第3話 ポチと私
ある日の午後
「旦那様、王都から二通の手紙が届きました」
父様の執務を手伝ってたら、執事が手紙を持って来た。
「こんな時期にお呼び出しって、何か悪い事でもしたの?」
「呼び出しではないけれど…なんだろね?『王弟一家を頼む』としか、書いてないんだよ」
不思議そうに手紙を光に透かしたり、水の魔術で濡らしてみたり、何かの暗号なのかと頭を悩ませてる。
「もう一通は、なんて書いてるの?」
「王弟殿下が視察にいらっしゃるって、ご家族と一緒に」
手紙をじっくりと読みながら、教えてくれた。
「えっ!王弟って王様の弟だよね、家族連れでこんな北の、ド田舎に来るの?なんで~」
「なんだろ…ね?薬草畑でも、見に来るんじゃないのかな」
「ふ~ん…」
ホントかな?
他に何かあるんじゃないのって、思っちゃう。
自慢じゃないが、オルテンシア家は貧乏貴族だ。
私達に自覚は無かったけど、王都では有名だと誰かが教えてくれた。
実際王立学園の、授業料の高さに目玉飛び出たからね。
だから王族のおもてなしなんて、期待しないで欲しいわ。
王弟一人ならともかく、ここは家族連れで来るような所じゃない。
建国当初は、それなりに領地が点在してて、お互い切磋琢磨しながら開拓してたらしいけど…
観光業は成り立たず、鉱山も無ければ、金山も無い。
魔物に襲われ領民だけでなく領主まで逃げ出すわ、領地運営が立ち行かなくなり没落するわで数が減り、無理でしたって国に返還出来たら御の字だったらしい。
そんな領地に後継者なんて見つかる筈も無く、幾つかはうちに統合してたけど、もう手一杯だってご先祖様が拒絶した。
放置された領地は荒れ果てて、これは問題だと頭を悩ませた当時の王様が、北の辺境伯領に問答無用で押し付けた。
だけど、領地が広がったって人がいなけりゃ話にならず…
国境問題あるから、開拓なんてやんないよってなったのは言うまでもない。
で、気が付いたらオルテンシア伯爵領は、魔物の巣くう森にぐるっと囲まれてた。
地図には北の辺境伯領の中の南西寄りに、ポツンと取り残された小さな領地として描かれてる。
そんな所に、態々モンステルの森を抜けて入って来る様な変わり者はいないから、 つい最近までは誰も来ない陸の孤島だったらしい。
母様が嫁いで来た時に、爺様がお互いの領地をポータルで繋いだから、今は自由に 行き来出来るようになってるけど…
こっちから、あっちに行く人は、あんま居ない。
逆にあっちからは、重傷患者がよく運ばれて来るようになった。
うちの医術師は腕が良いし、薬術師が作るポーションも評判が良いのだ。
私も初級医術師と、初級薬術師の資格を取ったから、その腕の中に入ってる。
クレアも初級医術師の資格を持ってるから、同じ腕なのだ。フフン(ドヤ顔)
話反れたけど、結局家族連れで何しに来るのかは、分からなかった。
私はクレアを連れて【医術・薬術研究所】に来たよ。
ここはオルテンシア領に住んでる、医術師や薬術師が研究成果を持ち寄ったり、行き詰って知恵を借りたいって時に来る施設だ。
当然だけど、蔵書数も図書館と比べ物にならない位豊富だから、お勉強したいって人もやって来る。
ここに常駐して、医術や薬術の研究をしてる人も居る。
つまり、これから資格取りたいよって人から、ベテランの術師まで幅広い世代が集う場所なんだけど…
領民皆仲良く引き籠りな訳で、初級止まりなんだよね~
誰か一人位、外の世界を見てみたいって思う奴はいなかったんかって思う。
何故初級じゃダメなのかは、機会があったら説明するね。
そんな私がここに来た理由は、寄贈した本を読み返したくなったのよ。
クレアは医術師一択なんだけど、私は二束のわらじを履いてる。
どちらかと言うと、薬術師よりの医術師なのだ。
それで薬剤の研究をしてたんだけど、偶然新種の雑草を作ってしまったかもしれないの。
一応、いろんな人に聞いて回ったんだけど…
誰も見た事無いって言われちゃったから、これがホントに新種なのかを確かめたくて、蔵書を漁ってる。
「クレア~見つかった?似た様なのとかもあったかな」
「無い。これ最後の一冊」
「蔵書にも載って無いって事は、私が開発者の可能性大だよね。発表出来ないのがもどかしい~ホントに誰も知らんのか」
「おっさんなら知ってそう」
「確かに…最近見ないから忘れてたわ、おっさん元気にしてるかな?何時も持って来てくれるお土産、美味しんだよね」
「うん。あのお菓子好き」
「なんか、お菓子の話してたらお腹空いた。帰ろっか」
「帰ろう」
おっさんはね、物心付いた時には知ってた人なんだけど、何者かは知らない。
何時もお友達と一緒に来て、ポチの事なでくりまわしたら、満足して帰っちゃう。
ちっちゃい頃は、よく遊んで貰ってたなぁ…
凄い物知りだから、どっかの商人だと思ってる。
きっと自称行方不明の伯父様と同じく、世界中を旅して周ってんだよ、間違いない。
雑草の事も、クレアの言う通り、おっさんなら知ってそうだ。
ポチとは何かって?
多分神獣?
疑問形なのは、誰も知らなかったから。
野生動物や魔獣、魔物にはそれぞれ気配があって、害意を向けられない限り気にならない物なの。
それなのに、ある日突然母様が不思議な気配を感じて、なんだろって思ってたら身籠ってたんだって。
ずっと気配だけで姿は見えなかったんだけど、私が産まれる一月位前に、気付いたら膝の上で丸くなって寝てたらしい。
そんで可愛いなぁって思って、ポチって名前付けったって母様が言ってた。
見た目は、小さな仔犬。
長くピンっと伸びた三角形の耳に、体と同じ位の長さがある尻尾。
長毛だけど顔と脚先だけは短毛で、全体的に白いけど脚先は紫。
耳の先端は紫なんだけど、徐々に薄くなってって、付け根は薄紫になってる。
尻尾も同じ感じで先端が紫なんだけど、段々薄くなってって真ん中位で白に馴染んでる。
目は瑠璃色で長いまつ毛迄瑠璃色だから、見てるだけでも目の保養になる位、綺麗な生き物。
なのに手触りまでが滑らかで、凄く気持ち良いの。
ポチを初めて見た時は、国に届を出したんだって、新種かもしんないからね。
したっけ王様が見たいって言うから、爺様が連れてこうとしたんだけど、母様からある程度離れると飛んで戻っちゃう。
今度は檻に入れて連れてこうとしたけど、転移で戻っちゃう。
だから魔力封じの首輪を付けようとしたら、爺様から一定の距離を置き、いたちごっこになったらしい。
あの爺様が捕まえられなかったんだから、ポチの能力って計り知れないよね。
そこで母様が王都に行こうとしたら、産気づいちゃった。
私が産まれてからは、言わずもがな私にべったりである。
流石に新生児を王都に連れてくのは忍びないからって、王様が自ら見に来たって言うから驚きだよ。
そしてポチに一目惚れ。
宮殿で飼育したいからって、王国一のテイマーを連れて来たんだけど、返り討ちにあった。
普通ならテイムに失敗すると、逆に襲われて最悪命取りになっちゃう。
でもポチは、襲わずに魔力を全部、吸い取ったんだって。
そんな感じで、いろいろあった結果、分かった事がある。
ポチって普段は小さいんだけど、巨大化する事も出来た。
魔力は仔犬の時は微弱な風属性だけど、空飛んだり、転移したりは自由自在。
魔力を閉じ込めちゃう様な、マジックボックスもある。
最大級に巨大化したら、ドラゴンなんて雛鳥って思える程、強烈な魔力持ちだった。
ドラゴンを服従させるなんて、相当の実力者じゃなきゃ無理だもの。
それ以上の力を持ってるポチをテイムしようとしたら、そりゃ失敗するわ。
あと人乗せても自在に空飛べる。
人数制限あるのか確かめてないけど、一緒に転移も出来ちゃうよ。
非常に強力な魔力持ちだけど、危険性は無いって事で、今は私の従魔として国に登録されてる。
だけどね、それだけじゃなかった。
なんとなくポチと、私って繋がってる気がしてたの。
私は土属性だから、本来なら風属性の魔術は使えないんだよ。
でもね、魔術の訓練する前から空飛べたし、転移も出来た。
スキルである、マジックボックスにも底が見えなかったの。
そんで、六歳位だったかな?
爺様の領地へ遊びに行った時、何処までマジックボックスに入るかなって興味本位でやったらね、北の永久凍土をまるっと閉じ込めっちゃった!
慌てて戻したけど、しっかり爺様に見られてたよ。
あの時の、顔は今でも覚えてる。
そりゃビックリするよね、永久凍土は最果てが無いって言われてるんだもの。
実際無かったよ、ブリザードが永遠に続いてただけ。
で、父様達と話し合った結果、こりゃ他言無用だって事になった。
マジックボックスの中身なんて本人以外分かんないんだから、察しの良い人なら分かると思うけど、悪用されたらかなり危険なスキルなんだわ。
だから爺様に口封じの呪術で、私のスキルは誰にも話せないし、悟らせるような事も出来なくしてもらった。
スキル封じも考えたんだけど、突然持ってたスキルが使えなくなったら、なにやらかしたのって逆に怪しまれちゃうからね。
ただ呪術って、術者に何かあったら解けちゃうの。
だから私も自分で、自分にかけられるよう、爺様から呪術を習う事にしたのだ。
ホント厄介な娘で申し訳なくなると同時に、スキルを悪用しないって信じてくれた事に、感謝でいっぱいになったよ。
そんな感じで私の秘密はまだあるけど、今日はここまでにしとく。
あ、因みにだけど、クレアのスキルは千里眼だよ。
魔術と違って千差万別だし、国に報告する義務が無いから隠す人も多いんだよ、私みたいに…
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