第9話 最悪な出会い
私達は、リビングに移動して話を再開させた。
腹の探り合いをする気は無い。
「正直に答えて下さい。私達は王女様が、虐待を受けてると思ってます。事実なら、医術師として見過ごす訳にはいきません」
憤慨したのは、意外な事にお妃様だった。
「なんて事を言うの、あの娘は私達の宝です!虐待だなんて…そんな惨い事を、する訳がありません」
「何故虐待していると思ったのか、理由を聞かせなさい」
今度は王弟が問いかけて来た、案外冷静な人なのかな?
「何故放置してるんですか?あの程度のケロイド、宮仕えなら簡単に治せたと思います」
「あの程度?」
王弟が眉間に皺をよせた。
「偶にいるんですよ。看病してる自分に酔いしれ、完治させずに大切な人を傷つける、
「それは、どう言う…」
「誰が奇矯だ!私達が今まで何の努力もせずに、リーシャが苦しんでいるのを、傍観していたとでも言いたいのか」
うっわ、この王子、王弟の言葉無視して横やり入れて来たよ。
「傍観も何も、事実でしょう?治せる物も治さず、放置してるんですから」
「知った口を聞くな!帝国の聖女だって、癒せなかったのだぞ」
「へ~、やっぱ聖女様が癒せなかったって噂は、事実なんだ」
王子はハッとして、一瞬気まずそうな顔をした。
勢い余って噂が真実だってばらすとか…だっさ!
冷静さを取り戻したのか、俯いちゃったわ。
「宮仕え達だって、真骨注いでリーシャの治療に当たって来たのだ。私だけならともかく、忠誠を誓った彼らを、愚弄して欲しくない」
「ほんとに忠誠誓ってんですか?私には真骨注いで、怠慢してるようにしか、見えないんですけど」
「まだ言うか!たかが初級資格を取った位で、知ったような事を、口を慎め」
「たかがって何?こっちだって真剣なんですけど!目の前に救える患者がいたら、ほっとける訳ないでしょうが」
「お待ちなさい、今救えると…」
「いい加減な事を言うな!リーシャを引き合いに出してまで、私の気を惹きたいのか」
お妃様の言葉迄遮って、王子はドンっと両拳をダイニングテーブルに叩き付け、かち割った。
お茶を出してたから、テーブルの上のティーセットが滑り落ち、見事に全部割れたよ。
ずっと我慢してたのに、私の怒りが沸点を超えた、許せない!
「あんたね~何、破壊してんのよ!そのテーブルも、ティーセットも、ご先祖様が大事にしてた奴なんだよ。せっかく淹れてくれたお茶まで零して、自分が何したか、分かってんのかボケッ! 人ん家に侍女だの、護衛だのってゾロゾロ連れて来てでっかい顔してっけどさ、どんだけお金使わせる気なのよ。こちとら金の生る木持ってる暇人じゃないんだ、いい加減にしろっ!」
「はっ!とうとう本性を出したか。お前の浪費に比べたら、この程度の損害等、痛くも痒くもないだろっ」
「何言ってんだよ、くそ王子!そりゃあんた達から見たら小銭程度かもしんないけどね、こちとらその小銭稼ぐのだって、必死なんだよ」
「まるで自分が稼ぎ頭みたいな口の利き方じゃないか、僕が何も知らないとでも、思っていたか?それとも、辺境伯が付いていると思っての狼藉か」
「なんでお爺様が出て来るのよ、関係ないでしょう」
「関係ないだと?態々リッデルに迄頼み込んで、学園へ通えるようにして貰っただろう」
「それこそ、あんたと何の関係も無いでしょーが」
「大ありだろう!卒業まで大人しくしていれば、黙って娶ってやったのに。僕へ会いたいが為に待ち切れず、学園迄押しかけよう等。学び場は、お前の遊び場ではないのだぞ」
「さっきから、何訳の分からない事言ってんの?何で私があんたに会う為に、学校行く事になってんだよ、頭湧いてんじゃないの」
「お前こそいい加減にしろ!身寄りの無い従姉妹を、奴隷代わりにこき使うなど鬼畜にも劣る蛮行、恥を知れ」
「誰が奴隷だって!」
も~う我慢ならない、腕の一本でも落とさないと、気が済まない!
マジックボックスから、愛刀を出そうとした私の腕を掴んだのは、お母様だった。
「そこまで!」
気が付けば、王弟夫妻も能面みたいな笑顔を張り付けて、固まってた。
お父様まで固まってる。
「ティア…超えちゃいけない一線と言う物を理解しなさい。一族揃って城門に首を捧げるつもりか?」
「やり過ぎました、ごめんなさい…」
お母様に言われて、急激に頭が冷えた。
ここは素直に謝るしかない…悔しいけど、正論だわ。
「王子、私達の耳にも王都での悪評は届いてる。それを確かめもせず間に受けて、娘達を愚弄するのは止めて頂きたい」
「それは…感情を押さえられなかった、未熟さ故の失態、以後気を付けよう」
「へ~ばかだと思ってたけど、ちゃんと反省出来るんだ」
くそ王子は私の目を見て話しかけて来た。
「私は学園を卒業したら、必ず迎えに来る。カルティア以外を妃にする気は、一切無い。不安だと言うのなら、今この場で正式な婚約を結び、婚姻の日取りを決めても良い」
「何処のカルティアさんの話だよ。あんたの婚姻なんて、殊更興味無いから、勝手にどうぞ」
何よ、驚いた顔して、うざっ。
「王子、仮婚約の事を、ティアは知らない。話してないからな」
「え、お母様?仮婚約って何」
「あ~…ははっ」
笑って胡麻化した!
「「話して無いのか?」」
固まってた王弟が復活して、うざ王子と声が重なった。
「ねぇ…」
クレアが深刻な顔をしてる。
「身寄りの無い奴隷って、誰の事?」
えっ???クレアの事だよね?
常に一緒にいる従姉妹って他にいないじゃん、侮辱されたと思ったんだけど違った?
「ティアと何時も一緒にいるの私だけど… 身寄りあるし… こき使われてないし… 誰の事言ってんの?」
珍しくクレアが饒舌だ!
これは…うざ王子への抗議だ、変な言い掛かり付けるなって事かな?
分かり難いよクレアさん…
「それは、きちんと確認もせず言葉が過ぎた…」
うざ王子がしどろもどろになってる、クレアの怒気にやられてやんの(笑)
「カルティア、リーシャを助ける事が出来るの?あの娘を救う手立てを、貴方は持っているの?教えて頂戴、あの娘は助かるの?」
いきなり両手握られたからビックリしたよ、お妃様が縋るような目で見つめて来る。
クレアをチラッと見たけど、しかめっ面で頷いてるから、何かあるんだろな。
「体内は…詳しく確認してないので分かりませんが、頭部だけなら気になる事もありますけど、直ぐにでも綺麗にしてあげたいと思ってます」
そう、左目がねぇ、無かった場合は義眼使えばいっかな?
「ぐえっ」
思案してたらお妃様に抱き締められたよ、食堂でも思ったけど、この人見た目に寄らず怪力じゃね?
苦しんだけど!!!
「貴方は女神だわ!」
女神じゃなくて亡霊になりそうです、離して欲しい。
「ルミア、離れなさい」
王弟が助けてくれなかったら、窒息してたかも!
見た目詐欺、恐るべし…
「カルティアよ、その言葉に嘘偽りは無いのか?私達は何度も失望して来た。戯言に付き合える程、寛容にはなれんぞ」
王弟からの期待なんていらないんだわ。
「ねぇ…」
「何?クレア」
「カルテ見たい」
「そだね、今迄何してたのか、気になるよね」
「聞いているのか?子供の遊びに…」
「カルテね、カルテが見たいのね、他には何が必要かしら」
王弟の言葉をぶった切って、お妃様が身を乗り出して来た。
面倒臭い奴ら相手にするより、ずっと話し易いな。
「出来れば明日の朝、体内の状態を確認させて欲しいです。それと、主治医からも話を聞きたいです」
「分かったわ、明日の朝ね。主治医は、今連れて来るわね」
「待って下さい、こちらから伺ます。その時に、カルテを見せて欲しいです」
「そうね、そうしましょう、付いてらっしゃい」
王妃様は、私達を逃がすまいとしてるかのように見える。
足早で、医術師達が滞在してる部屋の前までやって来た。
そして、当然の様に王弟も、王子も付いて来た。
突然の訪問に、驚く宮仕え達。
テーブルにはカルテが広げてあって、王女様の今後を話し合っていたようだ。
お妃様から話を聞いた彼らは訝しそうに私達を見たけど、ちゃんと説明はしてくれた。
ちょっとここで、以前話してた初級では何故駄目なのか、説明を挟もう。
医術師や、薬術師にも階級がある。
初級から始まり中級・上級と来て、最高峰は特級と呼ばれる。
初級は何処の領地でも、資格取得の為の試験を受ける事が出来るし、実績は関係無い。
師匠に就いて、教えを請えば良いのだ。
その変わり、資格証明書を発行した領地でしか、術師として認められない。
他領で医療行為を行ったり、独自に開発した薬剤を持ち出す事は、禁じられてる。
つまり領地外に出たければ中級以上の試験を受け、医術師若しくは薬術師としての免許を、国から取得しなければならないのだ。
当然だが実績も必要になる。
人の命を預かるのだから当然と言えば、そうなのかもしんないけど?
やはり、王立学園の卒業生じゃなくてもよくない?って気持ちは拭えない。
だって私達は領地から出たいんじゃなくて、自分達の技術を、お爺様の領地で活かしたいだけなんだもの。
親戚なんだから、その辺大目に見てくれても良さそうなもんだけど、世の中そう甘くはないって事なのよ。
ここで嘆いてても仕方ない、本題に戻ろう。
今、目の前に居る偉そうな医術師と、薬術師の階級は特級だ。
つまり、何処へ行っても医療行為が許されてる術師の中で、最高峰って言われてる人達なんだよ。
なのにだ、このカルテふざけてんの?
聖女様が癒せなかったので手術しました、それは分かる。
ケロイドが成長するので、手術続行は困難て、まぁ何かあったんだろね?
予期せぬ事なんて、無いとは言い切れないし、一旦中止して立て直すのも、アリだろうけど…
問題は、その後の治療についてだ。
ケロイドの成長って何?
そこ放置してどうすんだよ!
何故魔力暴走にばっか、拘ってんの?
症状全然違うじゃん、根本正さなきゃ悪化するの当たり前でしょ。
ほんとに宮殿お抱えの、医術師なの?
基礎からやり直したらって、レベルだよこれ。
私はクレアの意見が聞きたくて横を見たけど、目を見開いて固まってるよ。
絶句してて、声も出せないんだね、分かるよ~
クレアが何の質問もしないって事は、こいつらアホだって、思ってる証拠だわ。
こんなのに診て貰ってたんなら、あの状態になるのも頷ける。
とんだ穀潰しだよ、一体今迄、何を学んだんだ?
私は呆れ果ててしまったので、お妃様にお願いをしてみる事にした。
「王女様が滞在中の間だけ、主治医の座を私とクレアに任せて欲しいです」
「分かりました。あの娘を助けてくれるのなら、何でも相談なさい。私に出来る事があるのなら、協力は惜しみません」
意外にあっさりだな、もっとひと悶着あると覚悟してたんだけど。
「お待ちください妃殿下、この者達はまだ幼い…」
「黙りなさい」
宮仕え達も、一蹴か…
付いて来た割に、一言も発さない王弟と王子は、眉間に皺を寄せてるだけだった…
お妃様って最強かも?
取り合えず話は付けた、これで心置きなく治療に専念出来る。
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