第12話 思い出の品々と

 ジェイミー様との婚約が決まってから、私は何度も彼の屋敷に通った。早く彼との親睦を深めるためにも、積極的に会いに行くことにした。当主である彼の仕事の邪魔にはなりたくないので、訪問のタイミングには十分注意を払って。


  レイクウッド家の人々は、いつも温かく私を迎えてくれた。ジェイミー様の周りの人たちとも、仲良くなれるよう心がける。いつものように、私は彼らの役に立ちそうな道具などを譲った。


 遠慮する彼らに対して、これを使ってジェイミー様の苦労を少しでも減らせるように、お仕事に励んでくださいとお願いする。そう言うと、皆さんは嬉しそうに頷いてから贈り物を受け取ってくれた。


 そうこうしていると、ジェイミー様に言われた。


「君がこうしてレイクウッド家に馴染んでくれて、本当に良かった。結婚した後も、きっと問題なくやっていけそうだね」


 彼の言葉に、私の行動は間違っていなかったと確信する。




 そんなある日、ジェイミー様がローゼンバーグ家の屋敷を訪れることに。お父様に挨拶した後、彼を私の贈り物保管室に案内しました。親睦を深めている最中に、彼がここを見てみたいと言ってくれたので。


「これが、噂に聞いていた保管室か。なるほど、凄いな」


 驚いた様子のジェイミー様を見て、私は嬉しくなった。ここに置いてあるのは、私の歴史。色々な人達と交流してきた証であり、大切な思い出の品々だ。


「これは、あの時の――」


 特に思い出深い品を彼に見てもらいながら、私はその思い出を語っていく。


「へぇ、それは凄い」


 ジェイミー様が興味を持ってくれていることが、とても嬉しかった。


「結婚したら、ウチの屋敷にも君専用の保管室を用意しよう」

「よろしいのですか?」

「もちろん! ここにある君の大切にしている物は全部、ウチの屋敷へ持っていこうか。輸送のための費用も出す。だから、遠慮せず持ってきてくれ」

「ありがとうございます」


 面倒だと思われるのではなく、大切にしてくれていると感じて、それもまた嬉しかった。



 そんな会話をしていると、誰かが部屋に入ってきた。


「お姉様、こんな所にいたのね」

「……リリアン、どうしたの?」


 妹のリリアンだった。屋敷にいる可能性は高いとは思っていたけれど、来てしまうなんてね。今は、来てほしくないタイミングだった。


 リリアンは私の横に立つジェイミー様を、ジロジロと眺める。あまりにも無遠慮で失礼な態度に、私は眉をひそめた。


「やめなさい、リリアン。そんな視線を向けるのは失礼でしょう」

「えー! だって、お姉様の新しい婚約者がどんな人か気になるんだもの」

「申し訳ありません、ジェイミー様。妹が失礼なことをして」

「大丈夫だよ。気にしていないから」


 ニコニコと笑顔を浮かべるジェイミー様。彼は優しい言葉で答えてくれたけれど、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 私は、妹の方に視線を向ける。そして、尋ねた。


「それで、リリアン。何か用なの?」

「別に。もう用はないけど」


 じゃあ、もう邪魔しないようにどこかへ行ってよ、と口から出そうになったけど、妹は保管室に置いてある品々に視線を向けている。そして、その中からいくつかを手に取った。


「これ、貰っていい?」


 リリアンが手に持った物を確認すると、私にとって譲ってもいい物だという判断。渡せない物があれば断るつもりだったけれど、それくらいなら仕方ないかと思って、頷いた。


「ええ、いいわよ。持って行きなさい」

「はぁい」


 満足そうな顔で、ようやくリリアンは部屋から出ていった。


 気まぐれなリリアンがふらっとやって来て、欲しいという物を譲る。いつも通りのやり取りだった。




「ふぅ」

「良かったのかい、ヴィオラ?」


 妹の姿が見えなくなった瞬間、ため息を吐いてしまう。ジェイミー様が心配そうに聞いてくれた。


「はい。妹は、あれで満足したようですから」


 私はそう答えたけれど、あまり見られたくない場面を見られてしまったような気がする。その後、私は気分が少し落ち込んでしまった。けれど、そんな私を気遣ってくれたのか、ジェイミー様が次々と話題を振ってくれた。


 彼と会話を重ねているうちに、いつの間にか私の気持ちはすっかり元通りになっていた。

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