間違い探し

「宇宙人はいると思います」

 あの日、国語の授業では『コンテストに出す作文を考えましょう』という内容で書いた宿題の発表をしていた。

 突拍子もない始まり文に、教室のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえてきた。僕も釣られて笑ってしまっていた。

 担任の先生は立派で、そこら中からクスクス聞こえる状況でもアイツの読む作文を、指摘で邪魔したりせず、しっかりと真剣な表情で聞いてあげていた。


 当時の僕はクラスの主役だった。

 対してアイツは脇役で、3軍にも入れなさそうな奴だった。

 僕はクラスの主役として、運動会では応援団長をやったし、合唱祭では皆の前に出て指揮者をやった。

 いつだって僕は、皆の視線を一身に受けて、期待に応えられる人間だった。


 それから数十年後。

 今も僕は、皆からの視線を一身に受けている。

 道行く人全員が僕の方を振り返るほどだ。

 日本の中心、東京。この街を僕は知り尽くしている。僕の庭のようなものだ。

 もちろん、知っているだけでは無い。

 今だって、昔と変わらず困っている人を助けてあげたりしている。

 この前だって、初めて来たばかりの新人さんに、手取り足取り色々と教えてあげた。

 感謝して欲しくてとかでは無い、きっとこれは僕の性分なんだと思う。


 ついこの間まで暑かったのに、週が開けると急に冷え込んだように感じた。

 僕は寒さを凌ごうと、上着を膝掛けみたいにして足の上に掛けた。


 なんで小学校の時のこと、作文の話なんかを急に思い出したかと言うと、さっきちょうど僕の目の前をアイツが通り過ぎたんだ。

 アイツはあの頃と変わらず、『真面目に働いています』って感じの身なりをしたサラリーマン風だった。

 顔立ちはほとんど変わっていなかったので、僕は直ぐに気付けた。

 アイツは気付いてなかったな。

 確かに、僕はあの頃と比べると少し痩せたし、大分変わったからな、無理もないか。


 道行く人と人の間から時折見えるアイツの背中を、懐かしむように見つめていた。

 とうとう人混みに紛れて、アイツの姿が見えなくなってしまった頃、ヒューッと切れてしまったのかと思うほどの冷たい空気を耳元で感じた。

 「さむっ……どこかで段ボール、調達しないとだな」

 上着だけでは心許ない寒さ。

 地面に敷くための段ボールを探すため、膝掛けにしていた上着を羽織る。

 フラフラと当てもなく歩き出す。

 

「どこで間違ったんだろう」

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