第27話 油断の代償◆公爵子息ルーカス視点

 父から言われた言葉をハッキリと覚えていた。


「リリアンと一生を共にするつもりなら、ちゃんと面倒を見ろ」


 そう、俺にはリリアンを管理する責任があった。だからこそ、ヴィオラに突撃してパーティー失敗の責任を取らせようとした一件以来、彼女を部屋に閉じ込めていた。外に出て、問題を起こさないように。


 最初のうちこそ、リリアンは不平不満を漏らしていた。これからもずっと、文句を言い続けるのだろうと思っていた。しかし彼女は、俺の予想に反して大人しくなった。心を入れ替えたのだろうか。それとも、監視の目が行き届いているからだろうか。


 とにかく、彼女は変わった。反省した今なら大丈夫そうだと思った。そうすると、さすがに部屋に閉じ込めっぱなしというのは可哀想になってきた。リリアンをどうにかしてあげられないだろうか。


 俺は父を説得することにした。


「あれからリリアンは、ちゃんと反省しました。そろそろ、外出の許可が欲しいのです。何か問題があれば、俺が責任を取ります」

「お前が、責任を取るだと?」


 疑うような目を向けられる。


「はい! 本気です」


 俺は力強く頷いた。すると、父はため息をついてから言った。


「わかった。おまえの好きなようにしろ。だが、何かあったら責任を取れよ」




 必死に頭を下げて、父を説得することに成功した。それをリリアンに伝えると、彼女は喜んでくれた。久しぶりに部屋から出られるという期待が顔に表れている。


 やはり彼女も辛かったようだ。でも、ちゃんと反省したからこそ、外出の許可を得られた。そのことを、ちゃんと伝える。


「今度は間違えないように」

「えぇ、もちろんよ。ありがとう、ルーカス様」


 その笑顔を見て、俺も嬉しくなった。これで彼女を幸せにできるかもしれない。


 その後も、俺は気を抜かないようリリアンの様子を見守り続けた。彼女は問題を起こす素振りを見せない。外出先でも淑やかに振る舞っているようだ。


 これなら、きっと大丈夫そうだな。そう油断していた。もう少し、警戒して見守り続けるべきだった。


 ある日、パーティーが開かれた。お披露目では失敗してしまったリリアンの信頼を取り戻すためにも、招待されるパーティーに積極的に参加して、そこでの振る舞いに気をつけることが大切だ。


 今日も俺達は会場を回り、貴族たちに挨拶を交わしていく。


 やはり、周囲の反応が芳しくない。まだまだ、噂が出回っているのか、イメージが悪いのだろう。その悪いイメージを払拭するために、会話を続ける。少しでも印象を良くするために。


 問題はそれぐらいで、順調だった。パーティーも中盤に差し掛かり、俺はホッと一息ついた。


「ん?」


 だが、ふとリリアンの姿が見えなくなっていることに気づいた。さっきまで隣りにいたはずなのに。彼女はどこへ行ったのだろう。嫌な予感がどんどん膨らんでいく。


 会場中を探し回った。やっとのことでリリアンを見つけたが、そこで目にしたものに愕然とする。リリアンがヴィオラとレイクウッド家の当主と会話しているではないか。


 一瞬、リリアンは勝ち誇ったような顔をしていたけど、すぐにイライラした表情に変わった。嫌な予感は的中した。


「リリアン!」


 俺は彼女の名を呼び、人混みをかきわけて駆け寄る。リリアンを近づけてしまったことを謝罪しなくては。深刻な事態。


 彼女は反省して、もう二度と問題を起こさないだろうと信じたのに。その信用は、簡単に裏切られてしまった。

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