第18話 魔物と魔獣は違います

 翌日早朝。

 クレアと魔物討伐に行こうとしてたら、目玉大好き王子がやって来たよ。

 「魔物討伐に、私も同行させて欲しい」

 「何言ってんの?あんたの腕前は、お母様から聞いてる。実力不足だから、連れてけないよ」

 「マルコにどうしても勝ちたいのだ。実力を付ける為には、実戦で戦うのが良いだろう」

 「だったら人間相手に訓練しとけばいいんじゃないの?態々危険を冒して迄、魔物と戦う必要なんて無いでしょ」

 「人間が相手だと、どうしても躊躇いが出てしまう。だが、魔物が相手ならば、遠慮はしなくても良いと思ったのだ」

 真面目な顔で語ってっけど…

 人間より魔物が弱いって前提は、何処から来てるんだろ?

 「あんたさ…魔物を見た事あんの?」

 「幼い頃だが…傷ついたホロケ・ウルフを見た事がある。群れからはぐれて一頭でいた所を、当時護衛していた者が倒した」

 あれは恐ろしかったって言ってるけどさ…

 幼い頃の記憶って膨張され易いし、恐怖心てずっと残るのも分かるけど。

 ホロケ・ウルフは、索敵に特化した犬科の魔獣であって、魔物ではない。

 それにあいつ等は、素手でも倒せる位、弱小なのよ?

 小さいって言っても、他の魔獣と比べてだからね。

 実際は大型犬よりちょっと大きい位だし、一度主と認めたら人にも滅茶苦茶懐くんだよ。

 可愛い奴等なんだわ。

 北の領地では、魔獣狩りを禁止してるけど…

 他所では毛皮目的で乱獲されてるから、絶滅寸前だって聞いた。

 可哀想に…

 王族って、どんな教育受けてんだろ?

 「あんたさ、余計な事考えてないで、王女様と一緒に学校行ったら?魔物と魔獣の区別も付かないなんて、王族としてどうかと思うよ。一から勉強し直して来なよ、剣術はその次で構わないんじゃないの?どうせ王都に戻ったらさ、腑抜け護衛共でも役に立ってるんだろうし…」

 「余計な事ではない!とても大切な事なのだ。国民を護る為にも、私は今以上に強くならなければいけない…」

 強くなりたいから、魔物討伐したいって事?

 なんか考え方がズレてると思ったから、説明してあげた。

 「魔獣はさ、縄張りに入るかこっちから殺意を向けない限り、襲って来ないの。だけど魔物に縄張りなんて物は無いし、何処に居るかわからん!何なら隣近所にだって、潜んでるよ?あいつら擬態が得意だからね、人間に化けてたって気付かないから、油断してると私達だって生きて帰って来れる保証は無いの。だから、足手纏いは連れて行きたくない」

 「モンステルの森に入る事は、父上に許可を貰った。君達に迷惑を掛けるつもりは無い。これでも、自分の身を護る術は持っているつもりだ」

 冗談はやめてよね~

 勝手に許可出すなって、お父様から王弟に文句言って貰わなきゃ。

 「あのさ…意気込みは分かったけど、身代わり守りはどうしたの?着けてないよね?危険な場所に行くって、理解してないのかな」

 「危険な場所だと言う事は、理解しているが、身代わり守りは持っていない。何か問題でもあるのかい」

 「ありえないっしょ!モンステルの森じゃ、何が起こるか分かんないんだよ?私達だって、身代わり守りを何重にも着けてんの。王族なら、本物の魔力石位身に着けてくんないと、何かあったら誰が責任取るんだよ」

 「そうなのか?しかし…魔力石は高価な代物。王族とてそう簡単に所持出来る物ではないのだ」

 「嘘でしょ…」

 王族って、何でもかんでも手に入ると思ってたら、違ったわ。

 「丸腰の奴は、尚更連れて行きたくないわ。普段から何かあった時の為に、お妃様からブレスレットでも貰っときなよ。あのクオリティなら、魔力石の代わりになるでしょ」

 「あれは、王都の孤児院で開かれるバザーに寄付すると、母上が言っていた。私が手に…」

 「ふざけないで!あれの作り方は、王族だから教えたんだよ。他言無用って約束忘れたの?販売だって、雑貨店だけに許されてるの。それを、バザーに出したらどうなるか、少し考えたら理解出来るでしょう」

 ここの領民は信用出来るけど、他領の奴らは信用しちゃ駄目だって、お爺様が言ってた。

 もしお妃様みたいに平民があれを作れたら、邪な考えを持つ連中に、労働奴隷として生涯監禁されてしまう。

 一般人に本物の身代わり守りと、偽物の身代わり守りの区別なんて、出来ないだろうし…

 何の効力も無いただのビーズアクセサリーが、魔力石として売られる可能性だってあるんだから。

 「あれを、領地外に出すのは危険なんだよ、それ位分かって!それと、訓練中のマルコに勝てなきゃ、魔物討伐なんて絶対無理。森に入りたかったら、まずはマルコに勝ってからにして。あんたらの行為は、迷惑極まりないって事も、自覚してよね」

 うちの王族って、危機管理能力どうなってんの?

 「そう…だったのか…迷惑を掛けるつもりは無かった。母上にも、バザーに出すのを止めるよう伝えておく。手間を取らせてしまい、申し訳なかった」

 目玉大好き王子は、しょんぼりしながら、戻ってった。

 勘弁してよ~

 そんなんだから、変なのに付け込まれるんだよ。

 「はぁ…疲れる」

 私は溜息が出た、幸せにげちゃう。



 なんか出だしから嫌な気分になったけど、何時もの様にモンステルの森へと入ってく。

 今回、目玉大好き王子を連れて来なかったのには、もうひとつ理由があった。

 視線だ!

 お母様の情報が正しければ、絶対今日、私達を襲って来る筈。

 それを分かってたから、王族なんてお荷物を、連れ回す事なんてしたくなかった。


 魔物への警戒も、怠らない。

 さも、視線の存在に気が付いてない振りをしながら、森の奥へと進む。

 視線は何も知らずに、付いて来てる。

 この辺りでいいかな?

 私が立ち止まると、クレアは直ぐに剣を構え、指示を待った。

 「500m先、10時の方向標的発見!」

 そう告げると、クレアは走り出す。

 そっちは任せて、私はもう一人の標的を引き摺り出すよ。

 絶対逃がさない。

 「陣来風烈 重要なる無形の存在よ 我が息吹に合わせ その偉大なる力を見せつけよ!『開け風の門』」

 私を中心に、周りの木々や草花を巻き込みながら、大気が大きく渦を巻く。

 頭上高く昇った所で、紫色の光が差し込み術式が発動された。

 続けて風属性の、上級魔術を詠唱する。

 私は土属性しか持ってないけど、ポチのお陰で風属性の魔術も使えるんだ。

 「風情を乱し佇む者、真の在り処を見極め、誘導せよ!『逆転移』」

 魔術は無事成功して、隠れてたもう一人の侵略者が目の前に姿を現した。


 「気付かれて無いと思ってた?それとも、自分は逃げられるとでも思ってた?どっちにしろ残念だったね、チェックメイトだよ」

 侵略者は、突然景色が変わった事に驚きつつも、潔く自爆を試みたが一足遅かったのだ。

 バキ!!!って、もの凄~く痛そうな音を立てて、気絶した。

 隠れて、私達に同行してたお母様に殴られたんだけど…

 「ねぇ…それ、生きてるよね?」

 「当たり前だろ?我が物顔で領地を踏み荒らしたんだ。それ相応の報いは受けて貰うさ」

 「ルディ伯母様、コレも!」

 クレアは学校で見つけた護衛を、物でも引き摺ってる様に持って来た。

 「え…そっちも生きてるよね?」

 「手加減した」

 瀕死に見えるのは、気の所為だと思う事にしよう。


 お母様の話だと、王弟一行にくっついて、怪しい人物が紛れ込んでたんだって。

 直ぐ捕まえなかったのは悪意が無かったし、目玉大好き王子に付いてたから、影の可能性を考えたのだ。

 一応お爺様の所へ確認しに行ったけど、直ぐに結論出せなかったのは、王族を護る影ってそう簡単に情報くれないらしい。

 クレアが学校で見た護衛は、目玉大好き王子から王弟付きだって教えて貰ったけど…


 だったらさ、私達の事つけ回すの、おかしくない?

 目玉王子から、私達に標的を変えた理由が分からん。

 上手く立ち回ってたのかもしんないけど、お母様に目を付けられた時点で既にアウトなのよ。

 なんて言うのか、説明出来ないけど、野生の感ってやつ?

 最近視線がしつこくなってて、何処へ行くんでもついてくるし、気持ち悪くてさ。

 護衛は偵察係みたいだけど、お仲間のが私達に悪意を向けて来る様になったの。

 だから捕まえて尋問すっか~ってなった。

 煩わしいのは、嫌いなのよ。

 後はお母様達が何とかしてくれるし、これ以上首を突っ込むつもりも無い。

 取り合えず気になる視線は無くなったから、心置きなく次の手術に臨めるよ。

 良かった。


 

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