第15話 魔力石ではなく、ビーズです
王弟一行が、我が家に来てから四日目の昼食時。
外出から戻って来た王女様の右手首で、ビーズのブレスレットが輝いてた。
「姉様見て、リーシャにプレゼントしたの」
マルコが嬉しそうに教えてくれる。
ずっと外に連れ出したいと思ってたもんね、短い時間だったけど、楽しめたみたいで良かったわ。
本当なら、私も一緒に行く筈だったのに、王弟に呼び出されたせいで行けなかったんだよ…チクショウ
「とっても素敵なの見つけたね。お姫様に凄く似合ってるよ」
「うん、僕が選んだの」フフン(ドヤ顔)
ここで王弟が、お父様に話しかけて来た。
「オルテンシア伯爵、雑貨屋で売っているアクセサリーは、本当にビーズなのか?私には、魔力石を加工した物にしか、見えなかったぞ」
「ビーズに魔力を込めた物です。魔力石ではありません」
王弟は眉間に皺を寄せた、お父様の言葉に納得してなさそう。
お父様も気付いたみたいで、親切に分かりやすく説明してあげたよ。
我が領では、魔力コントロールの練習をする時、ビーズを使うの。
自身の魔力をビーズに流し込むんだけど、上手に出来たら魔力石と似た様な効果がある事を、ご先祖様が発見したのだ!
魔力の籠った小さなビーズは、中央広場にある雑貨屋で買い取ってる。
ちゃんとビーズ編み職人がいて、素敵なアクセサリーにしてくれるのだ。
雑貨屋で買い取ったビーズの代金は、伯爵家で払い戻ししてるから、その分は上乗せしちゃいけない事になってる。
だからとっても安価で、領民なら誰でも購入出来ちゃう代物なの。
当然だけど、転売は禁止だよ。
まぁ、うちに来る観光客なんて、おっさん位だからね。
領地の外へ転売目的で持ち出す人は、居ないのだ。
王弟は納得したのか、次の疑問をぶつけて来た。
「そうか…ここの領民は皆、宝石に魔力を注ぐ事が、出来ると言う事か?」
「それは難しいと思います。スコーピオン・フィッシュの鱗から出来るビーズは丈夫ですが、宝石は柔らかいですよね?砕けてしまうかと…」
お父様は、やった事無いけどって呟いてた。
それはそう!
ルビーとか、エメラルドなんて高価な物、うちには無い。
ビーズの素材になるスコーピオン・フイッシュとは、大型の獰猛な肉食海水魚で、ヒレには猛毒がある。
体内にも毒袋があるから、食用にもならないし、猟師さんは襲われるしで迷惑な奴なんだけど…
美しい鱗は、装飾品として人気があるんだ。
銛でも槍でも貫けない程の硬い鱗だけど、火を通すと加工し易くなる事を発見したのも、実は我が家のご先祖様なのよ。
凄いでしょ~フフン(ドヤ顔)
「そうか、無理か…ならば、ビーズに魔力を注ぐ遣り方は、他言無用か?」
「本来なら教える事はしませんが、外部に漏らさないとお約束して頂けるのであれば、特別に…」
他言無用って約束を取り付けたから、昼食後は皆で身代わり守りを作る事になったよ。
まずはテーブルの上に、色とりどりのビーズが入った箱を置きます。
そこから片手で掴めるだけのビーズを握りしめて、壊れないように魔力を流し込む。
上手く出来たら掌の上で、小さなビーズが一塊になってる筈…なんだけど?
バラバラと、零れ落ちてってる。
王弟と待ち伏せ王子のビーズは、ひとつもくっ付いて無かった…下手くそか!
「これで良いのかしら?」
お妃様の掌には、キラッキラに輝いてるビーズの塊があった。
そうよ、ここまでじゃなくっても、何個かはくっつく筈なのよ。
それにしてもこれは凄いぞ、一回で完成させるなんて、天才じゃない???
私達は拍手喝采だ。
次に固まってるビーズを、元の状態に戻します。
磁石みたいに、くっついてるだけだから、簡単に崩れるのだ。
この時気を付けなきゃならないのは、くっついてないビーズと、一緒にしない事。
落ちたやつには、魔力入ってないからね。
魔力入りのビーズをバラバラにしたら、今度は色合い毎に選別するよ。
ここが一番面倒臭い作業なのだ。
ちっこいビーズを、ピンセントで選り分けなくっちゃならない。
輝きが強い程魔力量が多くて、上質なアクセサリーになるのです。
お妃様のビーズはどれも満遍なく、魔力が注がれてたよ。
魔力石に匹敵する特上品だって、お父様が言ってる。
「これは素晴らしい」
お母様も大絶賛だ。
うちの領民は、大人から子供まで、魔力と暇さえあればこれをやってる。
ビーズアクセサリーはとっても需要が高いから、常に品薄なのだ。
だってさ、魔物に襲われる度に、壊れちゃうんだもの…
私とクレアも、ブレスレットを何本か、必ず付けてるよ。
複数付けてないと、命を護り切れないからなのだ。
お妃様は面白かったのか、次から次へと魔力を流してた。
「妃殿下、その辺にした方が。これはかなり、魔力を消費する」
お母様が止めに入ったよ。
これだけキラッキラのビーズなんだもの、相当な魔力を消費してる筈よね?
「あら、残念だわ」
どうやら夢中になり過ぎて、魔力が枯渇しかけてたのに、気付いてなかったみたい。
未だに魔力を込められない夫と息子を見ながら、物足りなさそうにしてたから、声をかけてみた。
「良かったら編んでみませんか?編み図ありますよ」
私はお妃様にビーズ編みを勧めたら、もの凄い勢いで食いついて来た。
刺繍が好きだと言ってたし、元来器用な人なんだと思う。
途中で王弟がコツを聞いてたんだけどね…
針穴に糸を通す感じよって滅茶苦茶分かり易い表現で教えてたのに、全く出来なかった。
何かの冗談でしょ?
一個もくっつかないとか、ここまで不器用な人達を、私は見た事が無いぞ~
お妃様も諦めたのか、夫と息子は無視してビーズ編みを楽しんでた。
ここだけの話、ビーズに魔力を入れるのって、案外簡単なのよ。
ただね、質の高い物を作ろうとしたら難しいの。
この男共は、一体何を作ろうとしてんだろね?
よく分からん人達だと思った。
結局二人は、魔力を込める事が出来ずに終わったわ。
凄い不本意って顔してたけど、種も仕掛けも無いから、こればっかしは実力でなんとかして下さいとしか言えない(笑)
ついでになってしまったが、王女様の手術の日取りが決まったよ。
学校を休みたくないって言うから、次のお休みの日に行う事にした。
最近では毎日お友達と遊んでるからね。
食欲も出たし、元気も出たし何時でも良かったんだけど、本人の希望が一番大事。
そしてこの日の夕方から護衛だけでなく、何故か王弟と待ち伏せまで、訓練に参加したんだって!
マルコに、ボッコボコにされてたみたいだけど…
文句も言わずに、ちゃんとお母様の指導を受けてたって聞いた。
何故お母様かって?
それはね、女性初のソードマスターなのだよ!
どうだ、凄いでしょう。フフン(ドヤ顔)
前に四人師匠がいるって話をしたよね?
呪術はお爺様、医術はルーク叔父様、薬術はミラ伯母様。
そして、剣術の師匠がお母様なのだ!
残念ながら、魔術の師匠はいない。
生きる為に必要だったから覚えたんだけど、強いて言うならお父様が師匠になるのかな?
とっても頼りなさそうに見えるでしょう?実際流され易いし…
でもね、この領地だけじゃなくってお爺様の所でも、お父様程凄い魔術師って会った事が無いんだ。
お母様が押しかけ女房になる位だから、ちゃんと釣り合うだけの実力者なんだよ。
そんな凄い二人から産まれた私は、両方の苦手を受け継いでしまった訳です。
それでも好きこそ物の上手なれってやつで、女性最年少ソードマスターの座を狙ってるのだ。
ちゃんとポチの中で、訓練してるんだよ。
マルコはね、気付いてると思うけど、二人の良いとこ取り!
お爺様が言ってたの「わしに引導を渡すのは、マルコだ」って。
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