衝撃の事実

 露店のBOTボットへ在庫補充か何かをしていたプレイヤーが、会話へ入ってきて続けた。

「悪かったな、弾が真っ直ぐ飛ばなくて! でも、お分かりいただきたいんだけど――」

 何かに気付いた男は、突然に話を止め中空から――おそらくはアイテム欄イベントリ・ウィンドウから紙束を取り出した。

 一枚ずつ俺とノンへ押し付けつつ、露店へもフリーペーパー的に補充する。

 紙には『有志一同による、初心者応援グッズ』と謳われていたから、この露店の方向性も判明だ。……裏にはギルドやらクランやらの募集広告も載ってるし。

「という訳で、これらは有志の作った初心者向け商品だったのさ。

 詐欺とかの心配もしなくいいぜ。どれも制作系プレイヤーの営業を兼ねてっから――

 ようするに性能が悪いだけだ、お値段相応に。

 決して初心者を憐れんだ施しとかじゃないし、ましてや狙い撃ちした詐欺でもない。……持ち出し気味な奴は、いるだろうけどけどな」

 やや自嘲気味な説明からは、斜陽ジャンルかつ過疎サーバーの悲哀が透けて見えた。

 ここは初心者が半自動的に拠点とする、いわゆる『最初の街』だ。

 つまり、張り込んでいれば、次から次へと初心者が来訪してくる。……世界サーバーが過疎ったりせず、ゲームが期待通りに運用されていれば。

 きっとデザイナーの構想では、新しい仲間を求めた徒党クランだのギルトなどが新メンバー勧誘で街を賑わせているのだろう。

 しかし、悲しかな実情は掛け離れていて、ここの先住人達もフリーペーパーやら無人店舗、新人向け格安品でのアピールに頼っているようだった。

 ……まともな新規が一日に一人か二人だとしたら、まあ、その方が適切か。


 さりげなく男の名前を調べ――頭上の空間を凝視する。

 そこには『名前:大五郎』や『所属:ガン・スミス協会』と文字が浮かび上がった。当然にがらくた銃サタデーナイトスペシャルの制作者名と同じだ。

「俺は大五郎! ガン・スミスだ! 『辛子蓮根』ってブランドも持ってる!

 初めまして、だな! ハルト! ノン!」

「こちらこそ、大五郎さn――」

 差し出された手へ、握手し返そうとしたノンの首根っこを引っ張る。

「確認しときたいんだけどさ? 異能の発動条件に『握手したことがある相手限定』ってのもある?」

 気を悪くするかと思いきや、大五郎はニヤリと笑った。

「もちろん成立する。むしろ思いつけたら、あると考えていい。

 だが、べつに絶対のルールもあるんだぜ。街では――セフティゾーンでは、ほとんどの条件を満たせない。……まあ例外は残っちまってるが」

 ……例外? 大五郎へ握手を返しつつ、さらに問いかけた。

「名前を知ってるとかの条件?」

「それは緩すぎて使う奴がいないけど、まあ、情報系の限定だな。いくらシステムでも、をノーカウントにはできない。

 ただ安心していいぜ。その分だけされてる」

 つまり、『相手のステータスを全て知っている』などのも条件にできるし、それなら街中で満たすことすら可能だが、悪用しづらく?

 さらに名前などの容易過ぎる条件では、逆にメリットも得られず使われてない?

 考え込んでしまった俺を押し退けるようにして、ノンが大五郎と握手を交わす。……どうして俺へアッカンベーなんだよ!

「初心者向けのクエストって、どんなのですか?」

「この街の南にある闘技場で、初級クエストが定期開催されてるんだ。

 プレイヤー対プレイヤーじゃなくて、プレイヤー同士が共闘して、次々と登場してくるモンスター達を倒す形式の奴な。

 どちらかというと質より量が重要だから、参加するだけで喜ばれるし――

 初心者ニューピーには『初心者の魔石』が期待されてたりもする。……本物使ったら、採算採れなくなるからな。

 なにより同時期に始めたプレイヤーと出会えるのは、かなり貴重な機会だと思うぜ?」

 うん。大五郎は、見たまんまの親切な先住人だろう。

 このゲームが好きで、楽しんでいて、プレイヤーも増えて欲しいと考えている。

 そう身構えなくても良さそうだ。……狙い澄ましたかのように俺らは、厄ネタばかりに遭遇ともいえるけど。

「あー……ネタバレになったら……アレなんだけど……――

 もし【物理干渉】が×4よんばいで【幸運】も高いのなら、早めに【器用さ】へコンバートしといた方がいいぜ。

 あれって実は、初心者系アイテムと同じく期限があるんだ。もし【幸運】13以上だったら、ちょっと信じられないくらいの経験点を取りこぼす。

 いきなり無理して銃器なんて、ハルトは【物理干渉】ビルドになりそうなんだろ?」

 ……失敗しドジってた。初心者おれでも予想のつくことは、大五郎先住人なら自明の理か!

 もう大声で「長所は【物理干渉】です」と宣伝して歩いているようなものだった!

 でも、×4よんばい? ×4よんばいって、あり得たのか?

「え? ×4よんばい!? ボク、×4よんばいの適正値ないよ!? もしかしてボクの適正値低すぎ!?」

 ……さらにボーンヘッドだ。ノンの口を塞いどけばよかった。腹立ちまぎれに足を踏んでおく。

「そんな風に自分からステータスをバラしちゃ駄目だぜ、初心者ニューピー君?

 でも、いい機会だから教えておこう。八割方が4・2・1・1の適正値で――

 残りの一、二割りが『基本出力に+%』持ちの3・2・1・1だ!」

「……その言い方だと、まだ他のパターンあるよね? どうしてノンが『基本出力に+%』持ちだと思ったの?」

「典型的な前衛タイプの性格してる!」

 大五郎の断言にノンは、orzポーズだ。……でもショックか? むしろ妥当過ぎる程じゃ?

「まあ半分は冗談だけどな。一番多い×4なしレアタイプなんだよ、『基本出力に+%』持ちは。×3さんばい二つ持ち――3・3・1・1の均等タイプより数が多いからな。

 一応、アドバイスしとくけど……短距離ランナー型になりがちだから、気をつけといた方が良いぜ」

 なるほど。出力が大きければ、その分だけ早くガス欠にもなり易い。明確な弱点であり、攻めどころか。

 そして俺も×4なしレアタイプだった上、その中でも『スペシャルに+%』は珍しいようだ。

 ……『【物理干渉】が×4長所』と偽装できたのは、思わぬ幸運だったり?

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