてある。フフン(ドヤ顔)

 「………お前…。この短期間でこれを、一から造り出したのか?」

 叔父様が固まっちゃった。

 そうだった…自分のスキルを忘れてたよ。

 「えへっ」

 私はかわい子ぶってみた。

 「凄いな…。凄いとは思うが、誰にも言ってないよな?」

 「出来た事は、まだ誰にも言ってないけど…媒体は王女様のケロイドだから、目玉王子には報告するつもり」

 「お前な~王族を媒体にするのは、止めてくれと言っただろう。一族揃って城門行きになる前に、せめてステラを逃がす時間位は、作らせろよな」

 叔父様が項垂れてしまった…

 ルーク叔父様って、意外と愛妻家なんだよね。

 「ええ~目玉が了承したんだから、良くね?」

 痛~い。

 叔父様のゲンコツって容赦ないのよ、涙目になっちゃう。

 「王子は仕方ないが、ハニワの中身は絶対他言無用だぞ。僕が良いと言う迄、口が裂けてもバラすな。分かったか、クレアもだぞ」

 「「は~い」」



 「頭大丈夫?」

 「たんこぶ出来た(笑)」

 治療院からの帰り道で、クレアと話してたら、中央広場のオープンカフェで見つけちゃった!

 「おっさん!!!久し振り~体調崩して寝込んでるのかと思っちゃったよ。元気そうだね、身体みせて、何処も悪くないわ」

 私は魔力を流し込んで、くまなく体内を調べた。

 ちゃっかり席に着いて、ケーキセットもご馳走になってる。

 「ティアもクレアも元気そうじゃな。ここは皆、儂たちの健康状態を見てくれるから、治療院へ療養に来ているようじゃよ」

 そう言っておっさんは笑いながら、ポチを撫でてた。

 ポチも気持ち良さそうに、おっさんの膝の上で丸くなって寝てる。

 「そりゃそうよ!こんな僻地に来る、唯一の観光客だもの。いっその事移住して来ない?おっさんなら皆大歓迎だよ」

 終の棲家も良いなって、お友達と話してる。


 そうなのだ、ここに観光客は来ない。

 モンステルの森は、そう簡単に抜けられないんだよ。

 うちに続く街道も無いしね!

 お爺様の所にあるポータルは、個人の持ち物だから、勝手に使って良いのは許された人だけなのだ。

 おっさん達は領民以外で、唯一許された人達だから、皆歓迎してんだよ。

 そして貴重な情報源でもある。

 西の国と、西の辺境伯の間で、小競り合いが大きくなってるって事を聞いたよ。

 戦争は嫌だなって、話になってた。


 「西の辺境伯ってあんま聞いた事無いけど…国境を預かってる位だから、心配無いんじゃないの?」

 おっさんは、眉を八の字にした。

 「西の国境は広いのじゃ、その分人も多いがな…侮っては痛い目を見る事になるじゃろうて。戦争とは、予測不可なのじゃよ」

 「そうなんだ~」

 「戦争いつ?」

 「いつじゃろうな。西の国の、気分次第じゃなかろうか?」

 小一時間程経ったかな?

 ポチの癒しも十分貰ったみたいだし、そろそろ日が暮れそうなんで帰るみたい。

 ここに宿泊施設は、無いからね。

 うちに泊れば良いのに、いっつも遠慮すんだよ。

 王弟に、爪の垢でも飲ませてやりたいわ!

 中央広場にあるポータルまで見送りしたら、お土産は既に屋敷へ届けてるって言われた。

 何時もありがたい、また来てねって姿が消えてくのを、最後まで見届けた。



 「新種の雑草、おっさんビックリしてたね!」

 クレアが目を輝かせて、珍しく興奮してる。

 「うん。まさか本当に、開発者になるとは、思わなかったよ。やっぱおっさんて、物知りだよね~王国の事だけじゃなくて、世界中の情報持ってんだもの」

 「凄いよね」

 「上級免許取ったら、お爺様の所だけじゃなく、西の辺境伯にも分けてあげたいな」

 「絶対喜ぶと思う」

 「よし、品種改良頑張ろ」

 「うん、頑張ろ」



 屋敷に戻ったら、マルコ達の声が聞こえて来た。

 廊下を車椅子が物凄い勢いで走り抜けて、リーシャが絶叫してる。

 この光景も、日常になりつつあった。

 初めて見た時は、腰抜けるくらいビックリしたよ。

 いくら頭部の手術が成功したからってさ、体内はなんも変わってないんだからね?

 なのにさ、宮仕え達は止めもしないで、皆微笑ましそうに見守ってるんだもん。

 慌てて止めに入ったら、一緒に遊ぼうって誘われた。

 どうやら絶叫系が好きらしい…

 マジか!

 イメージと違って、面食らったわ。

 空から落としてって言われたけどね、駄目に決まってるでしょ!!!

 マルコが駆け抜けるのと空中落下では、身体に掛かる負荷が段違いなんです。

 「つまんな~い」じゃなんだわ。

 裏庭にある遊具で我慢してくれ、頼むから。

 リーシャがこんな性格だったなんて、呪詛発見した時より衝撃受けたよ。

 体力が付いたのは喜ばしい事なんだけどね、あんまし無茶しないで欲しい。

 貴方の心臓には、時限爆弾的な物が付いてるんだよ、とは言えないし。

 だからね、やんわり注意したよ。

 宮仕え達には厳重注意したさ、心臓発作起こされたくなかったら、しっかり見とき!ってね。

 こんだけ苦労して、術前に他の病気で、なんて事だけは勘弁して欲しい。

 身体治ったら、思う存分遊んでくれるよ、ピーちゃんが!


 そしてリーシャは、食事の時間も暇なし喋ってる。

 大人しくなるのは、咀嚼してる時と、寝てる時だけだった。

 一日の出来事を、1~100迄語ってくれるの(笑)

 それを皆で聞いてるんだけど、こんだけおしゃべりな子がさ、言葉を失うってどんだけ辛い目にあったんだろ?



 「顎だってさ、ずっと声を出してれば、あそこまで固まって無かったと思うんだ。喋り難いってのも、あったかもしらんけどね…ほぼ一年?全く喋らないってさ、尋常じゃなかったと思う…ねぇ!聞いてんの?」

 私達は晩御飯の後、訓練場に来てる。

 朝と夕方の訓練には参加してないから、クレアと自主練してたんだけど、目玉王子に見つかったの。

 別に隠れてるつもりも無かったけど、こんな遅い時間に来る人はいないよ?

 そんで、クレアの訓練が終わったから、次は目玉に付き合ってる。

 剣術は好きだからね、相手は誰でもいいの。

 目玉は剣を振り回しながら、降参とばかりに又座り込んだよ、何回目だ?

 「軟弱過ぎ」

 クレアに言われたら世話ないね。


 「いや…君達が尋常じゃない…それに、リーシャはあそこまでお喋りでも無かった…」

 目玉は息を切らしながら答えた後、ゴクゴク喉を鳴らし水を飲んでる。

 「ハァ…ここに来て、随分と変わったんだよ。元々明るい性格ではあったけれど、あそこまでお転婆でもなかった…父上達も驚いているんだ」

 「そうなんだ…」

 まさかと思うけど、呪詛で性格変わった?

 もう一勝負と言って、剣を向けて来るので、軽くいなしながら相手してる。

 毎日訓練してるせいか、割とまともになって来たんじゃないのって思ってたら、またへたり込んだわ。


 「ここの訓練場は不思議だね…座っているだけなのに、癒されている感じがするよ」

 「それね、雑草の効果なんだわ」

 「雑草?」

 私は思い出したよ。

 「そう、癒し効果のある雑草って知ってる?偶然だけど、作っちゃったんだよね」

 「え?」

 この雑草の正体を聞いてみたけど、目玉も初耳だって言ってた。

 王都から来た騎士達も、多分知らないだろうって…

 やっぱしおっさんの言う通り、私が開発者って事になるのかも?

 目玉には口留めしといた。

 「何故だ」って聞かれたけど、説明しなきゃならんのか?

 面倒臭いな。

 「傷とかも座ってるだけで治せちゃうんだよ?こんなのがあちこちに生えてたらさ、魔物の討伐も難しくなるじゃん。癒せる相手を限定出来ない、只の雑草如きなんだもの」

 「なるほど、それは危険だね…」

 「なるほどじゃないのよ、それ位分かってよ!あんたってさ、本当に危機管理能力が欠けてるよね。王族って、皆そんな感じなの?うちの国大丈夫なのか、不安になるレベルだわ」

 「そんな事は無い!これでも、相応の教育は受けている。その…ここの領地が、想定外過ぎて、考えが追い付かない…いや、言い訳だな。君の言う通り、魔獣と魔物の区別も付かない愚か者で、本当に恥ずかしいよ」

 目玉は苦笑いしながら、立ち上がった。

 「別に、愚か者だとは思ってないよ。心配はしてるけど…」 

 「ありがとう。そう言って貰えると、気が休まるな。もう一勝負しよう」

 まだやるの?

 別に良いけど、癒しで思い出したついでに、ちょっと聞いてみようかな?

 「目玉ってさ、聖女様に会った事あんの?」

 え、動揺した、なんで???

 「無…いっ…あ!」

 剣が目玉の手からスッポ抜けて飛んでった。

 「………」

 クレアが取って来て、渡そうとしてくれたのに、受け取らない。

 「どしたの?」

 クレアの問いに、剣を見つめながら目玉は語り出した。

 これっていつぞやの、めちゃくちゃ長~くなるお話かしら?

 シリアス展開かと、私達は警戒した。


 「父上から聞いた……リーシャを見た瞬間、悲鳴をあげて気絶した。それ以降体調不良だと言って、面会を拒絶されたんだ」

 目玉は、爪が食い込んでる事に、気付いてないんかな?

 握った拳から、血が流れてるよ。

 「他の貴族連中相手なら、癒しを使っていたのに…リーシャとの面会だけ、拒絶したんだ」

 そこで言葉を詰まらせた。

 よくよく聞けば、今よりずっと症状は軽かったんだって。

 「まぁ全身火傷の症状なら、見た事あるから想像付くわ。でもさ、皇国が認めた聖女でしょ?火傷くらいで気絶する?しないでしょ…普通」

 「その聖女偽物」

 クレアは、雑草で癒しきれなかった目玉の掌に、傷薬を塗りながら私と同じ疑問を声に出した。

 「何故だ!偽物が聖女を騙るのは、当人の罪だけでは済まない事位、子供でも理解しているだろう」

 なんか悔しそうだけど…私達に聞かれてもね?

 「それは知らんけど、実はさ…」

 私は今日、おっさんから聞いた話を、目玉に教えてあげた。


 皇国には、常に聖女様が居る…いや、居た。

 聖物が選んだ人物こそが、聖女として認められるんだけど…

 その聖物が八年位前に、何者かによって盗まれた事を、皇国は隠そうとした。

 だけど同時期、帝国に聖女が現れる。

 しかも聖物まで発見されたって言うから、皇国も聖女の存在を、認めざるを得なかった。

 ここ迄は有名な話。


 問題は、聖女を連れて来たのが、帝国の大神官だって事。

 つまり、聖女は帝国民じゃない可能性があるらしいの。

 しかも、聖物が何で、何処にあるのかを明かして無い。

 盗まれる可能性を考えて隠してるのかもだけど、皇国も聖物が何かを公表したがらない。

 「どゆ事って思わない?だってさ、皇国から盗まれたのに、返せとも言わないって変でしょ。聖女の存在ってさ、物凄く重要だと思うのに…静観してるのは何でだと思う?おっさんはね、聖物を持ち出したのが今の聖女で、皇国から来たのかもねって言ってたの。皇国の人ならさ、態々帝国に来るのっておかしくない?何か特別な理由でもあるのかな」

 目玉は考える様に、問いかけて来た。

 「その聖物は…聖女が持っているのかい?」

 「それは知らん、おっさんから聞いた話だもん。ただの推測だって言ってたし、本物の聖女って可能性もあるんじゃないの?聖物だって、本当は盗まれたんじゃないのかもしれないよ」

 私達は暫し沈黙した。


 「それにさ、皇国にしか現れなかった聖女がね。今世は帝国に現れたってのも、不思議じゃない?どうなってんだろね」

 目玉は何も答えなかった。

 「ねぇ、聞いてる?」

 小難しい顔をしながら、ボソッと呟くように聞き返して来た。

 「帝国の聖女は…聖物の力を使って、聖女に成り済ましている可能性が、高いと言う事かな?」

 「る~い、凄い」

 クレアに褒められるとは!

 「どゆ事?やっぱ聖女って偽者なの?それとも、今世の皇国には、最初から聖物が無かったって事?ひょっとして西の国も絡んでたりして…」

 私は考えられる懸念を、全て声に出してみたけど、さっぱり分からない。


 西の国とのいざこざは、今に始まった事じゃないし…

 北の国境沿いが激しいってだけで、西の国境とだって小競り合いは起きてた。

 それが逆転しようとしてるだけ。

 そこに帝国の、聖女の胡散臭い話が出た。

 魔物の集団行動も気になるし…

 いろいろおかしな事が重なり過ぎてるから、余計な事迄疑ってしまう。

 「世界征服」

 「そうそれ!」

 私達は笑ったけど、クレアの言葉に目玉は固まっちゃった。

 「あくまでも推察だからね、世界征服なんて、そう簡単には出来んでしょ。皇国だって帝国だって、うちと比べ物にならん程、でっかい国だもん。違う?」

 「…うん、そうだね」

 「両者がぶつかったら、世界滅ぶんじゃない?おっさんも、そこまで深刻な話を、私達にする訳ないと思うよ」

 「…うん、そうだね」

 何を言っても、目玉は上の空だ、そんな深刻にならんでも良くね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る