能力披露

「動くな。回復結界を作る」

 ぴったりとしたニットのワンピースで、なんと顔どころか首まで髪で隠した女?が命じてきた――

 のと同時に投げられたナイフは、全て地面へと刺さり、なんと七芒星を形作った!

 嘘じゃない! 補助線とばかり電流めいたので魔法陣も描かれたし!

 その女?はシンメトリー強迫でも患ってるのか、三六〇度、どこからみてもヒョロっと同じそうで……まるでボウリングのピンが擬人化したかのようだ。

 念の為に名前を確認してみれば『名前:アンダイン』で『所属:目覚めさせる者たちエゲイルタイ』とある。……まあ護衛の一人や二人、連れ歩くか。

 さらにアンダインは中空イベントリ・ウィンドウから石突?を引っ張り出す。

「どうぞ、盟主クラマス

「……借りるぞ、アンダイン」

 応えてルシェフが武器らしきものを引っ張り出すも――

 見紛うことなく死神の大鎌命を刈り取る形をしていた。……凝らさずとも、忌々しいオーラが見えるし。

 おそらく『個別名称を持つネームド』等級だろうし、このイベントの抜け穴も理解できてしまった。

 アイテムだ。強力な武具防具を持ち込めば、プレイヤー自身の弱さなんて無視してしまえる。

 そして一般的にMMOで生産系は弱くなりがちだけど、このゲームは全く違うのかもしれない。

 臨機応変な強さは期待できずとも、事前準備を好きなだけできる! それこそ時間が許せば無制限に!

 また経験点の大半は制作関連へ注ぐことになるだろうから、初級レベルな強さの維持も?

 よくよく見てみれば目覚めさせる者たちエゲイルタイの二人以外にも、まだ何名かが俺らのような初心者ニューピーの世話を焼いてたりする。

 彼らはいわば『初級クエスト・ビルド』とでもいうべきスタイルだ、きっと。

「少なくともアタッカー不足で、ラスボスの討ち漏らしは無さそうですわ」

 そう娟珠は肩を竦める。……代わりに初心者ニューピーがラスボスから一獲千金も無さそうだけどな。

「でも、ラスボスに返り討ちされると、凄く萎えるって聞いたよ?

 いまから魔法を掛けるから、抗わないで。弾かれちゃう」

 答えを待たずファルファッラは、いつの間にか取り出していた杖をバトンのように回し始める。

 ……これは異能の前提動作? それともルーチン?

加護をブレスド!」

 掛け声と共に俺達パーティメンバーの四人は、それぞれが光に包まれた。

「一定ポイントだけ、この光がダメージの肩代わりしてくれますわ」

 いわゆるHPとMPが『オーラ総量』で共用なせいか、このゲームは回復系異能が重く、回復アイテムも高価だった。……そうしないとエンドレス――どこまでも回復が追いつくからだろう。

 そこで肩代わり分を先掛けし、脱法的に疑似回復魔法としたようだった。

 またファルファッラが異能発動で使ってしまった『オーラ総量』も、先程に作られた結界で自然回復が促進されている。

「一応、直接回復もできるけど……ハルト君とノン君の二人は、条件を満たせてないから……」

 この世界サーバーで培われてきたであろう、定番セオリーかつコンボの匂いがプンプンする。予想より二人は熟練者だったり?

「という訳で万が一の事故も考えたら、私めがメインの盾役タンクですわ! ノン様には、フォローを!」

「……どうしてボクが前衛タイプだと?」

「……でも、前衛でらっしゃいますわよね?」

 あまりにも不思議そうな娟珠の返しに、またもノンはorzポーズだ。わりと散々だな、今日のノンは。

「ハルト様は、中衛としてファルファッラの護衛を」

 装備は『初心者のナイフ』にがらくた銃サタデーナイトスペシャルのままだったから、『【物理干渉】が×4長所』と思うか。

「悪いな、前へ出れなくて」

「大器晩成型なのですから……そこは悠然とお構えになるべきかと」

 まあ『自作の』、『愛用の』、『特注品』、『個別名称ネームド』と掛け算な厳つい武装で身を固められれば、いつかは他のビルドを圧倒できるのかもしれない。

 しかし、実際は×4なしレアタイプの『スペシャルに+%』だし――

 その模範解答も、これから模索という為体だ。どうしたものか。

 とにかく今日のところは、イベントに全力投球しておこう。残りカウントも少なくなってきたし。

「そろそろですわよ!」

 俺らへ注意を促しながらも娟珠は、抑えていたオーラを解放する。

 こいつ『【噴出力】が×4長所』か!? さらに抜刀し掲げたかと思うと――

「さあ、お食べなさい、気力喰らいオーライーター!」

 命令に応えレイピアは、娟珠のオーラを吸い上げていく!

 それで娟珠が纏う包むオーラは薄くなってしまったが、かわりにレイピアの刀身がオーラで包まれ、巨大な光の剣へと変化していく。

 なるほど。どうやら娟珠は【遠隔操作】や【物理干渉】が×1いちばいらしい。

 おそらくオーラを飛ばして遠距離攻撃したり、直にオーラへ干渉――例えば剣状に変化させたりが不得手だ。

 となるとノンのように格闘を選択でも良いけれど、しかし、オーラに指向性を与えるアイテムで補うのもありか。

「……いい剣を持ってんな」

「御姉様から、御下がりを御借りしたのです!

 ――御姉様! 娟珠はやりますわ! 見ていて下さいませ!」

 そう観客席へ向けて叫ぶなり、身の丈ほどに育った気力喰らいオーライーターを振り回す。あの頭を抱えてる女性が、娟珠の『御姉様』か。

 しかし、娟珠ら二人を見ても分かるように、ギルドや徒党クランの助言や助力は馬鹿にできない。

 そろそろ俺らも検討すべきなんだけど――


 どこぞの徒党クランへ一発かますのが目標な初心者ニューピー二人組なんて、受け入れて貰えるのだろうか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る