第15話 振り回される者たち◆とあるメイド長視点
「みんな、準備の手を止めて。また、計画の変更よ」
パーティー会場の準備を進めていた女性たちに、私は通達した。それを聞いた彼女たちは、不満を露わにした表情を浮かべる。
「えー! また、変更ですかぁ?」
「これで、何度目ですか? いい加減にしてくださいよ」
「せっかく、ここまで準備したのに。また、やり直し!」
「新しく来た例の彼女、準備に時間が必要だってこと理解してないんですかね」
メイドたちのぼやきが聞こえてくる。確かに、彼女たちの言う通りだと思う。
「完璧に仕上げるつもりらしいけれど、無理じゃないですか? こんなに何度も邪魔されたんじゃ」
ため息まじりに言う同僚に、私は言葉を返した。
「文句を口に出して言うのは止めなさい。それ聞かれたりしたら、大変よ」
不平不満を口にする者たちを制止する。私自身も、もちろん思うところはあった。だけど、それを表に出して問題になるのは避けたいから。きっと、この場面を目撃したリリアン様は怒り出すでしょう。そうなれば、また作業する時間を奪われてしまうのだから。
ヴィオラ様の時代は、こんなことには決してならなかった。彼女が居てくれた頃のパーティーの準備は、余計な口出しをせずに仕事を任せてくれていた。そのおかげで、いつもスムーズに進んでいた。メイドたちへの気遣いのおかげで、私たちは心を一つにして仕事に取り組むことができたの。
それが今ではリリアン様の無理難題に振り回されて、メイドたちは疲弊していた。何度も変更される指示に右往左往し、彼女の高圧的な態度に怯えながら仕事をこなさなければならない。まるで、奴隷のような扱いだわ。
「とにかく、動きましょう。指示された通りに」
私はメイドたちにそう告げた。個人的な感情は脇に置いて、プロとしての仕事をしなくては。
「わかりました」
渋々といった様子で、彼女たちは仕事を再開した。何度目かの変更を言い渡され、また一から作業をやり直す。期限が迫る中、メイドたちのモチベーションは目に見えて下がっていく。こんな状況では、彼女たちも適当にこなすしかないだろう。
おそらく今回のパーティーは、クオリティーの低いものになってしまう。そうなれば、準備を指揮していた私の責任を問われるかもしれない。いっそ、そうなってくれたほうがいいのかもしれないと思ってしまう。
ヴィオラ様がヴァレンタイン家にいらしたら、こんな事態にはならなかったはず。なのに、ルーカス様は彼女を追い出してしまった。一体、何を考えているのかしら。
でも考えてみれば、ヴィオラ様にとっては良かったのかも。あんなに素晴らしい方を理解できない男性が夫になるなんて、むしろ不幸だもの。
噂によるとヴィオラ様は、レイクウッド家の若い当主と婚約したらしい。その彼が優しい人であることを、私は祈っている。ヴィオラ様には色々とお世話になっていたし、素敵な相手と一緒になって欲しい。心からそう願っていた。
ヴィオラ様が去った後、彼女の妹であるリリアン様を新たな婚約者に選んだ。以前からヴァレンタイン家に出入りしていたリリアン様は、ワガママで自己中心的な性格の持ち主。姉妹だなんて信じられないくらい、ヴィオラ様とは正反対の女性だった。
これから先が思いやられる。公爵夫人になったリリアン様に、次から次へと無理難題を押し付けられ、それをこなせなければ責め立てられる。そんな女性を、婚約相手に選んだルーカス様。私たちの未来は暗いわね。
働く場所を失うのは痛手だけれど、ヴァレンタイン家に留まったところで希望は見出せない。むしろ、早めに見切りをつけたほうがいいのかもしれない。責任を取る形でメイド長を辞めて、新天地を探すというのも一つの手ね。
私は、パーティーの成功を願う反面、失敗するだろうと思っていた。このままではヴァレンタイン家に未来はないという思いを強くする。リリアン様への不信感を胸に秘めつつ、今はメイド長としての務めを全うするしかない。
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