第4話 【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

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↓「プロローグ ~とある世界の、とある時代~」

――遥か昔。この世界に挑み、世界のすべてを征服しようとした種族がいた。




たった一種の種族のみで、全種族を相手に宣戦布告し、人々を戦火の渦に巻き込んでいった。




その種族は瞬く間に世界全体の3分の1を支配し、なおも勢力を伸ばそうとする。




その悪魔のごとき者達は、頭上に耳を持たず、手に水かきもなく、シッポすら持っていなかった。




神々より何の祝福も受けられなかった、か弱き種族。しかしその者達によって作り出された魔道具は巨大にして異様。その威力は絶大で山をも吹き飛ばすほどであった。




その種族の名は――人族。




人族は赤い目を持ち、背には黒き翼。暗闇に潜み、人々に恐怖と絶望だけを与えていった。




人族の侵攻を食い止めるべく大陸の6種族が力を合わせ同盟を組み、人族を押し返し始めたとき波乱が起きた。ドラゴンである。




ドラゴン族が人族に与くみしたのだ。




戦場の空を駆け回り、炎を吐き、風を操り、雷を落とした。


ドラゴン族の参戦により均衡が崩れ、世界が滅亡に瀕したとき、一人の勇者が立ち上がった。




勇者は5人の仲間と共に、勇敢に人族に戦いを挑んだ。




聖剣と勇者の盾を携え、伝説のグリモワールを得て、ドラゴンを打ち破った。


仲間と共に困難な旅の末、最後には人族を滅ぼしたのである。




助け出された姫と勇者は婚姻を結び、新たな国を興し繁栄の礎を築いた。





                - 創成神書録 第14章世界大戦より-


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↓「第1話 白い部屋」

【まえがき】


 この小説は現在、改訂中で順次更新しています。


 完結指定されているため、更新の通知等は届かないと思いますが、基本、毎日更新で改訂済みの話を投稿しています。


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 目を覚ますと、そこは白い部屋だった。なんだか酒に酔ったみたいに頭がふらつく。




「ここは、何処だ……」




 立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。


 どれくらい時間が経ったのか分からなかったが、朦朧としていた意識が徐々に覚醒し始め立ち上がり少し歩くと、上の方から語りかけてくる声が聞こえる。かなり若い女性の声だ。




「・・目覚めましたか? あなたは・・この世界を・最後の・・なんとしても・」


「ん~、まだ頭がハッキリしていなくて、よく聞き取れないのだが……。ここは何処で、なぜ俺がここに居る?」




 女性の姿は見えないが、どういう状況なのかまずは確かめねば。まだふらつく頭のこめかみを押さえつつ尋ねる。




「あなたは、・・ここに生まれ直し・・たのです。この世界・人類にとって・・お願いです・人々を救ってください」




 いきなり何てことを言うのだ、この女は!!


 俺が生まれ直した? 転生か? 人類を救えだと!


 いったい何の事だかさっぱり分からないが、俺の聞き違いではないだろう。




 俺は何の特技もない、ただのサラリーマンだぞ……それよりも俺は死んだのか? 記憶を遡っても死んだ憶えはないんだが……。


 いや、待て待て。たしか大きな地震が来て、何か家族が叫んでいたような記憶がある。




 徐々にだが過去の記憶が蘇る。……そうだ、俺は大学をなんとか卒業し第三志望の光学系会社に就職したのは良かったが、希望した研究部門ではなく営業を兼ねた事務職に回されてしまった。




 理系の俺は慣れない仕事をなんとか続けていたが、残業につぐ残業で過労死ラインを彷徨い、家に帰れば泥のように眠る日々が続いていた。


 結婚することもなく実家で暮らし、親や妹達にも心配をかけ続けた。あの日、地震が来ても起き上がることができず、もしかしたら逃げ遅れたのかもしれない。




 最後の記憶では自宅のベッドで寝ていたのは確かだが、その後の記憶が曖昧だ。こんな白くて、何も無い部屋を俺は知らない。




 すると今喋っている女性は女神様か何かなのか? ここは死後の世界か、異世界の入り口か?


 だが体はちゃんと動くし生きている実感もある。これから先、俺は異世界をひとりで生きていくことになるのか!!


 ならば。




「おい! 女神様か誰だか知らないが、人類を救えなど仰々しい事を言うからには、俺に何かチートのような物を授けてくれるんだろうな」




 ラノベの転生ものは読んだことがある。色々なチート能力をもらって異世界で生き抜くという展開があったはずだ。




 何も分からない状態で異世界に飛ばされて、すぐ死んで終わりというのは堪ったものではない。できれば、魔法とか強い武器とか特殊能力とか、もらえるものは何だってもらっていきたい。




「わたしは、この世界・・管理者。わたしの権限では・・あなたに渡す物を・。お願いです・人々を救ってください」




 いや~、だからね。人類を救うなんて無理、無理、無理~、と思っていたら、後ろの方でロッカーのような扉がプシューと音を立てて開いた。




 近づいてみると鞄と剣、それとローブのような衣類がロッカーの中にあった。取り出した鞄の中には鞘に納められたサバイバルナイフや筒状の金属、それと黒い布の袋? 袋の中には何か入っているようだが用途がよく分からんな。




 剣はショートソードのような西洋の剣だ。全てを取り出すとロッカーの扉は音もなく閉まった。


 これで異世界を旅しろと……。だが俺は勇者じゃないんだからな、冒険とかして人類を救うなんてできるわけないぞ。




 転生したと言うなら、どこかの片田舎で庭のある広い家に住みたい。犬とか猫とかペットでも飼って、ゆったり星を見ながら過ごしたいものだ。前世の社畜のような人生は懲り懲りだ。


 ちなみに俺は犬派でも猫派でもない。可愛くてモフモフであれば何でも受け入れるぞ。




「おい! 女神様。これがチート武器なのか。他にエクスカリバーとかアカシックレコードとかチートっぽい派手目な物はないのか」




 そういえば俺の格好も勇者っぽくないぞ。厚手の綿のズボンに、ゴワゴワの長袖シャツ。上着はポケットの付いたノースリーブで焦げ茶色の革ジャケットだ。


 靴は編み上げのショートブーツ……俺は木こりAなのか?




「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ・・この世界を・・ 先にはまだ・・大丈夫です」




 ん~。どうも女神様の声はキンキンとノイズのようなものが混じって聞き取り難い。まだ俺がこの世界に順応していないのかもしれんな。




「あなたに幸多かれと祈っています」




 突然、背中を預けていた壁が音もなく開き、下に向かう通路が現れた。俺はなすすべもなく荷物を持ったまま、滑り落ちて行く。




「うわ~、何だこりゃ~。チュートリアルはこれで終わりかよ~。このダ女神~~」


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↓「第2話 異世界サバイバル1」

 女神様の居る白い部屋から、いきなり落とされ滑り降りた先は、乾いた土の上。辺りは薄暗く3メートル四方ほどの壁に囲まれた狭い場所。




「イテテテ~。何の説明もなくこれかよ」




 柔らかい土の上で助かったが、もっと優しく異世界に案内してもらいたいものだ。少し先には扉のようなものがあり、そこから光が漏れてきているようだな。


 もらった鞄やら剣やらを抱えて扉の近くまで行く。扉は傾いていて下の方が少し土に埋もれていた。




 僅かに開いた扉の隙間から、外の様子が垣間見える。




「森なのか? 木のようなものが何本も見えるが、ここは安全なのか?」




 独りごちてみたが、誰からも返事はない。




 ま~、そらそうか。これからは独りで頑張りなさいということだろうな。


 でもよ~、女神様。この世界について、もう少し丁寧な説明があってもいいんじゃないのか。


 まあ女神様の言うままに、勇者になって世界を救うなんて、まっぴらゴメンだけどな。




 ぶつくさ言ってふて腐れてみたが、実際何もかもが分からないこの世界。一歩外に出てすぐ死ぬなんて事にならないように注意だけはしておかないとな。




 斜めに傾いた2枚の扉、引き戸になっているが一方を少し引いてみると、堅いが何とか開きそうだ。少し体を出し周りの様子を観察してみる。




「ここは山の中か?」




 扉のすぐ外は少し開けた平地のようだが、その先は下っていて木が段々に連なっている。


 周りには動物や人などの気配はない。山の中だが鳥の声さえも聞こえず、静寂が広がっている。




 まずはここを起点にして周りの様子を探って、ここがどんな世界なのかを把握しておかないと。


 扉を押し開いて、警戒しつつ外に出てみる。




「下の方は木が邪魔で、よく見えんな」




 後ろは遙か先に山の頂上が見えるが、相当に高い山のようだ。3000m級の山々なのか、連なっている山頂には雪が積もっているのが見える。




 今の気候は春か秋のようで暑くも寒くもない感じではあるが、この先どのように変化していくのかは不明だ。




「あそこの丘の上なら、周りが見えるかもしれんな」




 草に覆われた丘。あそこなら見通しもいいようだが、その丘に行くまでもちろん道など無い。藪が生い茂った木の間を抜けて進んで行くしかないようだ。




 今手元にあるのは女神様にもらった、ナイフとショートソードだ。藪や小枝を払いながら進むには、このナイフでは少し短いか……。




 「仕方ないな。このショートソードで木の枝を払いながら進んで行くか」




 でもこんな大きな剣は扱ったことがない。俺は小さな頃に空手と剣道をやらされたが、竹刀や木刀とは勝手が違う。




 一応腰に剣を差し、ショートソードを抜いてみるが、西洋の剣など触るのも初めてだ。なんという名の剣か知らんが、ピカピカに光った長さ80cmぐらいの片刃で幅広の剣だ。少し重いが、なんとか片手で扱えそうだな。




 帰り道が分かるように、左右の枝を払いながら道なき道を木の根に躓きながら、何とか丘の上まで登ってきた。




「おお~、ここなら山の麓の様子がよく見えるぞ」




 左手の方に小さな湖が見える。その近くには町のような物があるじゃないか。この世界にも人がいたんだな~、とホッとする。




 麓の町の周りには畑か牧草地帯のような整備された緑地が見える。大勢の人が住んでいるんだろうな。




「町の周囲にあるのは城壁か? 建物も割と多いな」




 遠くて細部まで見えんが、町からは街道のような道も見えるし、他にも町があって頻繁に行き来しているのかもしれん。




「高い建物は見えんな。生活水準は中世ぐらいの感じか? 知っているラノベでもそんな感じだったが、本当に異世界なのかね~」




 山から湖に流れ込んでいる川も見えた。それなら、ここから左手に進めば川が見つかるかもしれんな。


 やはりまずは水の確保だよな。サバイバルの基本だよ。そう思っていると、なんだか喉が渇いてきた。




「確か水筒のような物があったはずだが」




 腰まである草を倒して土の上に敷き、座り込んで女神様にもらった肩掛けの鞄の中身を確かめてみる。




「おっと、これだな」




 金属製の筒はやはり水筒で、その半分以上が凍っている冷たい水を蓋のコップに注ぐ。




「ん~。うまい!」




 久しぶりに動かした体に染み渡るぜ。


 そういや空気もうまいな。山の中だからか異世界で汚染されてないからか、前世の都会とは雲泥の差だ。こんな清々しい場所に来たのはいつ以来だろう。




 しかしここで、のんびりとピクニック気分を味わっている余裕はないか。


 もうそろそろ陽も傾いてきたし、これから先は明日にして一旦さっきの扉の所まで戻るか。




 俺の感覚では日が沈むまで2時間以上あるようだが、余裕を持って行動しないと。この世界の1日が24時間かどうかも分からんしな。




 今来た道を戻る途中、火を熾せるように枯れ枝も拾っていこう。帰りは早く、半時間も歩けば扉の前まで到着していた。


 中に入り扉は少しだけ隙間を開け、光と空気を入れるようにして閉めておく。




 少し落ち着いたところで、もう一度鞄の中を確認してみる。そういえば俺の私物のような物は何もなかったな。


 携帯電話や時計のような物は一切無い。鞄の半分程を占める黒い布製の袋には、白い粉と黄色や緑色の四角い粒、乾燥野菜のような物が混ざっている。




「この粉は非常食のようだな。後は小さな金属の箱の中に医薬品か?」




 薬のような物と包帯があった。鞄の中はサバイバルグッズが詰め込まれているようで、針と糸と布などもあったが、俺に裁縫などできるはずないじゃないかと胸を張る。




 鞄に引っかけていたローブを着てみる。頭をすっぽり覆うフードが付いた、黒に近い濃い藍色のローブだ。


 僅かにキラキラ光っているようにも見える。こんな上等なローブを用意して、女神様は俺を木こりにしたいのか魔法使いにしたいのか良く分からんな。




 だが冷える夜にこれは助かると、ローブにくるまって横になってみる。クッション性もあるし、なかなかの着心地だ。




 ふと上を見上げた。




 俺は、ここから落ちて来たんだよな。登ればまた女神様に会えるのか?


 いやこの急坂を上るのは無理だし、俺を異世界に突き落とした女神様がまだ居るとは思えん。


 白い部屋から落とされた時、真っ暗な中に星のような光が通り過ぎて行くのが見えた。やはり別世界に放り出されたのだろう。




 今日はあまりにも色々なことが起こり過ぎた。これから先、俺は生きていけるのだろうか? 家族は今頃どうしているだろう。


 俺がいなくなって悲しんでいるだろうか。もしかしたら戻れる方法があるのかも……。




 ウツラウツラ考えているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていた。


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↓「第3話 異世界サバイバル2」

 いつの間にか寝ていたようだが、目が覚めると扉の隙間から光が差し込んでいた。




 時計が無いから時間は分からんが、日差しも弱いしまだ明け方なのだろう。隙間から冷たい風が入り込んでくる。




「こんな朝早くに起きるなんて、いつ以来だ」




 いつも時間ぎりぎりまで寝ていて、目覚ましに起こされて慌ただしく会社に行く。そんな生活をずっと続けていたからな。


 そんなことをしげしげ考えているとお腹がグゥ~と盛大に鳴った。そういえば昨日から一食も口にしていなかったことを思い出す。




「食事はどうするか……。とりあえず火を熾してみるか」




 ん……いや待てよ、鞄の中に鍋はあったがライターのような物はなかったぞ。木をこすって火を熾すか……いやいや現代人には無理、無理。




 もう一度鞄の中を探してみると箸にするには太過ぎる金属棒が2本出てきた。これは確か、棒を叩いて火花を出すやつだ。


 ガン、ガンと2本の棒を叩くと、相当量の火花が出てきた。




「これならいけるか」




 地面に落ちている石や土でかまどを作って、昨日帰り道で拾ってきた燃えやすそうな木を置いてみる。少し太いのでナイフで薄く削り木の下に敷いてみた。




「それにしてもこのナイフ、すごい切れ味だな」




 名のある鍛治師が作った業物か?


 金属棒を何度か叩いてどうにか火をつけることができた。




 キャンプ用鍋コッフェルに袋から取り出した粉と、水筒の水を入れて火に掛ける。


 吹きこぼれないようにスプーンでかき混ぜながら見ていると、ドロッとしたおかゆのようなものが出来上がった。




 嗅いでみると米がゆのようないい臭いがして、堪らずスプーンに取って口に運ぶ。




「なかなかに美味いじゃないか」




 塩などの味付けも最初から付いているし、湯戻しの野菜も入っている。久しぶりに食べた食事のせいか、こんな簡単なものでもすごく美味く感じる。


 しかし袋の中にある粉の量を考えると、あと1週間ぐらいしか持たんか。この分だと先に水が無くなる方が早いかもしれんな。




「やはりまずは水の確保からだな」




 昨日行った左手の丘の先には川があるかもしれん、なんとしても水源を確保しておきたいものだ。


 帰りを考えたら半日しか探索できないし、早めに外に出るか。砂を被せ火の後始末をしてから荷物をまとめて外に出る。




 昨日と同じように左手の丘の方向に進んでいく。一度通った道なので枝を払わずに済むのは楽だな。途中からは丘の方に登らず、藪を切り開きながら丘を横目に見てできるだけ直線的に進んでいく。


 丘を過ぎ1時間ぐらい歩いただろうか。しばらくすると川の水音が聞こえてきた。




「おお~。川か」




 うん、うん。やはりこちら側に川があったか。俺は自分の行動が正しかったことに小さくガッツポーズをし、ウキウキと歩を進める。


 小さな坂を下り辿り着いた河原は広く、川自体は幅が4mぐらいか。水深もそれほど深くなく、透き通った綺麗な水が流れていた。




「よし! 水源確保だ」




 最初のミッションコンプリートである。頭の中では、ミッションクリアの音楽が流れていた。




 ここまで扉からは約2時間ぐらいの距離か、何とか往復はできるな。水さえあれば1週間は生き伸びる事ができる。早速水筒に水を入れようとして、その前に少し考えた。


 この川の水はそのまま飲めるのか? 今水筒の中にある水は女神様からもらった綺麗な水だ。これと混ぜると汚染されないか?




「見た目は綺麗な水みたいだし、沸騰させれば飲めるとは思うが……」




 まだ水筒には1.5リットル程の水がある。もう少し減ってから水を汲みに来ればいいんじゃないかなどとグダグダ考えていたら、川下の方から女性の悲鳴が聞こえた!!




 ビクッと飛び上がりながらも川下の方を見ると、岩陰の向こうに大きな獣とその脇に人が倒れているのが見えた。


 グワァ~と血が逆流し髪が逆立つような感じがして、気が付けばショートソードを手に取り獣に向かって走っていた。




「うおぉ~~~」




 倒れている人の足は血に染まり大量の出血をしている。意識はあるようだが動けないでいる。




 走りながら見た獣は虎のような姿ではあるが、異様に牙が大きい。絶滅したはずのサーベルタイガーを彷彿とさせる獣だった。


 そんな非常識な光景を目にしても、俺は倒れている人を助けることしか頭になく叫びながら、倒れた人とサーベルタイガーの間に割って入っていた。




 いくら剣道をしたことがあるといっても、こんな獣を目の前にしたことも殺し合いをしたこともない。


 唸り声を上げる獣を間近に見て恐怖を覚える。だが目を逸らしたら負けだ! その瞬間に襲われてしまう。




 肩はガチガチに堅く、ヒザは少し震えているがサーベルタイガーの目を睨みつけ、震える両手でショートソードを強く握った。




 ――ブゥ~ン 




 突然ショートソードが唸りだした。それを聞いたサーベルタイガーが驚いたのか、丸い両目を見開き身軽な仔猫のように後方に飛び退いた。見事なジャンプで距離をとる。




 この剣の音がよほど不快だったのか、警戒心を露わにし遠くからこちらを睨んでくる。俺がそのまま睨み続けていると、サーベルタイガーは後退りながら森の奥へと去って行った。




 それを見届けた俺の膝がガクッと崩れ落ちた。その場でゼーゼーと荒い息をし河原の砂地に片手を突く。




 死を予感した。




 今も全身から吹き出す汗が止まらない。なぜ俺はこんな無謀な行動を取った!! 自分でもよく分からない。


 だが今は怪我した人を助けることが先決だ。手が震えながらも後ろの人の背中を支えて起こし「大丈夫か」と声をかけた。




 まだ意識のあるその怪我人と目が合ったが、注目すべきは頭上に生えた耳だ。


 犬のような耳が力なく前に倒れている。よく見るとシッポも生えているぞ。犬と言うよりはオオカミ……獣人なのか!!


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↓「第4話 獣人の女の子」

 まだ若いと思われる獣人の娘に驚愕しながらも、足の傷に目をやった。


 左足太ももの上の方に爪で引き裂かれたような傷があり、ズボンに大量の血がこびり付いている。右足も負傷しているのか動けないでいる。




 ――ここじゃ、治療はできんな。あの扉まで運ぶか?




 いやダメだ。距離があるし帰っても寝かせるためのベッドすらない。


 この河原で治療した方がましだ。そう躊躇していると、獣人がこちらを見て苦しそうに何か喋っている。




「☆☆※◇、※○△//※☆※、XX&#☆*※」




 言っている言葉は分からないが、身振りから指差す方に運んでほしいようだ。その方向に家や他の人がいるのかもしれない。


 まずはここで応急処置をして、獣人の言う方向に運んだ方がいいのだろう。


 怪我した獣人をそっとその場に寝かせ、俺は放り出した鞄などの荷物を取りに走った。




 まずは足の血を止めないといけない。鞄の中から布を取り出し、強く足に巻き付けた。


 獣人を背負い、何処に行けばいいのか尋ねたが言葉が通じない。獣人は腕を上げ震える手で指差す。




「こっちか。こっちに行けばいいのか!」




 俺は急ぎ怪我した獣人を背中に担いで下流に向かい、浅瀬で川を渡って対岸に辿り着く。


 獣人の指し示すまま、林に入り少し坂を登ると小さな道に出た。獣人は苦しそうな息づかいではあるが道の右、下る方向を指し示してくれた。




「もう少し頑張ってくれ」




 獣人はそれほど重くなかったが、人ひとりを背負いながら、これほど早く走れる体力が自分にあったのかと驚く。


 火事場の馬鹿力か女神様のチートか分からないが、木の間を縫い山道を下ってなんとか獣人の家らしき場所に辿り着くことができた。




 獣人の家は洞窟なのか、ゴツゴツした岩壁に木でできた扉が取り付けられていた。背中の獣人は、もうグッタリしていて喋ることもできない様子だ。


 これは危ないかもしれない。俺は急ぎ入り口を開け中に入る。




「誰か居ないか!!」




 声を掛けたが反応はない。この家には誰も居ないのか。




 鞄に括り付けていたローブを床に敷き、その上に獣人の娘を寝かせてやるが、苦しそうな息づかいで顔をしかめている。少しでも楽になるよう上着の革のベストを脱がせておく。




 何か、治療に役立つ物はないか?


 部屋には四角いテーブルと椅子、壁には何の動物か分からないが、数匹分の毛皮が吊してあるだけだ。




 右手にはかまどと、水瓶か? 蓋を開けてみるとたっぷりの水が入っていた。


 奥にも部屋があるようだ。女性の部屋を物色するようで気が引けたが、そうも言ってられない。




「ここは寝室か?」




 布で仕切られた奥の部屋にはベッドが2つある。


 その奥には扉があり中は洞窟の壁がむき出しで、動物らしき肉が1本吊してあった。




 棚や大きな箱の中も何か無いか急いで探してみたが、医療品らしき物はない。ベッドのシーツを裂いて包帯代わりにするぐらいか……。


 一方のベッドからシーツを剥がし、獣人の所に戻ってみると浅く苦しい息づかいで、もう意識もないようだ。




「これは、急がないとまずい事になるな」




 かまどに行き、上に置いてある鍋の中に水を入れる。


 箱の中にあったワラを下に敷き、横に積まれている薪を入れて、鞄から火打ち棒を取り出し火を熾す。




 鞄には針と糸があったはずだ。これで傷を縫合しないと出血が止まらないぞ。


 医療経験はないが、できる限りの事をしなければこの獣人の娘は死んでしまう。




 俺は獣人の娘の傷を縫合する決意を固めた。医学の知識はないが、何とかしないと……。




 針に糸を通してから、火にかけている鍋の中に入れて消毒をする。


 沸騰するまでの間、獣人の足を水で洗う。綺麗な水の方がいいだろうと水筒の水で傷口を洗う。


 意識はないが痛むのか、獣人の娘はうめき声を上げている。




「もう少し我慢してくれ」




 膝までのズボンが血で張り付いて固まり、黒く太いシッポも赤黒く血に染まっていた。


 ベルトを外してから獣人の娘をうつむけにし、ナイフでズボンを切り裂いていく。




「すまないな、下着も切らせてもらうぞ」




 深い傷が太ももからお尻のあたりまで続いて、まだ出血している。


 この傷を俺が縫い合わせるのか!




 どうすればいい。裁縫は小学校で習ったか? いや、あんな裁縫とは違う。テレビドラマなどで医者が手術している場面を見たことがあるだろう。




 思い出せ!!




 手を綺麗に洗ってから、沸騰した鍋から針と糸を細い棒を使って取り出す。傷の端で皮膚に針を刺して一針目を縫い、糸がほどけないように縛っておく。




 血で真っ赤な筋肉の組織が傷口から見えて、少し嘔吐えずきそうになるが堪えて二針目を縫っていく。


 縫い合わせるたびにうめき声が聞こえるが、麻酔も無しでやっているんだ。そりゃ痛いだろ。




「すまん! 我慢してくれ!」




 縫合を続けるが、本当にこれでいいのか? 今まで見てきたものを……俺の知識の全てを総動員しろ!!




 消毒はこれでいいのか? 縫い方はこれで? 途中で糸が無くなるぞ。一旦縛って次の糸だ。




 本当にこれでいいのか? 俺で良かったのか? もっと医療について勉強しておけば良かった……。




 泣きそうになりながら必死で傷口を縫っていく。助かってくれ! 助かってくれ!




 ・


 ・




 ……なんとか最後まで縫い合わせることができた。




 まだ血が滲んでいる。鞄の中に軟膏があったはずだ。白いガーゼのような物もあったので、軟膏を塗ってガーゼを貼り包帯を巻いた。


 フゥーと大きな息を吐き、床に座り込む。




 獣人の娘の縫合が終わったばかりで、まだ頭がボーとする。


 いや……まだだ。確か右足も負傷していたはずだ。他にも傷があるかもしれない。俺はいくら疲れても大丈夫だ、回復できる。だがこの娘は下手をすれば帰って来れなくなる。




 獣人の足先は人間とは違い犬や猫と同じように指先を接地し、かかとを浮かせる形だ。足首付近には白い毛が生えていて肉球もある。左足に比べ右足のかかと部分が腫れ上がっていた。




「捻挫ならいいんだが、骨が折れているのかもしれんな」




 細かな骨の構造は分からんが、どちらにしても冷やして固定しなければ。確か湿布は小麦粉で代用できたはずだ。




「非常食の粉を使って何とかしてみるか」




 もうガーゼや包帯は無いので、ベッドのシーツを裂いて非常食の粉をくるむ。それに水を加えて練ってシーツの布に塗りつける。


 腫れた右足首に湿布を貼り、シーツの包帯で巻く。添え木は小さめの薪で足首を固定して縛っておいた。




「他の怪我も確かめんとな」




 血が張り付いた上着のシャツを切り裂かせてもらう。やはり獣人なんだな、首から背中にかけてタテガミのような黒色の毛が生えている。




 肩や胸などにも怪我がないか確かめるが、小さな擦り傷以外に大きな怪我はないようだ。この傷には軟膏を塗っておけば大丈夫だろう。




「よく頑張ってくれたな」




 処置が終わり、獣人の娘をベッドまで運んで寝かせて掛け布団をかけてやる。息は少し楽になったようだが、顔色は良くない。




「何とかできたが、これで良かったんだろうか……」




 まったく自信がない。河原で猛獣と相対した時もそうだったが、死をこんなにも身近に感じたことはない。




 今までにも祖父や祖母の死を見てきているが、そのときは病院の中で家族が見守っていた。


 上司の親が亡くなり、葬式に何回か行った事はある。年をとって亡くなる、これは順番で俺もいずれ死ぬのだろう。だがまだまだ先で、死とは他人事のように感じていた。




 この異世界では隣り合わせの死を感じながら、皆生活しているのかもしれない。


 この娘は獣人だが言葉もしゃべり、家を構えて俺たち人間と同じように生活している。それに俺よりかなり若い、死ぬには早過ぎる。




「何とか助けてやりたいな」




 今まで神様に祈ったことはないが、あの女神様でもこの世界の神様でもいい。この娘を助けてやってくれ。




 陽が落ちてきたのか部屋の中が暗くなってきた。獣人の娘の横で様子を見ていたが、俺も少し休まないと体がきしむように痛い。




 一旦隣の部屋にあった椅子に座って落ち着く。とたんに眠気が襲ってきた。




「今日は色々なことが……、あり過ぎたからな……、明日はもっとちゃんと……」




 俺は眠気に抗うこともできず、ストンと意識を手放した。





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第五話以降はこちらで!!!

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