能力値

「どうやらチュートリアルも大詰めというか、次あたりで終了っぽいな」

「MMOって初めてだったんだけど、けっこう親切に教えてくれるんだね!」

「どう考えたら、その感想になるんだよ。けっこう古めなタイトルといい勝負っていうか……やや負けてんぞ、贔屓目に見ても」

「そうなの? でも、とりあえず街の外へ行ってモンスターを倒したら、経験点と色んなアイテムやお金が手に入るんでしょ?」

 その情報だけでハクスラゲーを開始しようなんて、ノンの奴は大物だったり?

 いや、結局のところハクスラゲーなんて、どれでも似たようなものか?

「俺なんかチュートリアルで、謎しか増えてねぇぞ!? ……まあ、いいけどさ。

 万が一だけどチュートリアル・ボスの可能性もある。備えておこう」

「うん! ……『初心者の回復薬』とか使ったら勿体ないかな?」

「問題ないと思うぞ。この『初心者の~』シリーズは売ったり、他人へ譲渡したり出来ないみたいだし……説明のところに、使用期限すらあったからな。

 それより! また相手が銃器とか使ってくるようだったら、オーラを出しっぱなしにして防御しろよ?」

「うん、分かった! ……ハルトはどうするの?」

「そん時は隠れる! 俺のオーラじゃ薄くて、弾丸は防げそうにないからな」

 頼りなく感じたのか微妙な顔だけど、これは仕方ないだろう。

 チュートリアルを通じて似たような成長をしたはずなのに、なぜか色々と差があった。

 たとえば全身から噴出される謎パワー――オーラなんかは顕著で、ノンは一センチ程度の厚みがあるのに、俺のは薄い膜だ。

 他にも俺は『初心者の短剣』へオーラを伝わせられたのに、ノンは無理だったり。……これは人型以外のアバター操作に馴染んでいるかどうかも?

 そしてファンタジーと近代がちゃんぽんな世界観だったから、当然に銃器類も登場する。

 撃たれまくると『オーラ総量』とかいうHPを兼ねた数値?が、みるみる削られていくので、対応策は考えておくべきだろう。



 しかし、予想に反しチュートリアルのラストは、もう一つの定番――システム説明だった。

 まず『初心者の神殿』というアナウンス文字が出たかと思えば、『合計二:〇〇』というタイマーもセットされる。

 それから神像――神殿の像だから、これで正解のはずだ――が、おもむろに説明を始めた。

「よくぞ来られた、新たな冒険者たちよ! さあ、その両手をオーブへ翳し、自らの資質を見極めるがよい」

 資質を見極めろ? なるほど。これが噂になったアレか。

「お前はAIか?」

「ご質問にお答えします。私は人類の役に立つよう設計されたAIです」

 聞き馴染みのある、先程とは違った声音。それは法律で定められた、定型なAIの対応だ。

「……ねえ、ハルト? どうしてハルトは、そういう無粋なことするかな?」

 が、まずいことにノンを怒らせてしまった。

 AIがNPCを演じているなんて、それほど詳しくないノンにでも想像可能だろう。

 そして当たり前だからこそ俺の確認は、あたかも夢の国で「中の人はいる!」と叫んだも同然か。

「いや、悪かった。実のところ俺は、このAIゲームマスターってのを体験したくて、このMMOを始めたんだ。ちょっと興奮し過ぎちゃったな」

「AIゲームマスター? ほとんどのゲームはAIが管理してんじゃないの?」

「それはそうなんだけど、このゲームは少し独特な活用もしている……らしい。

 ノンは疑問に思ってないだろうけど……この時点で能力値が決まってないのは、かなりレアなんだぜ?」

 首を捻るノンに論より証拠と、オーブへ両手を翳してみせる。

 思った通りだ! 見慣れつつあるステータス・ウィンドウが浮かび上がり、そこへ能力値の項目が追加されてる!

「……誰でも閲覧可能に」

「神殿内に限り、音声対応も対応可能だ。しかし、神殿外ではインターフェースを操作せよ」

 再びAIが神像の声を演じて応じる。

 なるほど。となれば時間制限は、高レベルなAIのリソースを割いて貰う権利か。

 そしてノンにも閲覧可能になったであろうステータス・ウィンドウには――


☆能力値 【筋力】 13 【運動神経】 12 【幸運】 5

☆適正値 【噴出力】×1【性質変化】×2 【遠隔操作】×1【物理干渉】×3

☆特記  スペシャルに+%


 と表記してあった!

「ど、どういう意味!? これ!?」

「『能力値』は現身アバターの性能だろうな。おそらくチュートリアル中の行動から、算出したんだと思う。

 ノンもリアルと大差ない感じだろ? 筋力と運動神経に限れば?」

「うーん? 最初は変な感じもしたけど……いまは? でも、どうなんだろ? このゲームに慣れたからかもだし?」

 しかし、その感想こそ、裏でAIが細かく計測していた証拠だと思う。

「この【幸運】というのは?」

「ゲーム内の確率で成否に参照。

 能力値合計は三十であり、公平性が保たれている。

 そして望むのであれば【幸運】を、【器用さ】や各種五感へコンバートが許されているし――

 初期能力値を【筋力】 10 【運動神経】 10 で開始も選択可能。

 また全ての能力値は、あとから経験点を支払うことでも獲得できる」

 なるほど? 【器用さ】なんて制作系でもやらない限り意味がないから、不要なら設定されない?

 そして【筋力】や【運動神経】の初期値が低くても、高くなる【幸運】を活用のビルドも面白そうだし――

 五感へ――例えば【視覚】や【聴覚】へシフトさせたら、唯一無二に近いキャラクターとなれたり?

 だけどゲームのコンセプト「君が異能のある世界で力に目覚めたら」を体験したかったら、このままが良さそうだったし――

 少なすぎる能力値が、このゲームの主役は別とも教えてくれる。

 大事なのは、やはり習得する異能か。

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