おなじ深さで会いましょう
ハヤシケイスケ
ぬかるみ
「おい石森ぃ~~」
「うっさいねんはよ部活行けや」
「怒られた……」
僕の歩く廊下に、他クラスの女子同士の会話が響いている。
他クラスと言っても、この中学校には1学年に2クラスしか無いのだが。
インスタ上手の石森も、僕の唯一の友人林も、放課後の課外活動のためにそれぞれの場所に散って行った。
僕は部活には行かず、そそくさと下校する。
「鍋の美味い季節が終わったな」
桜の季節が過ぎたら温かい鍋料理を楽しむ家庭は減るだろう。
これからはもう少ししっかりした料理を作らなければいけない。
と言いつつ、クラス替えがあり、
それに伴って3年続けて同じクラスになった林と顔を見合わせてニヤニヤしたり、
下敷領(しもしきりょう)みなみというなげえ名前の女子生徒が隣の席になって挨拶したり、
くすぐったい出来事が多かったためか少し疲れている気もする。
今日はスーパーの総菜に頼るか。
とにかく僕は、中学3年生になった。
家に帰ると、母は居間のソファで寝ていた。
いつになるか知らないが、夕飯を作るのは母が起きてからでいいか。
こうなると母はなかなか起きない。
処方されている薬の副作用だ。
母はパーキンソン病を患っている。
トイレに自力で行けないレベルで全身の筋肉が言う事を聞かなくなる病気である。
薬が効いている間は問題なく日常生活を送れる患者もいるようだが、母はそうではない。
また母の場合はレビー小体型認知症も併発しており、深夜に突拍子もなく外出しようとする。
僕が少ない小遣いを捻り出して買ったコンバースを履こうとすることもあるため、たまに大声を出してしまう。
辛うじてまだ会話は成立するが、薬の副作用で時間帯を問わず寝てしまうことが多い。
……というような病状のため、平日に限り、僕が夕方に下校するまでは介護士、いわゆるヘルパーさんが何度か家に来る。
家族以外の人間が鍵を持っている、気持ちの悪い家だ。
父は毎日、帰るのが遅い。
姉に至っては次いつ家に帰ってくるのか分からない。
夕飯を作るのは僕の担当という訳だ。
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