第41話 ブラウン捜査官 現る
靖子と犬が去った後、
たぬきのデカ長は、事態の重さを認めた。
とても、自分達の手に余る事件である。
そして
電信柱の下から黒電話で警視庁に連絡をし、応援を呼んだ。
きっかり3分後に、応援はやってきた。
それは4本足で、白と黒の毛がフサフサの動物である。
だが、それが果たして『何である』のかは判りようがなかった。なぜなら……
上半身と呼ぶべき部分なのであろうか、頭と、前足にあたる部分を、すっぽりズボンが覆い隠し、
逆に露出された下半身、その後ろ足にサスペンダーがかかっている。
『彼』が前進している姿は、4つ足の動物が『後歩き』しているようであった。
「待たせたね」
動物の、尻尾とお尻が、二人のたぬきに話しかけた。
たぬき達は敬礼をする。
「FBIからきた、ブラウン(ぷぅ)……失礼。
ブラウン捜査官だ。(ぷ)……失礼。よろしく」
ブラウン捜査官は、デカ長に後ろ足で握手を求めてきた。
若干戸惑いながらも、たぬきのデカ長は握手に応じると……
「(ぷぷぷ……ぷぅ)……失礼」
たぬきの巡査の方は、鼻を摘んだ。
その仕草を見て、デカ長は巡査の頭を叩いた。
「バカもん! 失礼だろう!」
「すいません」
「いいんだ。気にしないで(ぷぅぅ)……失礼。気にしないでくれたまえ」
たぬきの刑事達は応援で送られてきた刑事に戸惑っていた。
FBIという聞いたこともない肩書きもさることながら、やはりどう考えてもズボンを履いている位置がおかしい。
これでは後まえ……否。上下……が逆さまだ。お尻が喋っている事になる。
戸惑っている二人の空気を感じ取ったのか、ブラウン捜査官は、
「どうか気楽に(ぷぅ!)……失礼。気楽に構えてくれたまえ。
これから我々は一つの(ぷぷ……プリ)失礼。
一つのチームになるわけなのだからな(ぷー)失礼」
巡査のたぬきは鼻を摘んだ。
「では早速仕事にとりかか(ブ!)……取りかかるとしよう(ぷーー)
話は警視庁で聞いてきた。つまりは……君たちの(ぶり)……失礼。
君たちの上司にね。(ぷぷぷーー)
それで私は確信した。これは(ぷぅ)……私が追っている犯人に違いない。」
「あの……」
「何かね」
「さしでがましいようですが、お手洗いなら……そこの家の鈴木さんのお庭を使わせていただくことになっておりますので。
よろしければ御用を済ませてから……」
デカ長がそこまで言うと、
「ハハハ!(ぷう)
わかった。後でそうさせてもら(ぷ)よ。教えてくれてありが(ぷう)
しかし、今は1秒でも惜しいのでね」
……そうは言われても一向に話が頭に入ってこないのだ……デカ長は困ってしまった。
「(ぷ!!)……失礼。話を続けよう。
この事件はね……大変な(ぷーーー)……失礼。大変な事件だよ。
何せ、相手は悪い犯人だ」
「この、『特徴のないパンダ』がですか……」
「そう!(ぷ!!)
……言い換えれば、『パンダ特徴が無い』だ。(ぷ!!)
私はかれこれ……10年やつを追ってい(ぷう!!)……追っている」
「そんなに悪いパンダなんですか?」
「悪くないパンダはただのパンダだ!(ぷう)……失礼」
たぬきの巡査は、事務机の引き出しからガスマスクを取り出して装着した。
それを見たデカ長は、
「あ! ずるいぞお前だけ!!」
巡査のガスマスクを引っぺがそうとしたが、
「何を遊んでいるのかね!!(ぷう)」
と、ブラウン捜査官に叱られ、しゅん としてしまった。
「それで、そのパンダはどんな犯罪を……?」
「うむ。(ぷぅ)……失礼。
そのパンダはな。凶悪な『放屁犯』だ」
「ほうひはん?」
「そうだ(ぶり) 時折、公然猥褻物陳列罪も併せて犯すことがある。
日本ではまだこのような犯罪を取り扱った事がないようだが(ぷ!!)……失礼。
私の国では禁錮30年はする大罪だ」
デカ長と巡査は、長いこと顔をあわせて、黙り込んでしまった。
「どうしたのかね(ぷ)」
「いえ……なんでしょうな。色々と理解が追いつきませんで」
「無理もない(ぷり)。日本の犯罪に対する価値観はだいぶ遅れている(ぶ!!)……からな。
しかし、我々がこうしている間にも(ぷす)奴は(ぷす)街の空気を汚しているのだ!!(ぷす)
自覚があるのか無いのか知らんがな!」
たぬきのデカ長は、シワの酔った眉間に手を当てた。
「それを、ブラウンさんが追っている……わけですか?」
「そうだ!(ぷ!)」
デカ長が巡査の方を見ると、
巡査はガスマスクに顔が隠れていることをいいことに声を殺し、腹を抱えて笑っているようだった。
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