第16話 失敗のパーティー◆公爵子息ルーカス視点

「さあ、リリアン。みんなに挨拶をしに行こう」


 パーティー会場に到着した俺は、隣にいるリリアンにそう声をかけた。今夜は彼女をお披露目する大切な舞台。だが、会場に到着した瞬間にリリアンはウキウキとした表情から一転、不機嫌な顔つきになった。


「なによ、これ! 私、こんなこと指示してないわ! ちょっと!」


 リリアンは近くにいたメイドを呼び止めると、早速文句を言い始めた。確かに会場の雰囲気は、いつもと違う印象を受ける。装飾や照明にも、どこか違和感があった。


「申し訳ございません。しかし、もうゲストの皆様がお見えになっておりますので、会場の変更は難しゅうございます」


 メイドはリリアンに頭を下げて謝罪の言葉を述べるが、彼女の怒りは収まらない。


「ああ、もう最悪!せっかくの私のお披露目の場なのに!」

「落ち着いて、リリアン。周りが見ているよ」

「……チッ!」


 俺が諌めると、リリアンは渋々と感情を抑え込んだ。だが、先ほどの彼女の振る舞いを目撃したゲストも少なくないだろう。いきなりイメージを損ねてしまったようだ。


 何とか気持ちを切り替えて、俺たちは挨拶回りを始めた。しかし、ゲストの反応は芳しくない。


「彼女が、新しい婚約者のリリアンです」

「どうぞ、よろしくお願いします!」


 上品な笑顔で挨拶をするリリアンに、相手は素っ気ない返事を返す。


「ああ、話は聞いているよ。よろしく」


 ぎこちない会話が続く中、離れた場所でゲスト同士がこそこそと小声で話しているのが聞こえてきた。


「ねえ、今のあの子が新しい婚約者なの? ちょっと驚いたわ」

「そうね。ヴィオラ嬢とは大違いだと思うわ。あの品の無さは、将来が心配になるわね」

「……」


 リリアンへの辛辣な評価が飛び交う。やはり、先ほどの場面を見られていたのか。最初から印象も悪く、彼女と一緒にいる俺も徐々に居心地の悪さを感じ始めていた。

そして、その言葉をリリアン本人に聞かれないように意識をそらすのも大変だった。どうか、リリアンに聞こえないようにしてくれ。


 いや、けれど。ゲストたちは、リリアンの本当の姿を知らないだけ。彼女だって、いい所もある。これを知ってもらえたら、きっと認めてもらえるはず。


「挨拶しても、会話が長続きしない。誰も私に興味がないみたい。どういうこと?」

「そ、そんなことないよ。みんな、君とどう接すればいいのか悩んでいるだけだ」


 俺は取り繕うように言葉を返したが、リリアンの表情は晴れない。パーティーが進むにつれ、事態は思わぬ方向へと転がり始めた。


 料理やドリンクの提供は遅れがちで、ゲストを待たせてしまう場面が続出する。演奏や余興の質も低く、パーティーの流れを乱していた。挙句の果てには、料理が途中で足りなくなるというアクシデントまで発生した。


「ルーカス様、大変です! メインディッシュが足りなくなりました!」

「なんだって? 予定していた人数分は用意していなかったのか?」

「は、申し訳ございません」


 動揺を隠せないメイドに、俺も頭を抱えてしまう。どう見ても、今夜のパーティーは大失敗だ。ゲストの不満が高まる一方で、リリアンの様子も心配だった。


「ねえ、ルーカス様。今すぐこのパーティーを中止にしましょう。このままじゃ、私のイメージが地に落ちちゃう」


 パーティーの最中、リリアンが小声で俺に訴えかけてくる。だが、途中で打ち切るわけにはいかない。


「ダメだ。途中で止めるなんて、参加してくれたゲストたちに失礼だろう。最後までやり遂げるしかない」

「でも……!」


 俺の言葉に、リリアンは唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべた。


 結局、パーティーは最後まで続行させた。けれど、満足のいくものとは程遠い内容だった。メイドたちの動きも悪く、ゲストに良い印象を与えることはできなかっただろう。


 パーティーが終わり、ゲストが帰ったあと、リリアンは堪忍袋の緒が切れたように怒りを爆発させた。

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