レイドボス

 銅鑼の合図と共に四方の鉄格子が上がり、モンスターが飛び出してきた。

「ノン! 出過ぎんなよ!」

 警告しながらも俺は俺で、モンスターを物色する。やはり飛んでる奴とか優先か?

 大五郎のアドバイス――漫然と銃へオーラを伝わらすのでなく、薬室チャンバー内の弾薬カートリッジ、そして弾頭ブリットまで詳細にイメージを試してみる。

 発射。

 あいかわらず照準が適当に思えるも、威力は段違いだ。掠っただけなのに鳥型モンスターを仕留められた。

 ちゃんとやれば、ちゃんと結果に繋がる。それがだったり?

 しかし、これでは連射速度を上げられそうにない。マシンガンなどの長物を見かけない訳だ。

 また、あいま合間にノンや娟珠へ援護射撃をするも、祖国を裏切りフレンドリー・ファイヤーしそうで怖すぎる。

 早めに銃は買い替えよう。……いや成長ビルドを決めるのが先か?

 そして成長ビルドといえば、誰も異能を隠そうとしないのが驚きだった。

 MMOでは戦闘行為が日常的過ぎて、戦闘スタイルの秘匿が馴染まない?

 それとも表技――バレてしまっても構わない定番系の戦闘能力と、可能な限りに隠し通す奥の手を使い分けて?

 どちらにせよイベントは、様々な異能のアイデア発表会めいてたし――

 この異能力MMOというジャンルの本質は、PvP対人にあるとも思い知らされた。

 ……異能を持つスーパーヒーローのライバルは、やはり同じ異能力者しかあり得ないだろうし。



 モンスターのラスト・ウェーブも処理され、あとは残敵掃討だけになると――

「来ますわよ、私の後ろへ!」

 そう娟珠は指示しつつ、レイピアと同じようにオーラで巨大化させた小楯を掲げる。

 また、いつの間にやら剣を収め、自由となった右手で色とりどりな宝玉を玩んでもいた。

 赤に青、黄色、緑と……あれは『精霊石』とかいったっけ? やっぱり『初心者の~』シリーズ?

 とにかく、ヤバい予感しかしない!

 慌てて娟珠の後ろへ逃げ込むと――

「おお! 今日は炎の巨人イフリートだ!」

「やった! レア確!」

 などと歓声が上がる。……イフリートの繰り出す熱波と同時に!

 「あ、これ死んだわ」と諦めかけるも、視界の隅では娟珠が赤色の宝玉を――『火の精霊石』を砕いていた。

 それがスイッチだったのか小楯のオーラも赤く変色し、熱波は完全に阻まれて!?

 これは『精霊石』で上乗せ? それとも【性質変化】を?

 どちらにせよ、消耗材と引き換えの能力変化は、賢いやり方に思える。

 これなら手の内がバレても、いくらか融通も利くだろうし。このゲームで定番な戦術だったり?


「どうすればいいんだろ、ハルト!?」

「あ、あれだ! 『初心者の魔石』! あれを投げ付けて――」

「待って、ハルト君! いま専門なタンクの人が!」

 ファルファッラのいう通りで、赤いオーラに身を包んだプレイヤーがイフリートへ手袋を投げつけて!?

 あれって、もしかして異能か!? 強くモンスターの注意ヘイトを惹きつけるとかの!?

 そして釣られたらしいイフリートは、無防備にもプレイヤー達へ背中を晒す!

「いまだ! 皆、るぞ!」

 顔役格な初級クエスト・ビルド・プレイヤーの号令に合わせ、各自で火力の高そうな攻撃を繰り出す。

 もちろん俺やノンは、『初心者の魔石』を投擲だ。当たれば爆発して、結構なダメージとなる。

 だが、やはり花形は近接アタッカー達か。なんといっても見栄えがいい。

 ……まあルシェフの死神の大鎌命を刈り取る形には、誰も敵いそうになかったけれど。



「『獄炎石』ってのは『火の精霊石』の上位互換か何か?」

「炎系触媒の最上級だよ! 今日のボス・ドロップは大当たりだったね!」

 ニコニコなファルファッラが教えてくれた。

 まあ一人当たりの分配金も十万ゴールド越えが確定となる……らしい。

 これで不満だったら罰が当たる。俺やノンなんかは、時給数千ゴールドも稼げたら御の字だし。

 熟練者であろう専門ビルドなプレイヤーだって、まあまあな稼ぎとレア・ドロップの買取権利なら一挙両得?

 ただ、これはイベントに注力な運営方針というか……プレイヤー間で摩擦を起こさせ易くとも思えた。


「なんとか精霊鉱を一つ買い取れましたわ!」

 ボス・ドロップの競りから戻った娟珠が実物を見せてくれた。

 いわゆるファンタジック素材で、それで武器や防具を作ると高品質化が図れたり?

 御姉様に借りたとかいってた気力喰らいオーライーターも、精霊鉱とやらで制作されてるのかもしれない。

「……『獄炎石』は誰が?」

 娟珠は肩を竦めるばかりだったから、まあ、察しろといいたいのだろう。

 しかし、異能を強化や上乗せできる消耗材、それも最上級品を掻き集めて?

 もう嫌な想像しかできないと、ルシェフの方を見れば――


 なぜかノンの奴が突っかかって!? なにやってんの!?

「聞きたいことがある! どうして皆に酷いことして回るの!」

 ……ただの直球じゃなかった。ド級の直球で、ド直球だ。

 当然に護衛役――アンダインが動き始めたのを、しかし、なぜかルシェフは止める。

「知らしめる為だ。オレは望まれるがままに愛され、求められるがままに愛する。

 誰もがそうなれば、素晴らしいと思えないか?」

 あまりの高周波強電波に気圧されてしまったノンを放置し、悠然とルシェフ達は去っていく。


 ……拙い。予想より遥かにだった。

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