みなみで良いよ

「嶋くんのインスタ、フォローしてええ?」


僕の顔を覗き込み、下敷領さんが尋ねる。


僕も人並みにSNSなどを嗜んだりする。

この中学校の同級生も何人かは相互フォローの関係にある。

しかし投稿も"いいね"もあまりしたことがなかった。

読者諸賢はもうお解りかと思うが、僕の毎日にはSNSで自慢したくなるような出来事は起こらない。

たまに空や花の写真を撮って投稿する程度だ。

それ以外、SNSで開陳するに相応しいものはない。


同級生の投稿に"いいね"をしないことは問題かも知れない。

そんな中学生、僕以外にいるのだろうか。

それとも意外とたくさんいるのか。

田舎であるし交友関係も広くないのでその疑問は解決しないが、いわゆる"一軍"の同級生の投稿に"いいね"をしないと最悪の場合虐めに遭う恐れがある、という事は確かだ。

姉にこの話をしたら、「今ってスクールカーストとか言わんの?」と言われた。


中学入学当初は、僕とは関係ない部活の繋がりで大人数でファミリーレストランに行って楽しく食事している様子を投稿している同級生が純粋に妬ましくて、人付き合いのために"いいね"をした方が良いと解りながらそれができなかった。


今はその感情さえ消えた。

それに、同級生から腫れ物扱いされるくらい何だと言うのだ。

僕は家に帰ればそれ以上の地獄をもっている。



「どうしよ。どっから辿ったらええねやこの場合。」


下敷領さんが僕のSNSをフォローすると言うので、アカウントのありかを教えなければいけない。


「名前で検索したらあかんの?」

「"嶋"としか入れてへんから。フルネームちゃうから多分大量にヒットするで」

「じゃあ、石森のフォロー欄におる?」


SNSマスターの石森とは2年生の時に同じクラスで、何かのきっかけでインスタをフォローした。

というか石森は同級生全員のSNSを把握していないと気が済まないらしく、連絡先を交換する時は「石森から飛んで!」というのが我が学年の常套句だった。


すぐに僕のスマートフォンに「フォロワー1人」と通知が表示された。


「ああ。これ?下敷領さん。」

「みなみで良いよ」

「あ、そう?」

「長いから新しい苗字嫌いやねん。一度でわかってもらわれへんし。せやから私もフミタって呼んで良い?」

「その名で呼ぶな」

「名前嫌いなん?」

「自分やって自分の苗字嫌いやろ」



シマ・フミタ。

僕は幼稚園児の頃から自分の名前が嫌いだった。

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