第16話 ベリーショートヘアの王女様

 私達は、朝から慌ただしく動いてた。

 何故なら、今日が第一回目、形成手術の日なのだ。

 医術師になってから、初めての筆頭である。

 予定は2時間、午前中で終わらせたい。

 心残りは…虹彩が間に合わなかった事。

 ポチのスキルを悟られてはいけないから、最後の仕上げを現実世界でやってたからだ。

 何度も言うけど、私は凡人以下。

 どんだけ時間があっても、考える頭がポンコツだから、妙案が浮かばないのである。

 困ったもんだ…


 一応、核は持って来たよ。

 もしかしたら、王女様の虹彩になるかもって期待をしてる。

 全ての準備を終えて、後は王弟一家が部屋を出てってくれるだけなんだけど…

 なかなか王女様の傍を、離れようとしない。

 今生の別れかよって、突っ込みたくなる。

 「あの~そろそろ始めたいので、出てって貰えませんか?」

 あと少しって言われたよ、何度目だ?

 手術が終わったら、いくらでも話せるだろが~~~

 王女様はうちに来てから、随分と明るくなった、お友達効果ってやつかな?

 何より意思の疎通が、出来るようになったのよ。

 ハッキリと発音は出来ないんだけど、ちょっとずつ声も出せるようになったし、顎の動きで気持ちを伝えられるようになった。

 そして、よく笑う様になったんだよ、これは本当に嬉しい。


 だからさ、さっさと顔面治して普通に話したり、ご飯食べれるようにしてあげたいのに…

 それと、手術前に患者さんが疲れちゃったら、困るんだよな~

 「あの~これ以上は待てないので、出てって貰えませんか?」

 あと少しじゃないんだよ!

 かれこれ1時間も待ってるんだ、強制退場して貰おう。

 『開け風の門』竜巻!

 王女様の周りにいた人達を巻き上げて、部屋の外に出て貰い、扉の鍵を閉めた。

 「あ!宮仕え達も追い出しちゃった…どうしよ?まぁいっか」

 また扉開けたら、余計な人達まで入って来そうだし、今回は諦めてもらいましょう。

 「いいよ、いいよ、さっさと始めよう」

 ミラ伯母様は相変わらずだ。


 「王女様、すみません。ご家族が居ると始められないので、退出して頂きました。手術が終わったら、直ぐに会えるので、安心してください」

 王女様の瞳が力強く感じたよ、緊張してないのかな?

 良い事だ!

 ミラ伯母様が、王女様に話しかける。

 「いいですか?私と一緒に数えますよ~い~ち、に~い、さ~ん…はいっ!落ちた~」

 流石です、しっかり麻酔がかかったようだ。

 念の為、呪詛が頭部に無い事を、再度確認した。

 大丈夫!

 呪詛は無かった、そしてちゃんと結界も張ったよ。

 王女様が必死に守って来たんだもの、触手が伸びて来ないように、今度はクレアが守ってくれるよ。

 え?何故、自分でやらんのかって?

 それは、聞かないで欲しい…


 私とクレアは、表面のケロイドを慎重に取り除いてく。

 叔父様がそれを受け取り、容器に入れてくれる。

 ルーク叔父様は監督だ。

 今回は二人で頑張れと言って、補佐だけの人になってる。

 見ててくれるだけでも、心強いのだ。

 全てのケロイドを取り除いた後で確認したが…

 「ん~やっぱ左目の核、無いね」

 「無いね」

 クレアも残念そう。

 私は貰った目玉で作った核を、王女様の視神経と繋ぎ合わせた。

 「天よ!どうか、王女様の虹彩にしてくれたまへ~」

 「なんだよそれ…」

 叔父様の突っ込みは聞かなかった事にして、意味の無い神頼みをしてから、上級ポーションを核に掛けてみる。

 ポチの中では何度も成功させたけど、出来上がるのは、待ち伏せ王子の目玉だったのだ。

 でも、ここは現実世界だ。

 繋いだ視神経も本人の物、どうか王女様の色になって!


 緊張しながら覗き込んでると、ポコポコと水が少しずつ沸騰するような感じで…

 ゆっくりと時間をかけて、まん丸目玉が出来上がった。

 「「「「おお~」」」」

 思わず4人で歓声をあげるが…

 「ナニコレ?」

 やっぱし神様なんて、いないんだ!

 「ちゃんと虹彩、動いてるよ」

 クレアが確認する。

 「色違うじゃん、王女様の、目玉じゃない」

 「王子のだね」

 クレアが止めの一言。

 私は項垂れてしまった…

 だってさ、せっかく可愛らしい王女様がだよ?

 待ち伏せ王子の目玉くっ付けてるなんて、許せない!

 自分で持って来た癖に「何を言う」だよね…がっくし。

 「まて、なんの話だ?」

 あ~叔父様達には、話してなかったな…

 なんて説明しよう、これは困ったぞ。

 目がおっかない!目がおっかない!目がおっかない~!

 手術が終わったら話しますって事で、気持ち切り替えた。


 溶け落ちてた鼻骨から鼻尖びせん迄形成したよ、ちゃんと外側鼻軟骨と、大鼻翼だいびよく軟骨も用意してたんだ。

 お妃様に見せて貰った動画はね、一年も前のだったから。

 ちょっと成長させたのを想像して用意したんだけど、上手く馴染んでくれると良いな…

 それから、口輪筋も立て直した。

 最後に培養しておいた皮膚を被せ、仕上げのポーションだ!

 皮膚が馴染んで、正常な顔面が、出来上がった。

 「これなら瘢痕はんこん形成の心配もないね」

 「上手く出来た」

 私とクレアは、ハイタッチしたよ。


 手術が無事終わったら、ミラ伯母様が楽し気に、何かを持って来た。

 「ねぇねぇ、せっかくだから、私の新薬試してもいい?」

 返事を聞く気は、無いのだよ。

 言い終わる前から、頭皮にダバダバと液体をかけてた。

 「あ!この臭いって、自称行方不明が送ってくれた、新種の薬草?あのめっちゃ成長が早いって、言ってた奴じゃない」

 「そう!他にもいろんなの、試したかったんだけどね」

 今日はこれ位にしとくねって言いながら、シャンプーでもしてるように、液体を頭皮に揉み込んでた。

 「「すご~い」」

 ツルツルだった頭皮から、ニョキニョキと毛が生えて来たよ!!!

 あっと言う間に、ベリーショートヘアの、王女様が誕生した~

 「これは嬉しいね。髪の毛が生える迄は、坊主だなって思ってたの」

 私達は素直に手放しで喜んでたけど…

 男性である叔父様に、この感情は通じないのか?

 「なぁ…おまえらさ、動画撮ってるの、忘れてないか」

 「なんか問題あった?」

 私は考えたけど…間違いなく成功じゃね?

 「ただのケロイド除去でしょ?何深刻になってんのよ」

 ミラ伯母様が、バシンって、叔父様の背中を叩いた。

 「そう!髪は女の命」

 伯母様とクレアに気圧されたのか、叔父様はそれ以上何も言ってこなかったよ。


 じゃあ、起こしますか。

 「王女様!起きてください、朝ですよ~」

 私は肩をバンバン叩いた。

 王女様が、ゆっくりと瞼を上げた。

 「手術、終わりましたよ。私が見えますか?」

 「はい」

 「「「「おお~」」」」

 やっぱ大成功じゃん!

 私は手鏡を取り出して、王女様に見せた。

 「どうですか?少し成長した、リシャーナ様です」

 あっ!て、言った瞬間、瞳から大粒の涙が溢れ出て来た。

 やっぱ左目、気に入らなかったかな?

 クレアが涙を拭いてくれてる。

 落ち着くのを待ってから、再度声をかけた。

 「左右で瞳の色が異なってしまい、すみません。身体の手術をする時には治せると思いますので、少しの間我慢して頂けませんか?」

 恐る恐る聞いたんだけど、目はこのままで良いって言われちゃったよ…

 なんでだろ?


 気になったけど、家族が待ってるから、扉を開けたっけ…

 雪崩の様に連なって入って来たわ。

 めっちゃビビッた!

 感動の再会してるけど、まだ頭部だけよ?

 大変な手術はこれからだよ、大丈夫かな、この人達。

 「あの~除去したケロイドは、どうしますか?」

 何度か声をかけたけど、全く聞いてくれないや。

 ん~勝手に処分しちゃっても良いかな?

 まずいよね…どうしよ。

 「持ち帰る」

 「「「「え?」」」」

 「ついて来い」

 待ち伏せ王子が、無表情のまま歩き出したよ…

 着いて来いって言うけど、私達は顔を見合わせた。

 家族に術後の説明もしたかったんだけど、仕方ないからついてったさ。

 王弟夫妻は、落ち着くまで放置でいいよね?

 宮仕え達が居たから、後は任せた!

 さっきは追い出しちゃってごめんね!てへっ

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