第11話 王女様とお茶会

 屋敷に着いたら、既にお茶会の準備は整ってた。

 皆頑張ってくれたみたい、子供らしい装飾が施されてる。

 「姉様、クレアちゃん、待ってたの」

 マルコ達が出迎えてくれた。

 「「「お帰りなさい」」」

 「「ただいま~」」

 「遅くなってごめんね」

 私達は、待っててくれた子供たちに謝ってから、準備ありがとねって褒めてあげた。

 皆喜んでて、早く王女様に会いたがってる。

 「僕リーシャを、お迎えしてくるね」

 マルコは、走って温室を出てった。


 魔物の件については、魔晶石と一緒に簡単な報告書を執事に渡した。

 お父様の手に渡ってると思うから、お茶会が終わったら、真っ直ぐ執務室に行かなくちゃ。

 いろいろ気になる事もあるけど、お茶会楽しまなきゃね!

 そんな事を考えてたら、王女様が来たよ。

 顔色も良いし、一時間くらいなら問題なさそうね。

 王女様を見つけた子供達が、走り寄ってった。

 マルコが自慢気に紹介してる。

 「リーシャってお名前なの。僕のお姫様だよ」フフン(ドヤ顔)

 「お姫様!名前も素敵~」

 「すげ~本物のお姫様?」

 「私もお姫様になる~」

 女の子は憧れの視線を向け、男の子は驚きの視線を向けてた。

 うちの領地に王族なんて来ないし、皆、顔も知らんでしょう。

 私も知らんかったけど…

 一気に王女様は、人気者になったよ。


 今ここに居る子供達は、マルコの同級生。

 じゃんけんで勝ち残った、3人なんだって。

 和気藹々としてたら、血相を変えたうざ王子が入って来た。

 お前は呼んでないしって思ったけど、子供って目敏いんだよね~

 「え?嘘、王子様?」

 「王子さま~」

 「かっけ~」

 「る~いって言うの、お姫様の兄様だよ」フフン(ドヤ顔)

 へ~マルコと、うざ王子って仲良しなんだ…

 「ねぇ…」

 「なに?クレア」

 「兄妹似てるね」

 「確かに…」

 私達が不敵な笑みを浮かべてた事を、笑顔が素敵な王子様には、知る由もない。



 時間は遡り、お茶会が始まる少し前、オルテンシア伯爵邸・王弟の執務室

 王都へ定期報告の為、通信用魔道具で国王との面会をしていた。

 王弟の執務室には、ルイフォードも居る。

 本来の目的であったリーテンの花を、リシャーナに見せる事が出来た為、岐路日程を決める筈だった。

 しかし、王弟妃であるルミアがそれを拒んだのだ。

 理由はひとつ、娘を救えるかもしれないと言う、淡い期待を抱いた為である。

 確かに昨夜の事は、王弟自身も見ていた。

 宮仕え達も、王弟妃側に付いている。

 だが、王弟はどうしても信用出来なかったのだ。

 何故ならリシャーナの身体にある物が何なのか、何故あの様な身体になってしまったのかを、彼は知っていたからだ。

 どんなに優秀な医術師だったとしても、あれを取り除く事は不可能。

 いや、取り除いてはならない。

 国と、娘の命を天秤に掛けた事を知っているのは、国王を含む限られた者達だけだった。

 北へ向かう迄の旅路を、王弟は一人で苦しみを抱えていたのだ。

 カルティアは何も知らない。

 痛ましい王女を救う為、形成手術を行うだろう。

 だが、必ず失敗する。

 最悪の場合、リシャーナが、二度と目覚めなくなるだろう事も。

 そんな、誰も幸せにはなれない未来を、望む者はいない。

 このまま王都へ戻った方が、カルティアの為でもあると、王弟は考えていたのだ。

 だがしかし国王が、オルテンシア伯爵領へ滞在する事を、望んだのだ。

 リシャーナの中にある物が何なのか、どれ程危険な物なのかを知っている、誰よりも王弟の心痛を理解していた実兄がだ。

 王弟は、戸惑いを隠せずにいた。

 「このままでは、国が亡ぶやも知れぬぞ、兄上」

 息子が隣に居る事も忘れ、言葉にしてから後悔しても遅かった。

 「カルティアを、信じなさい」

 国王は、何時も二人だけの時に見せる優しい眼差しで、弟を見つめていた。

 王弟は暫し無言を貫く。

 ルイフォードは、父親が漏らした言葉の意味を、理解出来ずにいる。

 執務室に何処か気まずい空気が流れた時、リシャーナ付きの宮仕えが急を告げた。

 マルコが迎えに来て、子供達が開いた茶会に連れ出した、と…

 二人は、全身から血の気が引くのを感じた。


 ルイフォードは国王に退出の許可を取り、急いで茶会が開かれている温室へと向かった。

 そこで視界に飛び込んで来たのは、失神している子供でも無く、泣叫ぶ子供でも無い。

 全身包帯だらけの妹を取り囲み、はしゃいでいる子供。

 お世話をしたくて、マルコと取り合いをしている子供。

 物言わぬ妹に、語り掛け続けている子供の姿だった。

 そこにはリシャーナを、一人の女の子として接している者しか、いなかったのだ。

 久しく忘れていた感情が、心を支配する。

 気が付けば、呼ばれてもいない茶会の席へと、踏み込んでいた。

 そんなルイフォードを咎める者も、ここにはいない。

 皆、歓迎してくれたのだ。

 これ程心が温まる茶会がある事を、この時まで知らなかった。


 何時しか温室の前には、王弟夫妻の姿もあった。

 楽し気な子供たちの茶会を、遠くからひっそりと、眺めていたのだ。

 決して華やかでは無い、着飾っている者もいない。

 たった数人だけの茶会は、王弟一家の心に忘れられない心温まる思い出として、残り続けるのであった。


 楽しい時間は、あっという間に過ぎて行く。

 カルティアが茶会の終わりを告げると、子供達は揃って見送ってくれる。

 「またね」と、次に会う約束を取り付けるかのように、手を振った。

 リシャーナは、後ろ髪を惹かれる思いで、温室を後にする。

 ここには、自分を蔑む者はいないのか?

 何故誰もが、この姿を見て平気でいられるのか?

 気になる事は沢山あったが一番嬉しく感じた事は、王族としてではなく、一個人として見てくれた事だった。

 昨日来たばかりとは思えぬ程、居心地の良い場所になっていたのだ。


 

 オルテンシア伯爵執務室


 私はお茶会が終わったから魔物の報告に来たんだけど、お父様はずっと眉間を押さえて考え込んでる。

 「もしかして寝てる?お父様、起きて」

 「起きてるよ」

 フフフって笑ったけど、目が座ってる…

 そうだよね、魔物の集団行動なんて聞いた事無いもん。

 「モンステルの森で何が起きてるのかな?なんかね、変な気配を感じるの」

 「例えば、どんな感じなのかな?」

 「え~???どんなって言われてもなぁ…なんかこう…覗かれてる感じ?」

 上手く表現出来ない。

 そもそも覗かれてるって、どんな感じなのかすら分からん。

 「それはまた…難しいね」

 ほらね、お父様も分からんでしょ。

 「ねぇ、お母様は何処?」

 二人で悩んでても分からないから、お母様に聞いてみようかと思ったんだけど。

 「ああ、お義父様の所へ行ったよ。呼び戻すかい?」

 「お爺様の所で何してるの?迷惑にならないかな」

 「ならないと思うよ。気になるなら、メッセージでも飛ばしてみるかい?」

 お父様はそう言って、引き出しから術式が刻まれた、便箋と封筒を取り出した。

 私は魔物の事や変な視線の事、明日の午前中に、お爺様に会いたい事をしたためた。

 封筒に宛名を書き魔力を込めると、一瞬で消える。

 これ発明した人天才!


 お父様の執務を手伝いながら待ってたら、ピーちゃんの声がした。

 ピーちゃんとは、お母様の愛鳥?で、乗り物ドラゴンでもある。

 お母様が幼かった頃にお爺様の乗り物ドラゴンを、欲しがった。

 それが余りにもしつこく、仕事にならないから「自分で見つけなさい」って言ったら、その日の内に「小鳥さん見つけた~」と…

 尻尾を引き摺り連れて来たのが、ドラゴンだった事は、辺境伯領で有名な話だ。

 お母様は神獣を仔犬だと思い、ポチって名前を付けた位だ、本気でドラゴンを小鳥だと思ってるのかもしんない。

 お爺様の、ドラゴンの事は、ちゅん太郎って名前を付けてるし…

 いや、可愛いから気持ちは分かるけどチュンチュンとも、ピーピーとも鳴かんだろ。

 割と本気で、ネーミングセンスどうにかならんのか?って思う。


 お母様が開口一番、信じられないって顔をしながら、聞いて来た。

 「マーカスが、苦戦したって?」

 マーカスさんは火魔術の使い手で、魔物相手に苦戦するような人じゃないからね。

 手紙読んで、急いで帰って来てくれたんだ、嬉しい。

 「そうなの、お母様!聞きたい事が沢山あるの」

 私は魔物の事や、気になる視線の事も、身振り手振りで話したよ。

 うんうんて、相槌しながら聞いてくれた。

 実はお母様も変な視線を感じてたらしくて、お爺様の所に行って来たんだって。

 「お爺様はなんて?」

 「今は言えないが、警戒は怠るなと言ってた。それと明日の事だが、ルークの治療院で待ってると言ってたぞ」

 「やっぱ国絡みか~」

 「かもな…」

 お母様は、進展があったら教えると約束してくれた。

 「茶会はどうだった?楽しんで貰えたか」

 「うん!途中から、うざ王子も参加してた。それでね、明日の検査で問題なければ学校へ行かせたいの、だめかな?」

 「「学校?」」

 お父様と、お母様の声が珍しく重なったわ。

 私は、声を取り戻すにはもう少し自信が必要な事、その為に沢山の友達が必要だと思ってる事なんかを伝えた。


 「魔物の件も視線の件も保留だからな…マルコが一緒なら大丈夫だと思うが、警戒しろと父様が言ってたし…」

 お母様が心配するのも無理ないか、でも諦めたくないな。

 「王弟殿下に相談してみるかい?マルコと一緒に、ティアが付き添ってあげるのはどうかな?クレアでも良いと思うけど」

 面倒臭がりのお父様が、王弟と話し合ってくれるの?

 ルーク叔父様は、お茶を淹れてくれたし、明日は嵐でも来るのか?

 「ルディも、ティアが一緒なら問題ないよね」

 「そうだな…それならクレアの方が適任じゃないか?ティアは、私に似て、魔術得意じゃないだろ」

 「そんな申し訳なさそうな顔しないで、私はお母様の子で心から良かったって思ってるよ」

 その後、お父様が王弟と話し合ったみたいだけど、意外とあっさり事は進んだって。

 付き添いは、クレアが快諾してくれた。



 夕食後…私は自室でポチを抱きしめながら、くそ王子の事を思い出してた。

 「やっぱむかつくわ~王弟が許可したんだから、学校行かせてもいいじゃん。文句言わなきゃ、生きてけない病にでもかかってんの?」

 そんな病知らんけど…

 「茶会の時は、気持ち悪い位笑顔振り撒いてたのに、二重人格なの?」

 そもそも何しに来たのよ、薬草畑見に行くでもないし。

 「ほんと、何しに来たんだろ?さっさと帰ればいいのに」

 いや待て、駄目だ、今帰られたら困るわ!

 「左目、なんて言えばくれるかな?何言っても文句言われるか。寝込みでも襲う?バレたら即行で城門行きだな…」

 考えるだけ無駄か…


 「当たって砕けて来るか~」って事で、キラキラスマイル・くそ王子様へ、会いに来た。

 部屋の前まで転移して、扉をノックしたら護衛が慌ててた。

 「お、オルテンシア伯爵令嬢が、お越しになりました」

 「何その報告、来ちゃまずかった?」

 「え?」

 護衛がキョトンとしてる、私もキョトンとした。

 扉が開いて侍女さんがどうぞって言ってくれたから入ったけど、目の前のソファーでふんぞり返って私を見てる。

 不信感凄いよ、そんな睨まなくても用事が済んだら帰るってば!

 お茶を出そうとしたので、すかさずお断りした。

 「王女様の欠損した左目作りたいので、くそ…王子様の左目半分下さい。ポーションここ置きます」

 私は目玉を入れる容器と、上級ポーションをテーブルの上に置いた。

 自己責任で頼むスタイルだ!

 これなら、城門行きにはならんだろ。

 我ながら名案だと、思ったんだけど…

 なんで?空気が、変わった気がする。

 王子は私を不審者から、不思議な物体でも見てる様な表情になってた。


 暫く待ったが、ピクリとも動かないぞ~

 確かに痛いけど、一瞬だしそこまで悩むか?

 それとも通じなかったかな。

 面倒臭いけど、もっかい言うか。

 「王弟夫妻には頼み難いので、同じ血を分けた兄妹なら、遺伝情報貰えるかなって思ったんです。可愛い妹の為と思って、さっさと左の目玉半分ください」

 「君は…君は本気なのか? 本気でリーシャを治せると、そう思っているのか?」

 今度は疑惑の目だよ。

 「遊びでこんな所まで来る程、暇人じゃないです。目玉ください、自分で出来ないなら、私が切り取ってもいいです。許可下さい」

 なんか何時もと様子が違うから、調子狂っちゃう。


 「分かった」

 くそ王子は低い声で、了承したかと思ったら、深呼吸して…

 「え?」

 私は予想外の行動に、動揺してしまった。

 こいつ、自分で左目を、全部抜き取ったよ!

 慌てて側に駆け寄って、腕を押さえ確認した。

 間一髪、視神経繋がってた~

 全部切れちゃってたら、手遅れになってたよ!

 沸々と、怒りが湧いて来る。

 「何やってんの、隻眼になりたいのか、ボケッ!!」

 「ひ・ひだ…り……目が…っ…欲しいと…クッ」

 「半分って言った、全部抉り取れとは言ってない!人の話ちゃんと聞きなさいよ、ボケッ!」

 私は目玉を半分切り取って、顔面にポーションぶち撒けてやったよ。


 左目が再生したのを確認してから、部屋を出て来た。

 そこはね、一応医術師だからさ、嫌な奴でも放置はしない。

 廊下を歩きながら、切り取った目玉を容器に入れた。

 「よっしゃー!」

 なんだか嬉しくなっちゃったので、クレアの部屋まで来たよ。

 「クレア~居る?」

 「ここ~」

 奥にある書庫で勉強中だったみたい。

 半分目玉を見せたら、驚いてた。フフン(ドヤ顔)

 「凄っ!」

 私がさっきの出来事を話したら、余計に驚いてた。

 「王子バカなの?」

 クレアもそう思った?

 私もそう思うよ、自分から隻眼になるなんてね~

 「半分目玉ちゃん、半分こしよう♪」

 「無理」

 「なんで?」

 クレアなら喜んで、実験材料にすると思ったんだけど。

 「ポーションで再生…しないよね?」

 「しないね…」

 何時ものクレアじゃない、何故当たり前の事を聞くの?

 再生出来たら、クローンが大量に生産されてしまう、考えただけで恐ろしい!

 そう…恐ろしいの…だ…?

 「ティアに任せる」

 私に一任するって事か、なるほど、他にやりたい事があるのね。

 「分かった!」

 私は自室に戻って来た。

 大量生産?

 何かがひっかかったけど、まぁいいや。

 私が勘違い王子の部屋を出てった後、宮仕え達が阿鼻叫喚となってた事は、知らない。

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