第3話 魔導具屋のローズ

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↓「プロローグ【地獄絵図】」

「はぁ……、はぁ……」




 闇夜の中で目の前に広がるのは、まさに火の海。




 家々は燃え、瓦礫と化し、その下敷きとなった人々は何かに助けを求めるようなうめき声をあげている。





 ――――地獄絵図だった。





「はぁ……、はぁ……」




 息が苦しい。




 手が痛い。




 頭が痛い。




 痛い痛い痛い痛い…。




 こんな、こんな手なんてなければ…。




 彼女は、意識が朦朧とする中、近くにあった農作業用の斧に右手を伸ばす。




 倒れそうになりながらも、彼女は血の臭いがついた重い斧を振りかざし――――








 ――――――己の左手に振り下ろした。


______________________________________

↓「第1話【老爺と世話係】」

 目を開けると、木目の綺麗な天井が視界に映る。




 顔を横に向けると、棚の上に置かれた花瓶に紫色の花が生けてあった。




〚おはようございます、お嬢様〛




 扉の開く音がしたかと思うと、そこにはメイドが立っていた。




 色濃いルベライトのような赤い瞳、思わず目を引く艶やかな金髪、メイドらしいモノトーンの服装に加え、一つ一つの所作が美しい。




 しかし、外見に違和感こそないものの、少し機械的な話し方だった。




〚少々お待ち下さいませ〛




 それだけ言うと、滑らかな礼と共にすぐ出て行ってしまう。




 頭上にある窓が開いているのか、心地良いそよ風に乗って可愛らしい鳥達の囀り聲が耳に響く。




 体を起こすと、どこからか金属音が聞こえた。




 妙な感覚がする左腕を上げると、包帯でしっかりと固定されている為、状態を確かめる事は出来ない。




 再度ドアが開く音がして顔を向けると、そこには老爺が立っていた。




「こんにちは、お嬢さん。私はホーリーという者だ。危害を加えるつもりはないから、安心して欲しい」




 警戒されていると思っているのか、ホーリーは部屋に入ろうとしなかった。




「体調はどうかな?」




 透き通った緑色の目に優し気な色を宿しながら、人当たりの良い笑みを浮かべる。




 ホーリーの声は、どこまでも安心させるような優しい声だった。




「入っても構わないかい?」




 反応せずにいると、ホーリーはベッドの傍にある椅子に腰かけた。




「少し失礼するよ」




 そういうと、左腕の包帯をゆっくりと取り始め、全ての包帯を取り終わると、彼女の血塗れだった細腕は銀色の義手に変わっていた。




「これ以外の傷は、少し安静にしていないとだけれど、何とかなりそうだ。…しかし、お嬢さんの左腕は、もう使えなくなってしまっていてね」




 全てを治療しきれなかったやるせなさからか、悲しそうに眉を下げた。




「君は、何か覚えている事はあるかい??例えば、名前とか」




 ホーリーの問いかけに、一拍置いてから口を開く。




「…ローズ」




 ホーリーは、笑みを浮かべて言った。




「ローズ嬢か。良いお名前だね」




 ホーリーが廊下に向かって『ポピー』と呼ぶと、さっきのメイドがドアを開けた。




〚お呼びでしょうか、旦那様〛




「しばらくの間、この子の世話をしてやってくれ」




〚承知致しました〛




 そうして、義手となったローズにポピーという世話係のメイドがついたのだ。

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