PDのシミュレーションの点数
14時になり、三城はシミュレーション室にいた。大きな机ほどの箱があり、そこに3箇所穴が空いてある。そこに鉗子と呼ばれるマジックハンドのような棒が突っ込まれている。前には中を写すモニターが吊るされていた。
箱の中には人体の内臓である、膵臓、肝臓、腸などを模したものが設置されており、その状況が前のモニターに映し出されていた。
神羽が大きな箱に片手をもたれかけさせて、説明を始めた。
「三城君、この前やってもらったシミュレーションは簡単な腸の切除だけだ。でも君には今日、これをやってもらう」
モニターに
「以前渡したDVDにもやり方は録画してあったと思うが、難易度が全然違う。これをあと一週間で、60点以上まで持って行ってほしい」
三城は神妙な面持ちで頷いた。
「はい。でもそんなことをして一体……」
神羽はにやりと微笑んだ。
「一週間後は本物の人間でやってもらうからだ」
三城の表情に閃光が走った。
肥後もその様子を後ろでじっと見つめていた。
「いや、私にはそんな……そもそもそんなことして大丈夫なんですか?」
「だから今から練習するんだよ、必死で。ね? 肥後先生」
肥後は腕を組んだまま、少し後ろで立ち尽くしていた。
「三城さん、もちろん不完全なままでそんなことをさせません。あくまで点数が60点を越えられたらのことです。サポートは神羽副院長がしますので、その点はご安心を」
三城は信じられないという表情を浮かべたが、しばらくして意を決すると鉗子を掴んだ。
「お願いします」
神羽が一つ頷くと、肥後に合図をした。肥後はそれを受けてスタートボタンを押した。
*
「まあ最初はこんなもんだよな」
シミュレーションを終え、疲れた表情で機器の前に三城は立っていた。
点数は46点だった。
神羽が立ち上がると、三城の肩にをぽんと叩いた。
「最初にしては上出来だよ。あと一週間で仕上げよう」
そう言って部屋を出た。部屋には三城と肥後だけが残された。
「すみません、お力になれず」
肥後は黙っていた。声をかけているにも関わらず、何も答えない肥後に違和感を覚え、三城は肥後の顔を見た。
目は鋭く、じっと三城の心の奥をのぞこうとしていた。そして冷たい声でこう問いかけた。
「なぜですか?」
三城はえ? と拍子抜けた声をだした。
「何がですか」
「何故、手を抜いたんですか」
三城は数秒間、無表情を浮かべていた。それから小さくつぶやいた。
「おっしゃっている意味がちょっと。私にはこんな難しい手術は——」
「糸の縫い方、腸の扱い方、前半と後半で全然違って見えました。最後はわざと時間をかけているようにも見えましたが」
三城は目線を逸らし、床の一点を見つめたまま何も答えなかった。
「……」
肥後は一つため息をつくと、何も言わずに部屋を出た。
三城はその後もしばらく一点を見つめたままだった。
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