異能
「適正値の方は、おそらく異能に関連だと思う。どういう指針で測定したんだろうな? それに読み取り方も……ちょっと分からんな、まだ」
「ボクも! ボクも知りたい!」
そういうなり止める間もなくノンも、他のオーブへと手を翳し――
「神様! ハルトにも見えるように!」
とやらかした。
「あ、あのなぁ? 能力値は秘密にしておくもんだぞ、セオリーだと!?」
「いいじゃん! ハルトは仲間だし!」
……お、おう。な、ナマカな。あれ美味いよな!?
そして流されるままノンのステータス・ウィンドウも見てみれば――
☆能力値 【筋力】 9 【運動神経】 15 【幸運】 6
☆適正値 【噴出力】×3【性質変化】×1【遠隔操作】×2【物理干渉】×1
☆特記 基本出力に+%
と表記してあった。
「なるほど。分かり始めてきたぞ。俺とノンとでオーラの厚みに差があったのは、【噴出力】の適正値に――成長倍率に差があったから。同じく短剣へ伝わさせられたかどうかも【物理干渉】の違いだろうな」
「そっか! じゃあ【性質変化】や【遠隔操作】は?」
「まだ分からんけど――」
「【性質変化】はオーラに独特の性質を付与する。【遠隔操作】はオーラを手元から離した場合だ」
なんと神像が会話へ割って入ってきた。このAI、かなりの高性能かも!?
しかし、ノンには不十分だったようで、捕捉を必要とした。
「『ろじょレジェ』のタカシは『ライライ拳』を――気弾を手から飛ばしただろ?
あれの真似するなら威力や大きさは【噴出力】依存。
飛距離やホーミング性能は【遠隔操作】。
カレー先輩みたいに炎属性を付けるのなら【性質変化】だろうな。
ツルリンみたく斬る性能を付与も【遠隔操作】……いや【物理干渉】かな、ゲーム・バランス的に考えると」
「プレイヤー・ハルトの説明は、ほぼ正しい。
この世界においてオーラは、物理現象の一つだ。よってオーラの直接操作も【物理干渉】に左右となる。
また細かくは該当の適正値へ経験値を注ぎ込み、要求数値以上を満たし、技の習得にスペシャル値を支払う」
その説明だと適正値は、他の技とも共用が叶う。
しかし、スペシャル値は使いっきりか? それに要求値とは?
「あ! ボク、『ごっついライライ拳』なら覚えたいかも!」
「な、なぜそんなネタ技を!?」
「それは『発射準備モーションが必要』な制限と『発射準備モーション継続に応じ威力が上がる』の利益と見做され、以下の【噴出力】と【遠隔操作】の適正値を満たし、指定のスペシャル値を支払う必要がある」
ノンの冗談に、明確な回答が!? というか、このゲームは『ごっついライライ拳』が実装されて!?
……違う。これこそ話題になったAIゲームマスターの真骨頂か!
「もしかして、ほとんど全ての異能に習得条件を提示できる? それなら『時止め』も可能だったり!?」
「現実的に不可能だ。九秒間の時間停止に必要な経験点は、一正ポイントを超える。それだけの経験点は集められないだろう」
「……一正って?」
「十の四〇乗――一の後にゼロが四十個である」
ノンの奴は、あんぐりと口を開けてしまうが……奇妙なことに俺は、別の見解を持った。
「制限が三秒だったら?」
「三秒でも一澗ポイントを超える」
「……奇妙な言い回しだけど、時が止まるのは
「その場合、一穣ポイント前後だ」
一気に二段階もダウンした!
「なら効果時間が一秒、範囲が一〇メートルなら?」
「それなら一京ポイントが見込まれる」
やっと知ってる単位になったというべきか、ようやく理解の及ぶ不可能になったというべきか。
「もっとファジーな制限も可能? 月に一回しか使えないとか……使ったら死ぬとか?」
「それらの制限は、人気がある。もちろん可能だ。大幅に必要経験点も下げられよう」
「死んじゃうとか駄目だよ、ハルト!」
「ゲームの話だぞ、ノン? それに俺らは、もう死亡を経験済みだろ」
他愛もなくノンは感心してるけれど、死亡ペナルティ一回と引き換え程度なら、安い取引かもしれない。
……となると廃人の中には一人や二人、時を止める能力者が?
「しかし、思ってたより難しそうだぞ、このゲーム。
おそらく習得できる異能に限界はない。
でも、強くて無制限な異能を得ようとすれば、その代価が――経験点が支払いきれない。
だから自分なりに制限したり、限定したりで……折り合う必要がありそうだ」
「というか自由過ぎて、逆に珍紛漢紛だよ」
「いや意外なことに、考える時間は結構ある。もう一つの難しさでもありそうだけど――
習得したい異能を思い付けても、それに支払う経験点を貯めなきゃならない。
おそらく一点豪華主義な異能は、習得が著しく辛いだろうな」
「……なんで?」
「膨大な必要経験点を、基礎的な能力だけで稼がなきゃならないからさ。始めたばかりな俺らみたいに」
「異能力ゲームなのに、不思議な力が使えないなんて詰まらなくない?」
至極当然なノンの感想には、苦笑いしかない。
だが、しかし、憧れのスーパーヒーローが使っていた、それも奥義に近い能力!
それを獲得できるのなら、かなりの我慢を重ねられそうな気もする。
「まあ、とりあえず基本ルールというか……調べ方は分かったんだから、よしとしないか?」
「調べ方?」
「たぶん一般プレイヤー用の神殿もある。プレイヤーの取引で『神殿チケット:1h』ってのが売り買いされてたし。
この分だと異能に関する疑問や質問は、納得いくまでゲームマスターに聞くようだろう」
……なぜか神像が嗤ったように見えた。マジで長い付き合いに!?
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