第17話 王子の語りは長い
私達は、待ち伏せ王子の部屋に通された。
お茶を出して貰ったので、一気に飲んだよ。
思ってた以上に、緊張してたのかも?
喉乾いてたんだよね。
王弟夫妻は当分出て来なさそうだし、こいつに説明しても良いだろうかって考えてたら、先越された。
「あれは…あの左目は、私のか?」
お茶を飲んでた叔父様が咽た、伯母様が背中をさすってあげてる。
あ~こいつより、叔父様のがおっかないなぁ…
後で説教されるぞ~
なんて説明しようか考えてたら、沈黙は肯定と受け取ったみたい。
「そうか…私のか」
何処か嬉しそうな顔してる、待ち伏せとは対照的に、絶望に満ちた叔父様の視線が痛い。
伯母様は茶葉が気になる様で、侍女さんを質問攻めにしてる、助け船は望めそうに無い。
「ティアは悪くない」
「クレア?」
「目玉使えると思ったの私」
「お茶会の時に、兄妹似てるって、言ってただけじゃん。目玉切り取って来たのは、私だから、私一人の責任だし。城門行くのは、王女様を完全体にしてからにして!まだ遣り残した事が、山積みなの。それに…」
叔父様は、私の言葉を遮った。
「弟子の始末は、師匠である私の責任。どうかこの身で、お許し頂きたい」
深く頭を下げた横には、ミラ伯母様の姿もあった。
事情はよく分からんけど弟が頭下げたんなら、一緒に下げとけば何とかなると思っての行動だろう。
ミラ伯母様って、そゆ人なんだ。
「頭をあげ、よく確認するがいい。私の左目はある、この事で責め立てる気は無い」
良かった、ちゃんと証拠隠滅した甲斐があったもんだ。
「え、じゃあ何?あんたの金魚の糞を重症にした事?王弟に逆らった事かな…それとも、王弟の護衛を刺した事?あと何だっけ???」
いろいろ思い当たる節があって、特定出来ない…
待ち伏せの顔色が、どんどん青褪めてった。
「君は一体…何をやらかしているのだ?ここが王都なら、一族揃って天に召されていても、おかしくはないぞ」
叔父様は頭を抱え込んでるし、伯母様はお咎めが無いのならって、侍女達にお茶の淹れ方を教えてた。
クレアは、いつもどおり。
結局の所、待ち伏せは私に謝罪と、礼を言いたかっただけみたい。
知らなかったけど、王都でかなり有名な悪女なんだって、私。
うちが貧乏なのは浪費癖が酷く、伯爵家の財産を食い潰してるから。
毎日ドレスや宝石を買い漁り、茶会だのパーティだのと出向いては、節操のない遊びをしてるんだって!
クレアを奴隷の様に扱ってるのを見てるから、使用人が寄り付かなくなってるとか?
それを聞いた伯母様は腹を抱えながら笑って、叔父様も呆れた表情でお茶を飲んでた。
クレアは顔を真っ赤にして、怒ってる。
そんな噂を真に受けるつもりは無かったけど、王女様が初対面の私に心を開いたのが、気に食わなかったみたい。
ただの焼きもちってやつ?
まぁ…気持ちは分からなくもない。
マルコがあんたに懐いてるの、私も気に入らなかったし。
「ここは痛み分けって事で、いいかな?」
叔父様に、思いっきりゲンコツされたよ!
「痛~い」
この後は、永遠に待ち伏せから、思いの丈を聞かされた。
苦しんでる王女様を見てるのが、辛かったんだって。
身代わりになれたらって、何度も思ったらしい。
だから、さっき王女様の左目を見て、役に立てた事が分かって嬉しかったんだと。
「お兄様と同じ瞳になれて嬉しい」と、言ってくれたのにも、感激したんだって。
1時間後、叔父様がコッソリと抜け出したのを、私は横目で見てた。
その30分後、伯母様が満足そうに手を振って出て行った。
茶葉の話は終わったみたい…
それから15分後、私はクレアにバトンを渡して部屋を出た。
「付き合ってらんないわ!」
王弟夫妻は、まだ王女様の所に居たよ。
リーシャは眠ってて、今度は夫妻に捕まりそうだったから、速攻逃げた。
リビングに顔を出したら、叔父様達も揃ってた。
「面白い子じゃないか!」
ミラ伯母様は、待ち伏せが気に入ったらしい、私を見て笑顔で言った。
「姉さんの楽観的な所が、今日程羨ましく思った事は、なかったな…」
叔父様は凄~くお疲れのようだ、胃をさすってるし、申し訳ない。
そして15分後、クレアが戻って来た。
「王子馬鹿だった」
第一声がこれだ。
よくよく聞いてみると、ひたすらクレアに語ってたらしい。
私達が入れ替わった事に全く気が付く気配がないので、録画してた魔道具をどうぞって渡してから戻って来たんだって。
どんな顔して受け取ってたのか、見たかったな。
そこでお父様が、とっても爽やかな笑顔で問いかけて来た。
「まずは、手術お疲れ様。皆よく頑張ったね…で?何か大事な報告は無いのかな」
これは、怒ってるみたい。
そうだよね、オルテンシア家の家長として、一族を守る義務があるんだもの。
私達がいなくなったら、領民が飢えちゃう。
ここは素直に謝る…気は無かった!
だって、悪い事してないもん。
お父様も分かってたみたいで、何時もの様に困った娘達だと言わんばかりの顔をしてた。
叔父様は、お父様は甘過ぎるって言いながらも、何かやったら事前に報告しろって言ってくれた。
揉み消してくれるのかな?
流石師匠、頼もしいぞ!
その後動画を観た筈の王弟からは、何の音沙汰もなかった。
逆に伯母様の方から、毛生え薬の効果が知りたいと毎日観察に来てて、宮仕え達とも仲良くなってた。
王女様は、休日明けから学校行ったよ。
お友達から、手術頑張ったねって言われて、嬉しかったんだって。
それは良かったんだけど、一つ問題が出来た。
実はね、何時までもクレアを学校に付き合わせる訳に行かないので、手乗りサイズのハニワちゃんを預けてたの。
呪詛が爆発する気配を感じたら、王女様毎封印して、私の所へ戻って来る様術式を刻んでる。
これで領地が消える心配は無くなっんだけど、常にべったりと王女様にくっついてるもんだからね。
情が湧いたらしく「エリザベス」なんて、ハニワ如きに高貴な名前まで付けて、ドレス着せて着飾ってる。
お妃様が…
そう、気に入ってしまったのよ。
ハニワだよ?
粘土だよ?
意思なんて、ある訳ないっしょ!
そんなのにドレス着せても意味なくねって思ってたら、王女様もエリザベスを溺愛してた。
私は罪悪感でいっぱいだよ。
あれはね、呪詛に反応して側にいるだけで、王女様に懐いてる訳じゃないの。
しかも次の手術が終わって、呪詛が王女様から消えたら、ハニワもお役御免なのよ。
術式は消えて土に帰っちゃう。
私は何時もの如く別室に籠って、頭を抱えてたら、足音が近付き扉の前で止まる。
「またか!」
最近多いんだよね、私の部屋を訪ねて来る事が…
ノックもしないで引き返す時もあれば、小一時間悩んでから、声をかけて来る時もある。
基本我が家の、部屋の扉は開放されてる。
お好きにど~ぞってスタイルなんだけど、入り口でウロウロされるのは、正直良い気分ではない。
私は何時も続き部屋にいるから、廊下は見えないんだけど、足音や気配で分かるのよ。
今日はどんだけ躊躇うのかなって思ってたら、意外と決断は早かった。
「失礼する」
「なんすか?」
部屋に入って来るなり、棚に並んでる物に視線を向けた。
そこには半分目玉から作り出した、ガラス容器に入ったサンプルが並べてある。
視神経から硝子体だけの物や、黄斑部だけの物、水晶体迄。
核になった中心窩を作ってからも、虹彩を変える研究を続けてたのだ。
お陰様で、色とりどりの虹彩を持つ目玉も、沢山ある。
「見事だな…机の上にあるのは、リーシャの眼球かな?」
そうなのだ、今更だけど完成したのだ。
「見せて貰っても、良いだろうか」
「どうぞ」
私はガラス容器に入ったサンプルを、手渡した。
嬉しそうに目玉を眺めてる姿を見てると、普通に妹思いのお兄ちゃんなんだよね~
「王女様は今ので満足なんだって、目玉差し替える気ないみたい」
私は「がっかりだよ」と、本音を零す。
「それは申し訳ない。リーシャを説得して来るから、待っていてくれ」
「説得しなくていいよ。あんたと一緒の目玉が良いって言うんだもの、本人の希望を優先してあげようよ」
王女様の気持ちが理解出来ない程、私は鬼じゃないもん。
「そうか…ありがとう。心遣いに感謝する」
「ちょうど処分しようと思ってたから、ちょっと付き合ってくんない?一応王族の肉体だから、媒体にされると問題になるし。見届けてよ」
躊躇い王子は、暫くサンプルを眺めてから、問いかけて来た。
「私の半分目玉は、後世の役に立つだろうか?」
後世?
「王女様の役には立ったんじゃない?研究資料も残したし、私が上級医術師になったら、他領でも隻眼の人はいなくなると思うよ」
「そうか…」
躊躇いは嬉しそうに目玉を抱えて、何度も感謝するって言ってくれた。
でも、目玉を離そうとしない…
処分する気ないのかなって思ったから、一応聞いてみた。
「それ…欲しかったらあげるよ、元はあんたのだし」
躊躇い王子から、効果音が聞こえてきそうな位の、笑顔を向けられたよ!
「良いのか?ありがたく受け取ろう」
やっぱ欲しかったんだ、滅茶苦茶嬉しそうなんだけど…
前回のケロイドも、処分せずに持ち帰ると言ってたし、収集癖でもあんのか?
そのまま帰ろうとしたので、他のサンプルをどうするか聞いたら、やっぱ持ち帰るって。
沢山あるから、マジック袋に入れて渡したけど…
何しに来たんだ?
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