第14話 完璧な準備◆妹リリアン視点

 新しい婚約相手になった私を、みんなにお披露目するパーティーを開催してくれるそうだ。それに向けて、私は動き出す。


「ルーカス様、あなたとの婚約が決まって本当に嬉しい。でも、それをパーティーでお披露目されるのは、ちょっと緊張しちゃうかも」


 私は甘えるような口調で、ルーカス様に寄り添った。最初の印象が肝心でしょう。インパクトを与えるためにも、万全の準備が必要だと思う。


「リリアン、大丈夫だ。君の魅力であれば、みんなが君を認めてくれる」

「でも、やっぱり不安なの。だから、ルーカス様にお願いがあるんだけど……」


 上目遣いでルーカス様を見つめて、少し困ったような表情を浮かべた。そんな私を見て、ルーカス様も心配そうな表情になる。


「なんだい? 君の頼みなら、何でも聞こうじゃないか」


 ルーカス様の言葉に、私は内心で喜びを感じた。彼なら、私の要求を叶えてくれるはず。だけど、それを表に出さないように注意しながら、表情を作る。


「パーティーに向けて、ちゃんと準備したいの。将来の公爵夫人としてふさわしい、新たなドレスと装飾を用意してほしいんだけど……」

「それは確かに大切だね。君なりに、完璧な姿で臨みたいんだろう?」

「ええ、そうなの。だから、お願いできないかしら?」


 ルーカス様が少し躊躇している様子を見て、私は途端に強気な態度に変える。ここは強引に。


「ルーカス様、私はあなたの婚約者なのよ。これくらいのことは、当然でしょう? それとも、私との婚約を後悔しているの?」

「そんなことはないさ! わかったよ、リリアン。君の望むものを用意しよう」

「ありがとう、ルーカス様! さすがは私の婚約者ね」


 私は満面の笑みを浮かべ、ルーカス様に抱きついた。こうしてお願いを聞いてもらえば、あとは簡単ね。




 私は、パーティーにふさわしいドレスと装飾を選ぶために、何度も商人を呼んだ。気に入ったものを見つけるまで、何時間もかけて吟味した。細部にまでこだわって、自分の魅力を最大限に引き出せるものを選んだ。


「もっと、いいドレスはないの?」

「すぐに用意します」

「うーん。これは、ちょっと地味ね。もっと派手なのを」

「こちらは、どうでしょうか?」

「違う。もっと、明るい色が欲しいのよ」

「了解しました。では、こちらを」

「これも違う。この部分のデザインが気に入らない。作り直して」

「かしこまりました」


 周りの者たちが、それで十分だと何度も言ってくる。だけど、妥協はしない。私の満足が何より大切なのだから。


 パーティーでの出し物にも口出しした。私の好きなものをアピールするためにも、自分の意見を押し通した。これは、私のお披露目の場。貴族の方々にリリアンという人物を印象づけられるはず。



 準備の過程で、時折ルーカス様の顔を窺ってみる。彼は私の要求に呆れたような、疲れたような表情を見せることもあった。だけど、私が不満そうな顔をすれば、すぐに笑顔に戻してくれる。


 ルーカス様は私の味方。それに、彼も私を気に入ってくれているはず。私の魅力を理解してくれているからこそ、私の要求を受け入れてくれるのだろう。


 だけど、完璧に仕上げるのは無理だった。満点ではないかもしれないけど、及第点くらいの完成度。まあ、仕方ないわね。後は、ルーカス様が褒めてくれた私の魅力でパーティーの満足度を上げていけばいい。


 今日のパーティーは私のお披露目の場。だけど、印象を良くするための振る舞いも大事でしょう。


 パーティー当日、私は念入りに着飾って会場に臨んだ。鏡に映る自分の姿を見て、にんまりと笑みを浮かべた。


 ふふ、これなら完璧よ。今夜は、私がヴァレンタイン家の未来を担う女性だということを、みんなに思い知らせてやるんだから。


 自信に満ちた表情で、私はルーカス様と合流する。


「とてもキレイだよ、リリアン」


 ルーカス様が私を見て、感嘆の言葉を漏らす。当然ね。そのために、頑張って準備してきたんだから。


「褒めてくれて、ありがとうございます、ルーカス様」


 私はルーカス様に笑いかけ、彼の腕に手を絡めながら言う。


「さあ、行きましょう。みんなに、あなたの素敵な婚約者を見せてあげるわ」


 二人で、パーティー会場へと足を踏み出した。今宵は、誰もが私に注目するはず。


 私はルーカス様と一緒に歩きながら、胸を躍らせていた。ヴァレンタイン家の人や参加者の貴族たちに私の存在を知らしめ、敬意を集める。


 そのために、今夜のパーティーは重要な一歩となるわ。

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