第13話 自らの決断◆公爵子息ルーカス視点
「父上、報告があります。ヴィオラとの婚約を破棄し、新たにリリアンを婚約相手とすることにしました」
俺は静かに告げた。ヴァレンタイン家の現当主である父は、しばらく無言で俺の顔を見つめていたが、やがて口を開いた。
「勝手なことをしてくれたものだな、ルーカス」
父の言葉には、静かな怒りが込められていた。俺は戸惑った。喜んでくれると思っていたのに、予想とは違う反応だ。祝福してくれないのか。何を怒っているのか。
なんて答えるべきか困っていると、父が続けて言う。
「なぜ、婚約を破棄する前に相談や報告をしなかったのだ?」
「そ、それは。ヴィオラよりも、リリアンの方がヴァレンタイン家に貢献してくれると思ったからです。将来のために必要なのは、リリアンのような女性だと、私は考えました」
「自分勝手に判断して、ヴィオラ嬢を切り捨てたというのか。ヴィオラ嬢は優秀で思慮深い女性だと、わしは高く評価していたのだが」
「……」
彼女のことを、そんなに評価していたなんて。俺は知らなかった。でも、リリアンのことを知れば、その評価も覆るはず。ヴィオラよりもリリアンの方が良いと。
リリアンのほうが素晴らしい女性なのは明らか。父は、ただそれを認めてくれればいいだけ。
「おまえの判断は軽率だったと思うぞ。ヴィオラ嬢との縁を簡単に切り捨ててしまったが、本当によかったのか?」
「私の選択は、間違っていませんよ。父上も、近うちに気付くでしょう。リリアンの方が、ヴァレンタイン家が必要だったと」
父の言葉は厳しく、俺の決定を批判するものだった。しかし、俺は自分の選択には自信を持っている。
「……はぁ。まあ、いい。そこまでやったのだから、おまえの自由にしろ。ただし、その判断の結果については、おまえ自身が責任を負うのだぞ」
しばらく考え込んだ後、父はそう言って話を締めくくった。結果的には認めてくれたようだが、完全に納得したわけではないようだ。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
とりあえず、リリアンと一緒になることは認めてもらえた。だが父は、やはり納得していない様子。これから先の活躍で、両親にも認めてもらえるよう努力しなければ。きっと数年後には、両親もリリアンを受け入れ、ヴァレンタイン家に馴染んでいるはずだ。
そんなことがあり、俺はリリアンを婚約相手にする準備を進めていった。
パーティーも開催することにした。今回の目的は、新しい婚約相手であるリリアンのお披露目だ。参加者を募ったのだが、いつもと様子が少し違っていた。
「いつもと比べて、参加者が少ないようだが……」
「今回は参加できない方々から、お祝いの言葉が届いておりますよ」
使用人が持ってきたのは、手紙の束だった。一つ一つ確認していく。新しい婚約を祝福してくれつつ、パーティーに参加できないことを謝罪する内容。どうやら、他の貴族たちは忙しいようだ。
せっかく俺の素晴らしい婚約相手であるリリアンをお披露目するのだから、時間くらい空けてほしいものだが、仕方ない。
「ふむ……」
何となく違和感を覚えずにはいられなかった。その違和感の正体が何なのか、今ひとつはっきりとはしないが、きっと気のせいだろう。
とりあえず、リリアンを連れてパーティー会場に向かうとしよう。違和感について考える前に、パーティーに集中するべきだな。
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